ニューヨークの郊外から

クラークスタウン・ハイ・スクール・ノース
其原 依里

クラークスタウンの日本語教育

ニューヨークというと、真っ先に思い浮かべるのはマンハッタンですが、赴任先のクラークスタウンはマンハッタンから車で北へ1時間、緑と湖が美しい郊外にあります。ここでの教育課程は大変充実していて、一般的な科目の他に、それぞれの科目において、アドバンスド・プレースメント・テスト(Advanced Placement Test)に向けて準備するAPクラスや、国際バカロレア資格(International Baccalaureate)を取得するためのIBクラスがあります。また、障害による学習の困難、特別なケアの必要な生徒を支援する特殊教育(スペシャル・エドケーション)もあり、さまざまな教育的ニーズに対応しています。
外国語に関しては、日本での小学校6年生にあたる中学校1年生(Grade6)の時に、4つの外国語を10週間ずつ学び、その後、興味に応じて、外国語を選択します。高校では、スペイン語、フランス語、イタリア語、日本語、ラテン語の他に、アメリカ手話があります。日本語を学んでいる生徒は、中学校で2年間勉強しているため、高校に入学した時点で、仮名の読み書き、挨拶、単文の理解、そして基本的な日本文化の知識などもあります。高校の授業は月曜日から金曜日まで毎日授業(約45分)があり、希望すれば、1年生(Grade9)から4年生(Grade12)まで最長4年間履修することができ、外国語の学習環境としては恵まれています。

高校での役割

高校での日本語教育は、ノース高校・サウス高校を併せ、生徒数が合計74名と小規模ですが、放課後の活動に積極的に取り組んでいる大変活気のあるプログラムです。日本語を学ぶ生徒の半数はアジア系アメリカ人で、家庭では英語以外の言語を話す生徒も多く、授業中は日本とアメリカの文化比較だけではなく、他国の文化、習慣が話題にのぼることもあります。
日本語クラスは、各学年の人数が少ないために、ほとんどのクラスは混合クラスになっており、学年や日本語能力レベルの異なる生徒が一緒に勉強しています。この混合クラスの対応が、私の主な業務となっています。
具体的には、授業計画を立て、授業を行い、配布資料、教室でのアクティビティに使用する教材、宿題プリント、試験の作成、評価など、クラークスタウンの日本語教員と連携をとりながら、一連の流れを担当しています。
初級の段階から、教材を工夫し、語彙や文法をコントロールするなどして、媒介語を使わない直接法で日本語を教えるように心掛けています。最初は、いつも英語で話していた生徒も、次第に日本語で質問するようなり、また休み時間に会った時でも、習った日本語を一生懸命使って話してくれるようになったときには、やりがいを感じます。

和太鼓チーム・国際交流

昨年の冬、学校より助成金を得たのをきっかけに、日本語クラブの生徒が中心となり、ゴミ缶太鼓チ―ムを結成しました。2月にはワシントンD.C.より、和太鼓の先生を招いてワークショップを行い、和太鼓奏者の精神、演奏の基本を教わりました。ワークショップの前には、資材集めやゴミ缶太鼓の製作に協力し、また春に行われる校内イベントに向けて生徒と一緒に演奏の練習に励みました。イベントの当日は、日頃の練習の成果を発揮することができ、生徒の顔には達成感が溢れていました。今年もいろいろな場で和太鼓チームの活動が期待されています。
また、夏には生徒23名と教員とともに、日本政府の招聘事業である「キズナ強化プロジェクト」に引率者として参加しましたが、福島県の被災地を視察し、復興の様子を知ると同時に自分たちに何ができるかを考える素晴らしい機会を頂きました。また、プロジェクトの一環である学校交流では、多くの方々のご協力によって、私自身の出身校である大阪府立夕陽丘高校の訪問が実現しました。学校訪問やホームスティは、生徒にとって思い出深いよい経験となり、帰国後もSNSで連絡を取り合うなど、同世代の繋がりができ、日本を身近に感じているようです。大変嬉しいことに、今後は姉妹校として交流を続けていくことになりました。この交流がお互いの言葉、文化、社会をもっと知りたいと思う動機づけになればと願っています。

人格教育としての日本語

アメリカの公立高校で教えるということは、日本語を教えること以上に、人格教育なのだと実感した1年半でした。赴任前は、学習者が日本文化を理解し、コミュニケーションができるようになることを目標と考えていましたが、高校での仕事は、それ以上に、生徒ひとりひとりが調和のとれた人に成長できるようにサポートしていくことなのだと改めて思いました。クラスの中には、本当に個性豊かな生徒がいますし、学び方も人それぞれで必要なサポートも違いますが、日本語学習を通じて、言葉だけではなく、いつの間にかいろんなことを吸収して、日々成長しています。
また、アメリカの教育現場は、日本や以前に教えていた中国とは教育システム、環境、指導方法も異なり、私の目にはとても新鮮なものに映りました。とくに生徒の得意な分野を引き出す指導方法が印象深いです。たとえば、日本語の課題発表で、テーマが同じ場合であっても、芝居作り、ビデオ制作、紙芝居、作曲と表現方法には多様な選択肢を与え、生徒は自分の得意なものと関連させて、日本語の勉強から学んだことを発表します。
任期も残り半年となりました。子供たちの成長をサポートできるよう、また地域にも日本語、日本文化を普及できるよう努めたいと思います。最後になりましたが、このような貴重な経験を与えてくださったこと、たくさんの方のサポートに大変感謝しています。

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