日本語専門家 派遣先情報・レポート
香港日本語教育研究会

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
香港日本語教育研究会
Society of Japanese Langugae Education Hong Kong
派遣先機関の位置付け及び業務内容
香港日本語教育研究会は、2005年5月に事務所を設立、2007年9月に香港政府よりNPO法人非営利団体として認められた。香港及び周辺地域の日本語教育、日本研究の発展に寄与する交流の場として、さまざまな活動を展開している。専門家の業務には、香港及びマカオにおける日本語教育アドバイザー業務と基金の日本語事業の実施と協力がある。前者には、日本語教師研修コースの設計・運営、講義実施、現地講師への日本語教育指導、日本語学習者支援事業(弁論大会等)への協力、日本語教師のネットワーク形成支援などがある。一方後者は、教育施策などに関する調査、JF日本語教育スタンダードの普及、日本語能力試験実施への協力などである。
所在地
Rm.701-2,7/F., Marina House,68 Hing Man Street, Shau Kei Wan, Hong Kong
国際交流基金からの派遣者数
専門家1名
国際交流基金からの派遣開始年
2005年

―香港日本語教育研究会主催 第17回香港小中高生スピーチコンテスト―

香港日本語教育研究会
伊達 久美子

2007年9月に香港政府よりNPO法人非営利団体として認可された香港日本語教育研究会(以下、研究会)は、香港及びマカオの日本語教育、日本研究の発展に寄与する交流の場として、さまざまな活動を行っています。例えば、国際シンポジュームセミナー、日本語教師研修セミナー、集中日本語教師研修、日本語能力試験の実施、香港日本語教育研究会奨学金の授与、香港小中高生スピーチコンテスト(以下、スピーチコンテスト)の開催などです。香港における国際交流基金派遣専門家(以下、専門家)は、こうした活動を支援しながら日本語教育に関するアドバイザー業務を行っています。 香港には老若男女を問わず、日本や日本文化、日本語に興味を持ち、日本人よりも日本国内を旅行して、その場所に精通している人がたくさんいます。そんな日本通の多い香港で、研究会主催の年少者への日本語普及を目的とした「中高生によるスピーチコンテスト」が2005年に開催され、2013年からは、小学校における日本語学習を奨励する目的で小学生の暗唱の部も開催されました。以来このスピーチコンテストは、小学生による詩の暗唱の部、中学生による朗読劇及び詩の暗唱の部、高校生によるスピーチの部の4部門から構成されています。

受賞者への賞状とトロフィーの写真

第17回スピーチコンテストは、コロナ禍の影響で予選、本選ともオンラインで実施されました。専門家も審査員の一人として予選、本選の審査を担当しました。6月18日の本選に進んだのは、小学生暗唱の部は7名、中学生朗読劇は3グループ、暗唱の部は6名、高校生スピーチの部は6名でした。そして本選での厳選な審査の結果、各部門の受賞者が決定し、8月20日に在香港日本国総領事館岡田健一総領事(大使)を研究会にお迎えして表彰式が行われました。表彰式では、各受賞者による発表も披露されました。

今回ご紹介するのは、高校生の部のスピーチコンテストで受賞した発表についてです。第3位に入賞したAさんは「自分のための言語学習―あなたはできていますか」という演題で、文法学習の重要性を説く母親と漫画やアニメ、ドラマから独学で学んでいる自分との軋轢と歩み寄りを振り返り、日本語学習法の多様性を語りました。第2位に入賞したBさんの演題は「夢がない人へ」です。Bさんは夢や目標がない自分への苛立ちや劣等感、言いようのない不安から生じるストレスで悶々とした毎日を過ごしていましたが、ある日本のアニメの主人公の言葉から、さまざまなことに挑戦して自分を発見していくことこそ大切だということに気づきます。そして自分だけなく今夢がない人も、焦らず一緒に自分への挑戦を続けていこうと呼びかけました。第1位を受賞したのは「頑張っての力」という演題でスピーチをしたCさんです。コロナ禍で学校に行けず、高校生活の思い出を作れなかったことで青春を奪われてしまった喪失感から、日本語学習でさえも諦めかけていたCさんは、バスの中でのある出来事をきっかけに、自分を取り戻していきます。その出来事とは、一人の日本人の少女との何気ない会話でした。バスの中で少女に足を踏まれたCさんは、少女が発した日本語の「すみません」という言葉で、彼女が日本人であることに気がつきます。そして思わず日本語で話しかけ、つい日本語の勉強を続けるかどうか迷っているという話までしてしまいました。その少女は何も答えませんでしたが、バスを降りる時に振り向くとCさんに一言「頑張って」と声を掛けたそうです。Cさんにとってその言葉は『あたかもシンデレラの妖精が、魔法でシンデレラをお姫様に変えたように、自分の気持ちを一瞬にして変える魔法の言葉』になりました。自分が日本語の勉強を始めたのは、日本人とこうして話したかったからだということを思い出したのです。この少女の「頑張って」という魔法の言葉の力で、もう一度自分の未来のために日本語の勉強を続ける決意をしたCさん。Cさんは日本人の高校生が選ぶ学生賞も受賞しました。

岡田大使とCさんへの写真

情報技術の発展によって、最近は完成度の高い日本語の作文を目にする機会が多くなりました。しかしスピーチでは、自分の経験を通して得た気づきや思いをどれだけ自分の言葉で聞き手に届けられるか、その力が求められます。今回の3名の受賞者のスピーチが感動を呼んだのは、自分の言葉で自分の思いを語りきることができたからに他なりません。諸事情から制約の多い学習環境の中にいる香港の若い日本語学習者が、日本語と関わりのある日常の出来事を通して、悩みや戸惑いを乗り越え成長していく姿が垣間見えた今回のスピーチは、心から「頑張って」と声援を送りたくなる素晴らしい発表でした。こうした香港の日本語学習者が、これからも夢を胸に日本語学習に取り組んでいけるよう、できる限りの支援をしていきたいと思います。

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