Sleepless in Redmond

レドモンド・ハイ・スクール
岡本 拓

常緑の森に囲まれて

派遣されたワシントン州は米国北西部に位置し、気候は温暖で雨が多く、一年を通して自然を感じられる。面積はおよそ18万平方kmで、ちょうど北海道が2つすっぽりとおさまる大きさである。人口は約670万人である。

州内の日本語プログラムは、小学校から大学まで合わせると、70以上の機関で開講されており、全米でも最大級の規模である。そしてそれらのプログラムを支えるのが、ワシントン州日本語教師会(Washington Association of Teachers of Japanese、以下WATJ)である。国内でも最大規模の教師会のひとつであり、日本語教育の発展にむけて、様々な取組みを行っている。

派遣機関であるRedmond High School(以下RHS)は、シアトル市から東に車で30分ほどのレドモンドにある。教師数は100名、生徒数は約1900名である。長年にわたって高水準の教育を提供しており、大学(短期大学含む)への進学率は90%(2012年)を誇っている。RHS日本語プログラムでは、日本語1年~4年とAP日本語の4クラス・5レベルを、リードティーチャー(以下、LT)の先生が一人で指導している。前年度の生徒数は118名であった。『Adventures in Japanese』の教科書をベースに、語彙導入や文法説明のパワーポイントのスライドを使って授業を行っている。

日本語学習のきっかけは、アニメや漫画への関心から来るものが多いが、一方で、継承語として日本語を学ぶ生徒が一定数見受けられる。これには日本文化や経済と結びつきの強い地域性が反映されていて、興味深い。

鋭意作成中…

アシスタントティーチャー(以下、AT)の主な業務は、教科書に沿ったパワーポイントスライドの作成とProject Based Approachの導入に向けての教案作成である。さらに従来の指導内容に加え、視聴覚教材を使用した練習やゲーム感覚で楽しんで学習できるアクティビティを充実させ、生徒のあらゆる学習能力を引き出す授業をつくることである。

  1. (1)AIJ』をベースにしたパワーポイントスライドの教材づくり・試験づくり
    スマートボードにパワーポイントで作成したスライドを映し出す授業スタイルを採用しているため、『AIJBook1・2合わせて30Chapterの全ユニット分(およそ100ユニット)の授業用教材を作成した。それにあわせて全てのChapterテストおよびセメスターテストの試験問題も指導内容に沿うように、修正した。
  2. (2) Project Based Approachの導入
    本取組みは、4年生とAPの上級クラスで実施した。生徒は、習得した日本語や日本文化の知識を総合的に運用し、より実践的な能力を身につけることを目的に、最終的にプロジェクトという形で、学習成果を発表する。教案作成にあたり、ACTFLなどのワークショップで学んだ様々な教授法や教室活動の方法を積極的に取り入れている。

As A Committee Member of the Camp

WATJでは、その目的の一つとして、日本語学習者が普段の学習で得た日本語能力を使って文化に触れたり、外の世界に発信したりすることを通して日本語あるいは日本文化への理解・関心をより深める機会をつくり、提供している。

毎年行われているWashington State High School Japanese Language Immersion Camp (以下、Camp) がその一例である。今年の会場がRHSだったこともあり、LTとともにCampの運営委員を務めた。当日のための会場設営、ボランティアスタッフの募集、Camp内イベント(クイズショー・運動会)の企画・運営を行った。州内9校の高校から85名の生徒が集い、30名のボランティアスタッフの方々と丸一日、日本語だけの環境で、書道や生け花、日本料理、太鼓などの日本文化を体験した。昼食には、参加者たちが自分で作った手作りのカレーと餃子、デザートのどら焼きを食べ、日本の味を楽しんだ。また、日本のトリビアクイズショーや運動会では、各高校の参加者が7つのチームに分かれて、初めて会う者同士が協力し、競い合った。Campを通じて、校外の交友を深めるとともに、教室の中や教科書からでは味わえない貴重な体験をして、生徒たちはとても有意義な時間を過ごしていた。

米国の日本語学習者にこのような機会を提供できたことで、J-LEAPのATとして州の日本語教育に貢献できたと自負している。

WA・和・輪

日本から最も近い米国の大都市の一つがシアトルだろう。シアトルのダウンタウンに赴けば、日本をはじめとするアジア諸国との交易を背景に、この地域が異国の文化や移民を社会の中に取り入れてきた様子を垣間見ることができる。また、近年では、シアトル市内だけでなく、レドモンドを含む周辺地域への各国の企業進出も加勢し、国際色豊かな都市圏が発展している。驚くことに、その中でも日本文化の存在は大きく、歴史的な背景や現代の経済効果が影響していることが実感できる。

米国国内の日本語を含む外国語の教育現場においては、文法偏重や教師が終始「講義」をしているような授業スタイルではなく、より実践的に外国語を運用できるように指導をする、コミュニケーション重視の授業が一般的である。さらに教室活動で使用される教材や教具にも、オンラインリソースが多く活用され、次世代へ向けて外国語教育が進化し続けていることを実感した。

そのような時勢の中で、ワシントン州の日本語教育発展におけるWATJの功績は計り知れない。WATJは30年以上の長きにわたり、同州の日本語教育の発展と日本語教師の育成に寄与してきた。そのため、日本語教師間の結束は強く、日本語教育への熱意がひしひしと伝わってくる。その輪の中でほかの教師の方々からあらゆる知識や情報を吸収できる環境は、新米のATにとって非常に恵まれており、この上なく貴重であると感じる。それと同時に、その伝統を絶やさないよう、「バトン」を次の世代へ繋いでいこうとする使命感が自然に湧いてくる。派遣期間中にできるかぎり貢献したいという思いでいっぱいである。

LTをはじめ、J-LEAPWATJのメンバー、そして日本語教育が盛んなワシントン州という環境に恵まれたおかげで、日本語教師としての最初の一年を全力でやりぬくことができた。また、自身の日本語教師人生が、J-LEAPから始まったことはとても大きな意味があったと感じている。二年目もこの勢いを落とすことなく、全力でATの業務にあたりたいと思う。

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