日本語専門家 派遣先情報・レポート
土日基金文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
土日基金文化センター
The Turkish-Japanese Foundation Culture Center
派遣先機関の位置付け及び業務内容
 トルコにおける日本文化紹介、文化交流の中心として設立された機関。センター内の多目的ホール、セミナーホールではさまざまな文化事業が行われる。図書館には1万冊以上の日本語の蔵書・視聴覚教材が揃い、日本に関する情報収集の場としての役割も果たしている。
 専門家は、同センター内日本語講座の担当をはじめ、コース運営の支援、文化行事への参加協力を行う。このほか、トルコ国内の日本語教育機関、日本語教育関係者、日本語学習者に対する支援・協力、日本語能力試験、弁論大会の実施協力、その他国際交流基金プログラムに関する案内などを行い、トルコ全体の日本語教育の発展に努めている。
所在地
Ferit Recai Ertugrul, Cad. No.2 Oran, 06450 Ankara
国際交流基金からの派遣者数
専門家: 1名
日本語講座の所属学部、学科名称
土日基金文化センター 日本語講座
日本語講座の概要

トルコ・シリア大地震、被災地で通訳ボランティアとして活動した日本語講座受講生の語り

土日基金文化センター
森林 謙

 2023年2月6日午前4時17分、トルコ南東部で大地震が発生しました。当日午後1時24分、二度目の地震では人々が活動する時間帯であったこともあり、震源から600kmほど離れたアンカラでも揺れが感じられ高層階では数分続くほどでした。
 多くの地震発生時がそうであるように、発生直後は現地の様子や情報というものはなかなか伝わってきませんでしたが、時間が経つにつれテレビ各局による現地中継が増え始め、崩壊した建物や現地の混乱ぶり、惨状が明らかになっていきました。各被災地域からの中継は全局で連日連夜、24時間続き、被災地の状況に居ても立っても居られないもどかしさや重苦しさに社会全体が覆われました。
 このような状況下、日本からはJICAによる国際緊急援助隊(JDR)の活動が始まりました。JDR医療チームの活動には、トルコ各地から大学生や社会人など多くの人々が参加しましたが、土日基金文化センター日本語講座からも5名の受講生が通訳ボランティアとして現地に赴きました。
 以下、JDR医療チームの活動に参加した5名の感想をまとめてみました。

活動場所・期間:

 5名全員が被災地の一つであるガジアンテップにて活動。活動参加期間は5名それぞれ異なり、2月22日から3月21日まで、このうち7日間から最長で25日間滞在。

参加の動機:

 「被災者の支援」「(人として、トルコ人として)自分自身のため」「被災地で活動する日本人の役に立ちたい」など。
 「救援物資を買って送ったり、寄付をしたりするだけではなく、個人として被災された方々のために何かしたいと思いました。私はすでに通訳者として勤めており、医療通訳を含む通訳のトレーニングを受けたことがあり、英語と日本語(中級レベル)が話せるので、通訳ボランティアとして貢献することが丁度いいと思いました。(原文ママ)」

土日基金文化センター受講生、通訳ボランティアの写真
土日基金文化センター受講生、通訳ボランティア

活動に参加した印象:

 参加した全員がJDR医療チームの活動の様子や人間性の素晴らしさ、そのような人々とともにした経験と意義について述べている。
 「地震の影響で、医療サービスを受けることが困難になった被災者の方々と、支援のために日本から来てくれた日本の医療チームの方々のコミュニケーションを円滑にするお手伝いが出来たことがとてもよかったです。この活動では、トルコの通訳者や日本の医療チームのメンバーなど、とても素晴らしい方々に出会い、一緒に仕事をすることができて、困難な状況であったにもかかわらず、連帯感を持ち、よい目的のために協力する精神を体験できて、よかったです。(原文ママ)」

日本語学習に対する意識の変化

 JDR医療チームのすばらしさ、そのチームの活動に通訳として参加できたことは、人としての成長にもつながり、自身の日本語に対する自信も高まった、という意見が多くみられた。
 「言語学習で最も大事なことはその言語を体験することだと考えるようになりました。どれだけ勉強しても実践経験はなければ意味がありません。(原文ママ)」
 「ガジアンテップに行く前は、ずっと中級レベルで止まっていて、もっと頑張って勉強するモチベーションが持てなかったので、プロの環境で日本語を使うことは、日本語を勉強する大きなモチベーションと刺激になり、目的を持つことができました。(原文ママ)」

活動参加による自身の変容

 「現地に行くまでは、悲観的で重い気分だったが、JDR医療チームの活動を通じてすばらしい人々と出会い、感謝の気持ちで満たされた」「自信を得た」「困難な状況で働く能力を獲得した」「日本人は私たちにとてもよく親切に対応してくれました。特に私たちはプロの翻訳者ではないので難しいこともありましたが、とても理解してくれて、思いやりを持って対応していただきました。この経験から日本語を選んだことはわたしにとって正しいことが分かりました。」
 「このボランティア活動は、私にとっていろいろな意味で大きなチャレンジであり、自分のコンフォートゾーンから抜き出すことが必要でした。ですから、無事に仕事を終えて帰って来たことは、私の自信につながり、人間的にも成長することが出来ました。(原文ママ)」

JDR医療チームのテントの写真
JDR医療チームのテント

 その他、日本語母語話者でも日常的に耳にしないような医療用語への戸惑い、通訳ボランティアとしての役割を果たせたのかどうかという自問自答、仕事に必要な能力と責任の重さ、その役割についての再認識などさまざまな意見やコメントがありました。
 海外における日本語学習は、漫画、アニメ、映画、小説などいわゆる日本文化に対しそれぞれの学習者個人の異なる興味関心からスタートし、それぞれの動機、趣味嗜好に合わせて自身を満たすためのものであり、個人的なものとして位置づけられがちなのかもしれません。
 しかし、通訳ボランティアという活動への参加とそこでの経験は、自身の社会的役割や意義、社会的存在であることについての気づきや捉え直しにつながり、このような社会的活動を通じて日本語学習の目的や意義といった日本語学習観へも影響したようにうかがえます。さらに、通訳ボランティアとして参加した人々によるネットワークも形成されるなど、震災をきっかけに新たな絆も生まれているとも聞いています。
 これらについては、日本語という言語教育に携わる一人として教育の目的と意義、可能性を考える上で非常に興味深いものがあります。
 余震に対する不安、寒冷地、夜間の気温低下、慣れない屋外活動、非日常的な環境における仮設テント生活、体調不良などを乗り越え、5名の受講生が無事にアンカラに戻ってきたことに、日本語講座の担当者として安堵しています。そして、通訳ボランティアとして参加した受講生のサポートをしてくださった関係者の皆様に御礼を申し上げたいと思います。

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