世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)学びと気づき、共有の場を作る

香港日本語教育研究会
斎藤 誠

香港に派遣される日本語専門家(以下、専門家)の業務は様々ですが、中心的な業務は、香港・マカオの日本語の先生方に研修・ワークショップを行ったり、機関訪問をしたりして、教師スキルのアップデートと教師間ネットワーク形成のお手伝いをすることが挙げられます。2019年度のレポートでは、8か月にわたる「集中日本語教師研修(以下、集中教師研修)」やマカオでの初めてのワークショップについてお伝えしましたが、他にも様々な機会にワークショップを実施しています。今回は2019-20年度に実施したワークショップの中から、「学び、気づき」を参加者間で共有することを目的としたものをご紹介します。

1.「やさしい日本語」ワークショップ(2019年4月)

このワークショップでは、誰にでも伝わるわかりやすい表現とは何か、をテーマに、多文化間コミュニケーションツールとしての日本語を意識した活動をしました。どんな表現がわかりやすいのか、よりふさわしい言葉を探す活動は、普段使う日本語を意識していないと難しいものです。参加者には日本語教師だけでなく、一般の在港邦人、日本語が母語でない方もいらっしゃり、喧々諤々議論しながら一緒になってタスクに取り組みました。後日、香港日本人商工会議所からもお声をかけて頂き、同所の定期勉強会でもワークショップを開催しました。参加者アンケートから、日本語母語話者が普段気づかない「日本語」のコミュニケーションについて、わかりやすく伝えることの重要性と難しさに気づく機会となったことが読み取れました。

「日本語教科書Café」の様子
「日本語教科書Café」の様子

2.「日本語教科書Café」で語り合おう(2019年10月)

派遣先の香港日本語教育研究会(以下、研究会)で、専門家の執務用図書として所蔵している日本語教科書50冊以上を机の上に並べ、参加者みんなで立ち読みするという企画です。香港には日本で出版された日本語教科書を扱う書店もありますが、教育現場で使用している教科書は種類が限られます。26名の参加者には高校生、日本語教師の卵も含まれます。1人2、3冊の本を手に取り比較して、グループになって互いの情報や、気づきの点を共有しました。参加者アンケートで頂いたコメントには、教科書についての学び、気づき以外にも、「グループでのシェアは、自分では見ないような教科書の情報も知ることができてよかった」(アンケート原文ママ)など交流・共有への評価コメントも多くありました。

2019-20年度集中日本語教師研修グループ作業中の場面
2019-20年度集中日本語教師研修グループ作業中の場面

任地でご活躍の日本語教師は、毎日の授業時間がとても多く、日々の授業で手一杯という人も多いです。ここでの専門家の役割の1つは、前述の通りブラッシュアップの機会提供とネットワーク形成です。セミナーやワークショップなどの研修機会は、香港ではそれほど多いわけではありません。2020年に入り、オンライン研修が増えたことで、他国・地域の先生が香港派遣専門家の開催するオンライン・ワークショップに参加できるようになり、当地の先生にとっても世界が広がった気がします。香港の日本語教育を海外に発信する機会にもなっています。そんな中で得た「学び」「気づき」を日々の授業に還元することで、明日の香港・マカオの日本語教育がより良いものになればと願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Society of Japanese Language Education Hong Kong
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1978年に香港大学、香港中文大学、香港理工学院(現:香港理工大学)、在香港日本国総領事館日本語講座(現:香港日本文化協会日本語講座[以下、文化協会])の日本語・日本文化の教師を中心に創立、2005年5月文化協会から独立、2007年NPO化。シンポジウム、セミナー、教師研修開催、機関誌『日本学刊』発行等の日本語教育関係者支援事業、小中高生日本語スピーチコンテスト、文化祭、奨学金等の日本語学習奨励事業、日本語能力試験現地運営(香港・マカオ)等を行なっている。
専門家業務内容は、研究会各事業への協力、香港・マカオの日本語教育機関に協力しての日本語教育支援の他、教師研修実施やネットワーク形成支援等。
所在地 Rm701-2, 7/F, Marina House, 68 Hing Man Street, Shau Kei Wan, Hong Kong
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2006年
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