世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 疾風に迎えられたJF講座 ~センター10周年の年に~

モンゴル・日本人材開発センター
片桐 準二

モンゴルといえば大草原というイメージだが、それは乾燥した気候であることも意味している。年間の平均降水量が200mm程度、特に10月から4月のウランバートルの月間平均降水量は10mm以下である。そこに風が吹けば乾燥した砂が舞い上がる。時には強風により市中のあらゆる場所で大きなクレーンを従えて建設中の無数のビルが砂塵に霞む。そんな4月の終わり、ビルが揺れるほどの突風が吹き、モンゴル・日本人材開発センター(以下、センター)前に設置されていたガラスの銘板が割れた。

10周年記念事業

センターは開所以来今年で10周年。5月にはロビーで10周年記念事業の一つである「私たちの10年間の歩み」という写真展が開かれた。起工式、そして開所式のテープカットシーンから始まり現在までのセンター主催・共催のさまざまな事業や来館者の様子が展示された。日本語専門家の所属する日本語課のところには、IT日本語コースの受講生、ラジオ日本語講座の収録風景、日本語教授法コース修了生、地方出張での日本語体験授業の様子などの写真が並んだ。

センター来館者は2009年に100万人を突破し、2012年4月末で144万人に達している。日本語課で開講した日本語コースはこの10年の間に27種類に及び、受講者は2012年3月末の集計で3527人。その他、日本語月例実力テスト、日本語教授法公開講座、日本語教育シンポジウムなどの単発事業の参加者は8344人に上る。

「日本語の歌を学びましょう」の写真
「日本語の歌を学びましょう」

10周年記念事業の日本語課の企画では、「ひらがな」「カタカナ」「日本語会話」のそれぞれ90分の無料体験授業を行った。加えて、2009年度から夏期コースとして開かれている「歌で学ぶ日本語」の体験版として「日本の歌を学びましょう」も開催した。指導した曲はAKB48Give Me Five。その日は「浴衣着付け教室」もあったため、20人ほどの小学生が浴衣を体験した後、この授業に来て歌を学び、曲に合わせてハイタッチをして楽しんだ。後日、その小学校の担任の先生から素晴らしい体験ができたとセンター宛に感謝状まで頂いた。

JF講座開設

センターはこれまで国際協力機構(JICA)のプロジェクトとして運営されていたが、今年4月からモンゴル国立大学の独立採算ユニットとなった。その大学も今年が創立70周年。また、今年は日本・モンゴル外交関係樹立40周年でもあり記念ずくめの年である。そして、この記念の年に国際交流基金はセンターと共同でJF講座を開設した。JF講座では「相互理解のための日本語」を基本理念とするJF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)に準拠したコースを開講する。このJF講座開設を記念して、日本のアカペラコーラスグループINSPiのコンサートとワークショップが開催された。メンバー6人のコーラスグループは国立ドラマ劇場にその美しい歌声を響かせ、500名を超える聴衆から喝采を浴びた。センターでのワークショップには募集定員の2倍の80名を集め、童歌などを一緒に歌って楽しい時を過ごした。

JF講座の実質的な日本語コースは9月に開講予定であり、現在、日本語課スタッフと共にその準備を進めている。すでに課内でJFスタンダードの勉強会を2日間に渡って行った。初級についてはJFスタンダード準拠教材の『まるごと』を使用するが、同時開講の中級会話や漢字コース、教師向けの教授法コースについては、JFスタンダードの理念を取り入れたコースデザインや教材開発がこれからの作業となっている。

ここで日本語専門家に求められているものには、この他にモンゴル全体の日本語教育に関するアドバイザー業務がある。モンゴル日本語教師会との共催事業もその一つであり、今年度は「スタンダード作成プロジェクト」としてすでに準備が始まっている。このプロジェクトではウランバートル市内とウブルハンガイ県の2校(いずれも小・中・高一貫校)でスタンダード実践が行われ、その報告会がシンポジウムとして来年3月に開催される。地方展開についても今後は積極的に進めることにしており、さっそく5月中旬にオルホン県にあるモンゴル国立大学オルホン学部で行われた国際研究会に参加し、JF講座の紹介を含めた発表を行ってきたところである。

日本語課スタッフと新しいセンター銘板の写真
日本語課スタッフと新しいセンター銘板

ところで、センター前のガラス銘板であるが、1か月後には新しい銘板が設置された。モンゴル国立大学の独立ユニットになったということで、黄色のセンターのロゴの下に国立大学の名称とロゴが追加され、さらにJICAと共にJFのロゴも付けられた。実は4月にJF講座開設となったもののJFの名やロゴが入ったのはこれが初めてであり、突風が開設祝いにと届けてくれたのではないかと思えてならない。疾風に勁草を知るの如くと讃嘆されるようなしっかりとした講座となるよう努めたい。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Mongolia-Japan Center For Human Resources Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
モンゴル・日本人材開発センターは、産業多角化及び雇用創出の観点からのビジネス人材の育成と日本・モンゴルの様々な人的交流の拠点として、1)ビジネス人材育成、2)日本語教育、3)相互理解促進の3つの事業を行っている。2012年からはモンゴル国立大学の独立採算ユニットとなり、国際交流基金のJF講座も開設され、JF日本語教育スタンダードに準拠した日本語コースを開講する。また、モンゴル全体の日本語教育アドバイザーとしてシンポジウムやスピーチコンテストなどの教師会・大使館の主催事業等にも協力し、学習環境の整備や教師間ネットワークの拡充に努める。
所在地 Mongolia-Japan Center, University St., 6-Khoroo,
Sukhbaatar District, Ulaanbaatar, Mongolia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家 1名
国際交流基金からの派遣開始年 2002年

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