世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)3人の専門家で中国大陸を!

北京日本文化センター
王崇梁、藤井舞、大脇元

北京日本文化センター(以下、当センター)では、2019年10月に一般の学習者向けに『まるごと 日本のことばと文化』を使用した体験講座を実施しました。その講座で使用したスライドのタイトルは「轻松日本购物爆买无障碍(これで爆買いも大丈夫)」でした。世界的な新型肺炎の流行前まで、日本では訪日中国人観光客の報道が目立っていましたが、中国は日本語学習者、日本語教師とも世界で最も多い国(教育機関に所属している学習者は約100万人、教師数約2万人で、いずれも全世界の4分の1を占めています!)で、日本や日本文化に関心をもってくれている層がとても広いのです。日本語教育について例を挙げると、高考(中国の大学入試統一試験)では、外国語科目で英語以外の言語では日本語を選択する受験者が最多。日本文化、日本文学を含む日本語関連の学会や日本語教材を扱う出版社による教師研修会も多数開催されています。日本の大学との交流も盛んで、日本で学位を取得している先生も多く、ほかの国と比べても成熟した日本語教育の環境があります。

そのような環境の中、当センターの派遣専門家は高校や大学の教師研修会で、「異文化理解能力の育成」、「学習者発見型」や「課題遂行型」についての教授法研修を継続的に実施してきました。先生方は自身が日本語を習った時の状況と現在の学習者や学習環境との違いに悩みつつ、新しい教授法や、昨今中国政府が盛んに発表・改訂を行っている教育スタンダードの掲げる理想を教育実践に取り入れようと努力されています。

これらの活動については当センターHPにも掲載されています。また、近年経済や社会の変化も早い中国で、新たなニーズを捉えた事業展開を絶えず図っています。ここでは、2019年に新たに始まった3つの事業についてご紹介したいと思います。

第1回全国高等職業学校日本語教師研修会

現在、中国では約180の高等職業学校(3年制職業短期大学)に日本語専攻の学科があります。しかし、こうした職業学校向けの日本語教師研修会は、これまでありませんでした。そのため、当センターは中国教育部(日本の文部科学省に当たる)所属の「高等職業学校外語類専業教学指導委員会日韓分委員会」と協議した結果、第1回全国高等職業学校日本語教師研修会を広州で共催する運びとなりました。二日間(2019.12.07-08)の研修会には中国各地の高等職業学校から45名の日本語教師が参加しました。研修会では、学習者中心、コミュニケーション重視の教え方をめぐり、東京工業大学の平川八尋准教授、天津外国語大学の修剛教授、李運博教授らが基調講演を行いました。また、『生活日本語のための教材(『いろどり:生活の日本語』の当時の仮称)』の使い方紹介や参加者による模擬授業も実施しました。事後アンケート調査で参加者の本研修会に対する評価が非常に高かったことから、今後も本研修会を継続することとなりました。

中国の研修では記念撮影がつきものの写真
中国の研修では記念撮影がつきもの

中等日本語教育授業教案コンテスト

私たちが行っている研修会には多くの先生方が参加してくださっています。「研修会に参加した!良かった!」で終わるのではなく、研修会で学んだことを実際の授業に活かしてもらうために、中等教育機関の日本語教師を対象に「中等日本語教育授業教案コンテスト」を実施しました。

応募者には、今までに自分が使用した教科書の中から課を1つ選び、研修会で学んだ内容を活かして教案を書いてもらい、当センターの日本語専門家が審査をしました。コンテストの結果については「つながる日本語教育サイト」で発表しています。

入賞者のうち4名は国際交流基金日本語国際センター(埼玉県さいたま市)で実施された「中国中等学校日本語教師研修」にも参加し、多くの学びを得ました。研修会で学んだことを活かして様々な工夫が凝らされた教案が多く、先生方の意欲を感じられるコンテストとなりました。

日本語教授法ワークショップ(大連)

国際交流基金が2020年3月に公開した『いろどり:生活の日本語』(以下、『いろどり』)の公開に先駆けて、そのサンプルを素材にした教授法ワークショップを2020年1月に大連で実施しました。『いろどり』紹介やJF Can-do等の紹介に加えて、研修参加者に学習者役になってもらって当センター講師が行った模擬授業や、教案作成のグループワークを実施しました。大学のみならず、民間学校や通信教育を含む多様な日本語教育機関の日本語教師が一緒に参加し、グループワークをするという初めての教師研修でした。学習者が関心を持てるような新教材についてのニーズが大きいことや、文法や語彙の説明から始めて理解の確認・定着のための練習に進むという「文法積み上げ式」の教え方との違いからくる戸惑いがあったり、他の教育機関の先生との交流の貴重な機会になったり、様々な感想やコメントがありました。中等や高等教育機関以外の先生にアプローチする初めての機会であり、これからできる業務の広がりを感じられる研修でした。

模擬授業も熱が入りますの写真
模擬授業も熱が入ります

最後に、当センターでの取り組みは参加者が200名を超える中国全土を対象とした研修から、ごく小規模なものまで様々ですが、地道に続けていけることがここで働くことの大きなやりがいになっています。遠い地方からはるばる北京の研修に参加してくださった先生と別の学会や研修会等で再会するようなことがあると、本当に嬉しくなります。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Beijing
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
中国の日本語教育事情についての情報収集のほか、中国各地で教師研修会を実施し、カリキュラム・教材・教授法など日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。教師研修については、大学研修(全国大学日本語教師研修会)地域巡回日本語教師研修会、全国中等日本語教師研修会、全国中等教育二外日本語教師研修会に加え、新たに日本語専攻以外の大学日本語教師、職業専門学校(全国高等職業学校日本語教師研修会)、日本語学校等(大連日本語教授法ワークショップ)等、対象も広がりつつある。また研修会やコンテスト等の企画について、HP以外にもSNSを活用して情報発信を行っている。
所在地 #301,3F, SK Tower, No.6 Jia Jianguomenwai Avenue, Chaoyang Beijing, 100022 CHINA
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年
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