日本語専門家 派遣先情報・レポート
メキシコ日本文化センター
派遣先機関の情報
- 派遣先機関名称
- 国際交流基金メキシコ日本文化センター
- The Japan Foundation, Mexico
- 派遣先機関の位置付け及び業務内容
- メキシコ及び中米カリブ諸国において、カリキュラム・教材・教授法などに関する助言・支援活動、現場のニーズに応じた教師研修を行っている。教師間ネットワーク形成の促進を行い、各地での自主研修も奨励している。またメキシコ日本語教師会、中米カリブ日本語教育ネットワーク、各地の教師会などとの共催による教師研修、学習者奨励事業も行っている。E-learningプラットフォーム「JFにほんごeラーニングみなと」内の『まるごと教師サポート付きコース(スペイン語)』も実施。日本語教育関係者を対象にSNSを活用して情報発信も行っている。
- 所在地
- Ejército Nacional #418 Int. 207 Colonia Polanco V sección C.P. 11560, CDMX, México
- 国際交流基金からの派遣者数
- 日本語上級専門家1名、日本語専門家1名
- 国際交流基金からの派遣開始年
- 1998年
メキシコ・中米カリブ地域の日本語教育、新しい一歩
国際交流基金メキシコ日本文化センター
栗原幸子、佐藤志穂
メキシコ日本文化センターでは日本語上級専門家が主にメキシコ国内、日本語専門家が中米カリブ地域を担当しており、お互いに協力しながら、この地域の事情に合わせた日本語教育支援に取り組んでいます。
1.メキシコ
1-1. 中核となる教師の育成を目指して
メキシコの日本語教育界で中心的な存在となっていく教師の育成を目的として、2022年秋には日本語ノンネイティブの中堅日本語教師を対象にした研修を行い、参加者の先生方は「アウトプットの機会を増やす」「読みのストラテジー」など、それぞれが選んだテーマでアクションリサーチに取り組みました。2022年度の下半期に実施した日本語教師研修では、アクションリサーチ研修の参加者の先生方が派遣専門家ともに講師をつとめています。
研修で講師をつとめるメキシコ日本語教師会新会長
これまでのメキシコ日本語教師会は日本語母語話者の先生方を中心に運営されてきましたが、2023年3月には、初めてメキシコ人の先生が会長に就任しました。各地域の理事にもメキシコ人の先生方が入り、教師会主催の研修、イベントの開催など活発な議論が行われています。教師会の新会長も、アクションリサーチの研修に参加し、その後、地域別日本語教師研修の講師をつとめた先生の一人です。
1-2. こどものための日本語教育
メキシコでも日本にルーツを持つこどもたちの数が増えてきています。それ以外にも、日本や日本文化への関心の高さから、日本語に関心をもつこどもたちも多く、当センターにも、こどもを対象にした日本語教育機関に関するお問い合わせが良く来ますし、2023年3月に実施した日本文化イベントにも多くのこどもたちが参加しました。また、最近の日本語教師研修の中でも「こどもに教える場合は?」といった質問がよくでてきています。このような状況をふまえ、2023年度は「こどものための日本語教育を考えよう」というテーマでオンライン研修シリーズを実施することにしています。
ここからは中米カリブ地域でのユニークな学習奨励の取り組みをご紹介したいと思います。
2.中米カリブ
2-1. オンラインでの取り組み
中米カリブ地域の先生方がつくる「中米カリブ日本語教育ネットワーク」では、インターネット環境の良し悪しに左右されずに参加してもらえるコンテストを目指し、2022年度は「俳句コンテスト」が行われました。域内9か国39句が集まったところ、見事優勝に輝いたのはジャマイカの学習者の俳句でした。
俳句コンテストオンライン表彰式のポスター
「蚊が歌う ダンスホールと 眠れぬ夜」
続く準優勝はニカラグアの方でした。
「カニの味 味の自由よ 勇気町」
いかがでしょうか。現地のエネルギーが伝わってくるような、生き生きとした俳句ではありませんか。
2-2. オンラインと対面とを組み合わせたスピーチコンテスト
国内のスピーチコンテストも工夫を凝らして行われています。2022年9月に行われた「第5回トリニダード・トバゴ日本語スピーチコンテスト」は、対面実施にFacebook同時配信を加えたハイブリッド形式で実施されました。おかげさまでメキシコに住んでいる私も審査員として参加させていただくことができました。一方、2023年2月~3月に行われた「コスタリカ日本語ビデオ弁論大会」は学習者がスピーチのビデオを撮り送付、それを審査員がオンラインで各々評価する形でした。気になる結果は、対面の表彰式で大々的に発表されたとのことです。両国ともにハイブリッド形式でスピーチコンテストが行われたわけですが、オンラインの採り入れ方、対面で実施する部分はそれぞれ異なっていました。国の状況や学習者、教師の事情に合わせた形を考えてみて、やってみる。実施してみれば、運営側つまり教師の立場からも、うまくいったところ・今後もっとよくできるところが明らかになり、次回はよりよい形で実施するぞというモチベーションに繋がります。先生方の行動力により良いチャレンジの循環が生まれています。
2-3. 対面実施の再出発
キューバとニカラグアではパンデミック前に行われていた100%対面形式のスピーチコンテストが復活しました。残念ながらキューバは渡航が叶わず実際に見ることはできなかったのですが、先生方から、40人近くの出場者を迎えて実施されたとのレポートがありました。ニカラグアでは10人の出場者に加えてそのご家族、これから日本語講座を受講する新入生、講座の修了生も来場され、現場は温かい雰囲気に包まれました。壇に上る緊張感も新鮮で、出場者はオンライン実施時よりもさらに練習に熱が入ったとのことでした。
日本との物理的な距離、経済的な事情などにより、中米カリブの国々から日本へ行くことは決して簡単なことではありません。先生方はいつも、学習者が日本語の勉強を楽しく続けるためにどんなことができるだろう、どうすれば日本語を実地に使うチャンスを増やすことができるだろうとよりよい学習奨励の形を考えてくださっています。JFメキシコからもその実現を後押しできるようこれからもできることを探し、取り組んでいきたいです。