日本語専門家 派遣先情報・レポート
カイロ日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
カイロ日本文化センター
The Japan Foundation, Cairo
派遣先機関の位置付け及び業務内容
国際交流基金カイロ日本文化センターは、エジプト及び中東・北アフリカ地域における文化交流事業の拠点として幅広い活動を展開している。日本語教育支援事業はその重要な柱の一つであり、エジプトを中心に中東及び北アフリカの近隣地域まで視野に入れたさまざまな支援を行っている。日本語教育アドバイザーは、エジプト国内2か所の日本語講座の運営をはじめ、エジプト及び近隣諸国の日本語教師に対する情報提供やコンサルティングなどを行う。また、セミナーなどを開催し、日本語教師のスキルアップを図るとともに、地域連携の強化、相互交流の活性化にも努めている。
所在地
5th Floor, 106 Qasr Al-Aini Street, Garden City, Cairo, Egypt
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年
1998年

中東・北アフリカの日本語教育の現地化に向けて

国際交流基金カイロ日本文化センター
蟻末 淳

みなさん、こんにちは。 国際交流基金カイロ日本文化センター(以下、JFC)日本語教育アドバイザーの蟻末です。エジプトを中心に22の国・地域の日本語教育をサポートしています。日本語教育アドバイザーの重要な仕事の一つに日本語教育の「現地化」があります。現地化とは、その国や地域の日本語教育機関や教師会などが、自分たちの目標や方針、計画を持ち、自立して日本語教育や日本語教育に関わる文化事業を行えるようにすることです。今回は、中東・北アフリカの日本語教育の現地化に向けての試みについてご紹介します。

JFC日本語教師養成講座】

JFCでは中東・北アフリカ在住の方を対象に日本語教師養成講座をおこなっています。現地の日本語教育事情をよく知る教師の養成は日本語教育の現地化にとって最も重要な要素の一つです。日本語学習者にとっても、日本語教師になることはしばしば日本語学習の重要な目標になります。
2020年度及び2021年度はコロナ禍などの理由で新たな養成講座の実施ができませんでしたが、2022年度はオンラインで再開しました。それまでは対面で行われてきたため、カイロ周辺の人しか参加できなかったのですが、オンラインになった今回は、エジプトからの参加者に加え、イラク・モロッコ・パレスチナ・イスラエルからの参加がありました。参加者のほとんどは現地の大学などで日本語を勉強した非日本語母語話者教師です。日本語教師を目指す人もいれば、既に日本語教育に携わっており、改めて日本語教育について勉強したい人もいます。
2022年7月から10月に行われた理論編には40名もの人が参加し、JiTT(ジャスト・イン・タイム・ティーチング)を応用した、宿題として自分でインターネットで調べてくる「非同期」の課題と、ビデオ会議システムを使った「同期」のディスカッションを通じて、学習者中心の日本語教育を学びました。
その後、1月から3月には実習編のコースAが行われ、エジプトやモロッコなどの学習者を対象にオンラインで教科書『いろどり』を使った授業実習を行い、6名が実習を修了しました。更に3月からはコースBが始まり、6名が修了予定です。
日本語教師養成講座のオンライン化によって、中東・北アフリカ全域から、最新のオンライン教育について学ぶ機会ができました。もちろん、対面も含めた実地での経験が必要ですが、他の参加者と協働しながら学ぶことで、日本語教師の養成だけではなく、ネットワーク作りにも繋がっています。

JLEMENA2023 中東・北アフリカ日本語教育シンポジウム】

日本語教育の現地化のためには、日本語の授業をするだけではなく、自分たちの日本語教育の取り組みを発信したり、世界の日本語教育関係者のネットワークを作ることが重要です。現地化することで逆に日本語教育が閉じてしまい、発展が妨げられる危険性もあるので、現地化しながらも常に世界に開かれていることが大事です。中東・北アフリカ日本語教育シンポジウム(通称JLEMENA)は情報発信とネットワーク化の重要なプラットフォームです。
https://padlet.com/jfcairojlea/JLEMENA2023
2021年3月に始まった、このオンラインによるシンポジウムは2023年3月のJLEMENA2023で第3回を迎えました。参加者は事前に発表ビデオを見てから、ビデオ会議システムで、発表に関してのディスカッションを聞くことができます。発表ビデオの視聴時に、質問やコメントなどを通じて発表者とやり取りができるため、時差がある地域からでも気楽に参加できるのが特徴です。また、Padletでアーカイブ化されているため、以前のビデオ発表を見ることもできます。特に、「中東・北アフリカの日本語教育」のセッションは、各国・地域の日本語教育の現状や歴史、課題など、同地域の日本語教育事情を知るための貴重なアーカイブです。今後は、論集も随時発刊されますので、ぜひご覧いただきたいと思います。

【MENA日本語ネットワーク】

中東・北アフリカ地域の日本語教育の情報交換をし、共同でイベントなどを行うために、MENA日本語ネットワークが発足しました。MENAMiddle East and North Africaの略で中東・北アフリカ地域を示します。 2022年度の活動として、JFCが主催する中東・北アフリカ日本語ショートビデオコンテストの共催や、JLEMENA2023の国別発表などを行いました。そして、新しい試みとして、MENA日本語ネットワークのメンバーが自主的に、中東・北アフリカの学習者によるブログ「MENAのヤバニカ」を立ち上げました。ヤバニカはアラビア語で日本を表す「Yaban」から作られた造語です。
https://yabanika.blogspot.com/

2022年度中は、「夏」と「冬」をテーマに、イラク・ヨルダン・レバノン・モロッコ・パレスチナ・アラブ首長国連邦から、何と60以上の学習者の作品が掲載されました。各国・地域の夏と冬の風物詩や習慣などを、現地の学習者が写真やイラストなどで紹介しています。ぜひご覧ください! 今後のアップデートもお楽しみに!

ブログ「MENAのヤバニカ」のスクリーンショットの写真
ブログ「MENAのヤバニカ」から

【モロッコ日本語文化協会】

モロッコ日本語文化協会はモロッコの現地教師によって2022年夏に設立され、同年12月に日本語能力試験(JLPT)、2023年3月に日本語弁論大会を実施しました。コロナ禍で日本人教師が減る中、現地の先生方が積極的に活動してきた結果です。モロッコには日本語専攻を持つ大学がなく、日本語以外の勉強や仕事をしながら日本語を学習する人がほとんどです。そして、日本語の先生も多くが他に仕事を持っています。その中で、自分たちの力で協会を立ち上げ、日本語教育に尽力する姿は、中東・北アフリカ地域においての現地化のモデルケースとなるでしょう。

モロッコ日本語文化協会主催の日本語弁論大会のフライヤーの写真
モロッコ日本語文化協会主催の日本語弁論大会のフライヤー

以上、「現地化」の観点から中東・北アフリカの日本語教育を紹介しました。この地域は世界の中でも日本語学習者が少ない地域ですが、それぞれの地域で工夫をしながら日本語教育を行っています。今後もぜひご注目いただければ幸いです。

What We Do事業内容を知る