世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) バンフに集った「七人の侍」 -初めての合宿研修とCAJLE大会-

アルバータ州教育省
平田 好

カナダには、国際交流基金(以下、JF)拠点としてトロント日本文化センター(以下、JFトロント)があります。アルバータ州教育省日本語アドバイザーは州内業務のほかに、JFトロントと連携してカナダ全体の日本語教育振興活動も行っています。特に教師研修の企画・実施にあたっては、どの地域の、どのような教育機関の先生方を対象とするか、どこで実施するか、研修内容、フォローアップ等を考えながら入念に企画を進めます。今までもカナダ各地で実施してきましたが、2012年夏に初めての合宿研修を実施しました。今回はその研修の紹介です。

CAJLE大会、バンフ開催決定

JFと協力関係にあり、自機関に留まらず、その国・地域に広く波及効果をもたらす事業を実施する機関が「さくら中核メンバー」と呼ばれています。現在、カナダにおけるJFトロント以外のメンバーは、カナダ日本語教育振興会(以下、CAJLE)です。

CAJLEの年次大会は毎年夏に実施され、基調講演、教師研修、研究発表等が行われます。2011年8月、次年度大会のバンフ(アルバータ州)開催が決まりました。カナダ各地、世界各国から参加者が集まるCAJLE大会ですが、カナダの非母語話者日本語教師(以下、NNT)、特に中等教育機関からの参加促進が課題のひとつと聞いていました。一方、日本語学習者の約70%は西側地域(ブリティッシュ・コロンビア州、アルバータ州)に在住し、その半数は初・中等教育機関で学んでいます。NNTが多いのも、この地域です。

北米大陸西側を縦断するカナディアン・ロッキーの中心地はバンフ。つまり、CAJLE大会のバンフ開催は、NNT参加促進の好機到来を意味しました。

JFトロント主催夏季教師研修の企画

JFトロント主催によるNNT対象の合宿研修をCAJLE大会に先立って実施し、参加者は引き続きCAJLE大会に出席、研修成果の一部を発表するという企画案がまとまったのは2011年12月のことでした。その後、2012年度事業計画として承認され2012年5月より研修準備が本格化しました。JFトロントのプログラム・オフィサーは、募集、問い合わせ対応、ロジスティックを担当、JFトロント付アドバイザーと筆者が、カリキュラム及び教材の作成を担当しました。

JF日本語国際センターで毎年実施されている「海外日本語教師研修」はNNT対象研修として高い評価を得ています。しかし、夏季休暇2ヶ月を、家族と離れて日本ですごすことには躊躇するNNTも少なくありません。同研修と同様の内容をカナダにて短期間で実施することは困難ですが、そのコンセプトは踏襲できます。「JF日本語教育スタンダード」を活用し、「JF日本語教授法シリーズ」を利用し、参加者が自らの教育実践を振り返りながら、研修後も持続的に学び続けられる内容にしました。同じ州内であっても顔をあわせる機会が少ない日本語教師が合宿することによって、お互いの現場情報を交換し、課題を共有し、次のステップにふみだす基盤となるネットワーク形成も大きな要素としました。

合宿研修に集った7人

それぞれの「JFスタンダードの木」の写真
それぞれの「JFスタンダードの木」
カナダと日本の絆(研修参加者と書道講師)の写真
カナダと日本の絆(研修参加者と書道講師)

2012年7月27日、バンフに研修参加者が集まり、8月3日まで8日間の合宿研修が始まりました。学校紹介に続き、担当している日本語プログラムを「JFスタンダードの木」で表現する活動、授業設計・授業の流れ・教室内活動に関するワークショップ、模擬授業の実施、日系団体の協力による書道教室を経て、最後の2日間はCAJLE大会でした。
この大会では、所属教育機関の種別によるSIG(Special Interest Group)セッションの実施後、同じグループ分けをもとにしたオープンフォーラムでの話し合いも行われました。日本語教育という共通枠のなかで各グループが抱える課題の相違点と共通点、また各グループよりCAJLEに求めることについての話し合いが行われました。合宿研修に引き続き参加した7人のNNT(自称「七人の侍」)からは、カナダ人日本語教師の視点からの提言がありました。それに対しては、CAJLE理事から「CAJLEのカナダ国内における役割を再考する機会にもなった」という感想をいただき、バンフに集った「七人の侍」の8日間は無事終了しました。

合宿研修及びCAJLE大会に対する「七人の侍」の評価は様々でした。所属機関種別、日本語運用力、研修に期待したテーマも異なるため、全員100%満足とは言えません。深夜作業をして翌朝提出する課題に音を上げた参加者もいました。CAJLE大会の研究発表と教育実践の間に関連を見い出せず、日本語の発表を聞くことに苦痛を感じた者もいます。しかし7名はバンフに来て初めて「七人の侍」となったのです。ビデオ会議やオンライン研修が頻繁に行われていても、遠方に出かけて集合したからこその収穫がありました。対面して議論することで論理のみならず日本語教育への熱い思いが伝わりました。一緒に食事をして、思いがけない話題が日本語教育につながりました。各地に散った「七人の侍」は各現場で活躍するのみならず、広いカナダに向かって発信し、ネットワークをさらに強くする活動を続けています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Alberta Education
派遣先機関の位置付け 州内の初等中等教育を管轄する政府機関。国際教育サービス課に所属し、交流プログラムや日本語教育への支援(学習指導要領、指導手引書、到達度評価文書等の開発、教材情報の提供、日本文化及び日本語教育振興行事の企画運営)を行う。カナダ全域のアドバイザーを兼任し、国際交流基金トロント日本文化センターとの連携のもとに、全国レベルでの日本語教育振興、教師研修、ネットワーク形成支援等を担当する。
所在地 8th Floor, 10044-108 Street NW, Edmonton, Alberta, Canada T5J 5E6
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2001年

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