ワシントン州シアトルの日本語教育事情
ローズベルト･ハイ･スクール
田邉 充博
ワシントン州、シアトルの概要
ワシントン州は18万5千km² （北海道2つ分より更に大きい）、人口は670万人、 州都はオリンピアですがシアトルが経済の中心で,スターバックス本社、マイクロソフト本社、Amazon本社、アメリカの任天堂本社がなどがあります。 アジア系移民が多く、全人口の7．2％を占め、かつては日本人街もありましたが、強制収容のためなくなり、今は中華街となっています。日系スーパー、紀伊国屋、ダイソーもあり、日本食のレストランが多く、日本食は人気があります。
シアトルでは外国語学習が選択必修科目となっています。日本語を選択する学生はアニメ、ゲーム、マンガなどサブカルチャーへの興味からが多いです。ワシントン州の日本語教育は盛んで、シアトル地区、近郊の中学高校では日本語のクラスが開かれています。テキストはAdventure In Japanese (AIJ)という教科書を使用しています。このテキストは文化面の紹介にページを多く割いており、文化面も広く学べる内容となっています。またワシントン州日本語教師会の活動も盛んで、会員は100人を超える規模で、定期的に集まりワークショップを開いています。
受入機関概要
配属機関であるローズベルト高校は教員147名、学生数1710名の公立高校です。ダウンタウンから車で10分のところにあり、 多くの学生は大学進学を希望し、勉学に熱心な学生が多く、また演劇、オーケストラ、ジャズの名門校で、2011年の全米コンクールでは2位に輝いています。
この高校では外国語はスペイン語、フランス語、ラテン語、手話、日本語から選択します。学生は日本語学習を楽しみながら勉強しているようですが、大学進学のスコアのためだけに勉強する学生もいます。テキストは学区共通のAIJを使用し、シラバスはACTFLの21世紀スタンダーズを取り入れ、日本語だけでなく広い視野を養える内容となっています。インターネットで日本のことを調べプレゼンをするプロジェクトトワークも頻繁に行われるので、学生にとって日本を知るいい機会となっています。例年JP1が1クラス、JP2、JP3が2クラスずつ、APが1クラスあり、各クラス20人前後なので約130人程度の日本語学習者がいます。JP1は元JETプログラム経験者のアメリカ人教師が担当し、それ以外のすべてのクラスは日本人教師が担当しています。
受入機関以外の業務
一年目に行った配属先以外での主な業務は以下の3点です。
- 1.近隣ミドルスクールへの定期訪問
週二回近隣のミドルスクールを訪問していました。授業の補助の他、教材の提供や教授法の提案、文化紹介などを行なっています。 - 2.イマージョンキャンプ参加
イマージョンキャンプとは日本語だけ使用して過ごすというキャンプです。参加者はシアトル市内、近郊の高校生で、和菓子づくり、切り絵、判子作り、和太鼓、よさこい、餅つき、クイズ大会など普段の教室では教室ではできないアクティビティが用意されました。 - 3.日本語教育シンポジウムでのプレゼンテーション
日本語教育シンポジウムにおいて交流プログラムとしてのJ-LEAPについてプレゼンテーションをしました。このプログラムは新規のプログラムなのでシアトルの教育関係者や領事館関係者にあまり知られてなかったので、知っていただけるいい機会となりました。
1年目を終えての所感
アメリカの所感と言っても、国土が広く多民族国家であるので一口にアメリカと言ってしまうのは乱暴であるし、定義もできません。シアトルの日本語教育に限定して言えば、日本語教師数も学生数も多く日本語教育は非常に盛んである印象を受けます。
このプログラムのメリットは、授業に2つの視点が持てることです。授業は通常一人で行うものなので、一人だと気づかないことが多々あります。今は教室に常に2人いるので、2つの視点で授業ができ、教材やアイディアもシェアでき、授業がより深いものになっています。学生にとっても男女、違う年代、ネイティブ、ノンネイティブの異なったインプットがあり、いい機会になります。中学校と高校という二つの環境は大変なこともありますが、多様な教え方、アプローチに触れられ、得られるものも多いです。
1年目は教科書にある文型、単語を全て扱っていましたが、それが果たしてアメリカの中高生にとって必要なのか、ここでの日本語教育の意義、ニーズを捉え直したいと思っています。また学習機関が多いため、アーティキュレーションが問題となっています。このギャップを埋めるのが当面の課題です。
写真提供：在シアトル日本国総領事館
写真提供：在シアトル日本国総領事館
写真提供：在シアトル日本国総領事館