タスマニア派遣を通して学んだこと

シドニー日本文化センター(ホバート)
和田 理以沙

派遣先において期待される役割

 私はオーストラリアの南にあるタスマニア州に派遣されています。
 日本語指導助手(以下、指導助手)はタスマニア州の日本語プログラムをサポートするために小学校、中学校、高校を訪問します。オーストラリアは英語母語話者の日本語学習率が一番高い国とされている一方で、タスマニア州では外国語が必須科目ではありません。そのため日本語はほかの教科と対等に扱われないことがあり、日本語教師にとって働きやすい環境であるとはいえません。指導助手はそんな難しい環境の中でも『生徒に楽しく日本語を教えたい』、『日本の文化を味わってもらいたい』と熱心に教えている現地の先生方を支援するために派遣されています。そして、派遣先において期待される役割は先生方の悩みや課題を共有し、解決に導く手助けをすることです。 悩みや課題は学習者の年齢、土地柄、教師の経歴などによって異なります。そのため、指導助手にはヒアリング能力や現状課題認識能力が必要とされます。
 一人ではまだまだ力不足ですが、上級専門家が問題解決へのアドバイスをくださるので、私自身の挑戦と成長にもなり、大きな学びへと繋がるのです。

達成した成果

 派遣1年目は何をしたら良いかがわからず、目の前にある自分に出来ることを行ってきました。
1校への訪問回数は多くて10回~15回、少なくて1回~4回で、1学期が終わるとまた新しい学校への訪問が始まります。多くの先生方が指導助手の訪問を希望していることはとても有難いことですが、一つ一つの学校訪問回数が少ないのであっという間に訪問期間を終えてしまいます。
 この短期間で課題を見つけ、達成を目指すには授業に参加するだけでは難しいと感じていました。
 そこで、授業に参加するだけでなく、先生方との話し合いの時間を設けてもらうようにお願いをしました。その時間に先生方がどんな問題を抱えているか、どんなアイデアを求めているかなどを聞いて私にできることを提案しました。そして、カリキュラムや授業設計について一緒に考える機会が増えました。ほとんどの学校は教科書を使わないため、先生一人一人が教材を作っています。一人で考えていると授業内容に偏りが出てしまったり、頭が整理できなくなってしまうことがあるので、私が先生方の考えていることを書き出したり、アイデアを共有することでより良い教材作成に協力することが出来ました。
また、ある学校でSDGs×日本語のカリキュラム作成に協力したところ、タスマニアの日本語教師学会で共同発表をすることが決まりました。カリキュラム作成の協力から学会での発表の後押しができたことも大変うれしく思います。

教師向け多読セッションの写真
教師向け多読セッションにて

やりがいや喜びを感じたエピソード

 指導助手は日本語学習者に向けて文化活動を行うことも業務内容の1つです。 学校の要望に沿って、盆踊り、書道、墨絵などのセッションや、寿司やお好み焼きなどの料理を行いました。最初は上手くできるか不安でしたが、学習者が異文化に触れる瞬間に出会い、喜んでいる姿を目にすると頑張ってよかったと嬉しく思いました。それと同時に、自分の知識の浅さも痛感したので、訪問先の生徒や先生方のためにももっと勉強が必要だと思いました。
 文化体験とは少し異なりますが、ある先生から『一輪車に乗れるなら生徒に見せてあげてほしい』という要望があり、小学校で私が一輪車に乗っている姿を見せると生徒は大興奮して、積極的に私に話しかけてくれるようになりました。意外なことがきっかけで交流に繋がったので、自分では特別と思わないことでも喜んでもらえることもあると気づき、今後の活動内容の視野が広がりました。
 日本語の授業のあとに生徒が『日本語の授業でこんなことを学んだ!すごく楽しかった!』と話していたようで、担任の先生や校長先生からも指導助手の訪問について感謝してもらえました。
 学校全体に『日本語を学ぶことの大切さ』が伝わり、沢山の人に喜んでもらえたことは大きなやりがいとなりました。

七五三文化活動の写真
七五三の文化活動

解決すべき日本語教育上の問題点

 タスマニア州では外国語が必須科目ではないため、オーストラリアのカリキュラムの通りに日本語を教えている学校は少ないです。そのため、指導助手のようにタスマニア全体を回る立場としては何を基準にしたら良いかがわからず、どんな支援をするべきか非常に迷います。また、学校や校長先生が日本語のプログラムに理解を示していない場合、ほかの科目と対等な扱いを受けないためさまざまな問題が生まれます。このような環境下で教師のモチベーションを維持することは難しく、日本語教師を辞めてしまう先生も少なくありません。そして、新しい日本語教師が見つからない場合や、学校に日本語プログラム存続の意思がない場合には日本語プログラムは突然なくなってしまいます。これは日本語学習者にとって大きな影響があり、日本語教育上の大きな問題点であるといえます。
 タスマニア州で外国語が必須科目となることが日本語教師や日本語学習者への大きな改善ではありますが、それだけを頼りにするのではなく指導助手として少しでも自分にできることを探し、日本語教育の大切さを多くの人に伝えていくことが問題解決に繋がると信じ、毎日努めています。

今後の目標

 私は派遣されてから約1年と半年が経過したところで、残り約半年となりました。この残りの半年は私が帰任したあとにも先生方が使えるような教材を作成したいと思っています。派遣1年目では、先生方が必要だと思う教材を色々と作ってみました。しかし結局あまり使われなかったものも多くあり、ただ言われたものを作っていてもあまり意味がないことを学びました。これからは先生方の授業スタイルや学習者が求めていることを自分自身でも考えて必要な教材を作っていきたいと思います。それから9月にあるタスマニア州の日本語教師会による学会で2つの発表を行う予定があります。そこで、先生方がこれからの授業に活かせるようないいアイデアを共有したいと思います。

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