日本語専門家 派遣先情報・レポート
国際交流基金北京日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金北京日本文化センター
The Japan Foundation, Beijing
派遣先機関の位置付け及び業務内容
中国の日本語教育事情についての情報収集のほか、中国各地で教師研修会を実施し、カリキュラム・教材・教授法など日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。教師研修については、地域巡回日本語教師研修会や大学日本語教師教授法集中研修会、日本語教育学実践研修のほか、出版社の主催する研修会や大会に出講するなども行っている。
所在地
#301,3F, SK Tower, No.6 Jia Jianguomenwai Avenue, Chaoyang Beijing, 100022 CHINA
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年
1999年

この数年の中等日本語教育環境の変化に対応して

北京日本文化センター
池津 丈司  田邉 知成  佐久間 司郎

中等日本語教育機関学習者数の激増

 国際交流基金では3年に1度世界の日本語教育機関調査をおこなっていますが、2022年10月に最新の2021年度調査の結果が公表されました。結果中国の日本語学習者数は1,057,318人、2018年度の前回調査より5万人ほど増加しました。これは2018年度調査の結果が出たときから見え始めていたことですが、全体的な傾向では日系企業の撤退(いわゆる「チャイナ・プラスワン」の流れ)や昨今の日中関係の厳しさを反映して減少傾向にあるものの、突出して中等教育段階での学習者の急増が見られます。今回2021年度調査でも中等教育段階での学習者数は335,876 人(前回調査90,109人から24万人増)と3.7倍に増加しているのがわかります。
 これは日本でも報道されていましたが、中国の中等教育機関で日本語学習者が激増しているのは、国内の厳しい大学入試を勝ち抜くため、英語よりも文字的語彙的に馴染みやすい日本語受験に切り替えさせることで高得点を狙おうという受験生が急増したという経緯があります。
 受験生の保護者からの突き上げや、補習をおこなう民間学習塾の存在など、さまざまな思惑で日本語受験が広がっていったようですが、一部の地域では行政が主導して特に英語教育で十分な成果が期待できない山間地域の学校に日本語受験を推奨したところもあるようです。そのような経緯もあり現状多くの日本語教師たちは中国各地の中等教育機関に点在し、孤立している教師が多く、教師のための勉強の機会がなかなか持てないのが課題となっています。しかもこの3年間で学習者が24万人増加したということは、この3年間でそれ相応の新人教師が採用されていることを意味しますから、現在中国の中等教育機関には相当数の教育経験3年以内の先生方が日々新しい授業の準備に奮闘していることになります。しかもその先生方は大学でしっかりと外国語教育学について学んだ先生ばかりではないでしょう。中には日本語には自信があるけれど、教え方や教室運営についてはどうしてよいかわからないという悩みを抱えた方もいらっしゃるはずです。
 時は折しもコロナ禍の真最中。我々北京日本文化センターでも、対面式の教師研修などがおこなえず苦悩し続けていた時期でもありました。中国側主催の全国研修会にも当センターとして参加できなくなり、何か次の一手を考えていたところでした。そこで、オンラインでしか教師研修がおこなえないという状況を逆手にとって、中国全土に散らばる教師経験3年以内の初任者教師たちを対象にした全国規模の研修をおこなえないかということになったのです。

2021年度海外日本語教育機関調査冊子の写真
海外の日本語教育の現状-2021年度海外日本語教育機関調査より

中等日本語教師初任者研修の実施

 今回この教師経験の浅い初任者を対象とした一定期間のまとまった研修を企画するにあたり、多忙な教師たちの余暇時間を効果的に使うにはどうすべきかと考えたときに、平日夜週1回90分というものが漠然と浮かびました。誰でも気兼ねなく参加できる研修にするためにはこの程度が限界ではないかと考えたのです。期間もあまり長期にはできないと考え10週間という計画を立てました。そして2022年10月開講予定で、同9月にセンターホームページ上で公募、各種SNSで告知しました。
 参加条件は経験3年以内としていましたが、50名としていた定員に対して177名から応募があり、部内で話し合った結果、初回は経験2年以内の教師79名に限ることとし、経験3年の教師には中国の春節休暇が明ける2月中旬から再度10回のコースを開講することとなりました。
 この10回のコースの内容を考えるにあたって、最低でもこの内容、そしてこの内容は入れたい、と考えていくと、コマはすぐに埋まっていきました。各四技能に関しても、それぞれ基本的なエッセンスだけを考えたとしても扱いたい内容は相当なものになります。当初はお互い顔の見える双方向的な進め方を考えていたのですが、結局時間的制約から一方向的な講義形式になってしまいました。ある日、小さな話し合いの時間を持たせたところ、「自分は今移動中だから」とマイクをオンにしない参加者がいました。また別のある日、参加者の消音ボタンが不意に外れたのですが、そこからは小さい子どもの声などの生活音が響きました。それぞれの参加者がそれぞれの環境で参加してくれていることを考えると、夜の19:30~21:00、講義型で発信していくのが一番現実的な方法なのかと考えさせられました。結局177名に参加許可を与えたものの、修了条件である7回以上の参加を得た方は10月開講コースが35名、2月開講コースが33名でした。開講後一回もコースに参加しなかった方も都合57名いて、告知から実施までの参加者歩留まりの予測などいろいろと再検討課題もありましたが、幸い修了者からは高い評価を得ることができました。
 2023年度もまた公募を予定していますが、修了者の数が一定程度になれば、今度はその方たちを対象とした次のコースを企画してもよいかなという意見も出ています。

教師研修日程の写真
2022中等教育日本語教師初任者研修10月開講コースの日程

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