日本語専門家 派遣先情報・レポート
ニューデリー日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金ニューデリー日本文化センター
The Japan Foundation, New Delhi
派遣先機関の位置付け及び業務内容
インド及び周辺の南アジア諸国における日本語教育支援・普及を目的としている。具体的な業務としては、(1)インド国内外でのワークショップ、勉強会、コンサルティングなどを通じた日本語教師や日本語教育機関への支援・協力(2)日本語普及のためのプロモーション、行事への参加(3)日本語教師の研修及び新規教師養成、情報通信技術を利用した日本語教育の導入推進(4)JF日本語講座の運営、講座担当講師の育成など多岐にわたる。
所在地
A-13, Green Park, Aurobindo Marg, New Delhi, 110016 India
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名、専門家:3名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年
1999年

変わる、そして、つなぐ

国際交流基金ニューデリー日本文化センター
有馬淳一・鈴木千晶・在國寺翔平・奥村朋恵

現地教師らとともに「変わり」続ける関係を目指して

2022年度の特定技能事業チームの活動を一言で表すと、「変化」の1年だったと思います。年度当初は『いろどり 生活の日本語』(以下、『いろどり』)というテキストの広報とJFT-Basic(以下、JFT-B)という試験の普及を合わせて行っていました。『いろどり』は、日本での生活や就労を目指す人向けのコミュニケーションを重視したテキストで、ウェブサイトから誰でも無料でダウンロードし使用することができます。JFT-Bは日本語でのコミュニケーション能力がどれほどあるかを測るためのテストで、CBT方式(Computer Based Testing:コンピューターを利用した試験)で行われます。しかし、インドはまだJFT-Bの試験会場が国内に1か所しかなく、容易に受けられる環境ではありません。そのため、『いろどり』に興味を持ってもらえてもJFT-Bが受けられないという日本語教育機関が多く、広報や普及がスムーズに進まないという問題がありました。
 そこで私たちのチームは考え方を「変え」、『いろどり』も『みんなの日本語』や『まるごと 日本のことばと文化』と並ぶ、日本語テキストの1つと捉えることにしました。つまり、特定技能制度を使って日本に行きたいと考えている人のためだけの特別なものではなく、現行の授業を続けながらそこに「彩」を添えることができるようなテキストであるということを伝えることにしたのです。

『いろどり』セミナーの様子の写真
『いろどり』セミナーの様子

 すると、セミナーやワークショップなどに参加していた現地教師から「『いろどり』の会話の部分を授業に取り入れたら、学生がとても楽しそうでした!」や「日本の生活TIPSを学生に読ませることで、日本へ行きたいという気持ちが大きくなったようです」など、非常に嬉しい声をいただきました。私たちが少し視点を「変えた」ことで、現地教師らの授業内容も「変わり」、学生たちの日本に対する気持ちも大きく「変化」していきました。
 私たち専門家が変わることで現地教師らも変えられる、現地教師らが変わることで私たち専門家も変化し続けることができる。そのような関係性を保ちながら、今後も特定技能事業の業務を進めていきたいと思います。(執筆:在國寺)

次の5年間の教師育成へと「つなぐ」ために

 2018年7月にデリーに日本語教師育成センター(以下、TTC)が設立されてから丸5年となります。TTCについては、このレポートでも何度か(2018, 2019, 2021年度)紹介してきましたが、今回は、日本語教師になりたい人を主な対象としTTCで一番長い「日本語教師育成コースA(360時間コース)」(以下、コースA)での5年間の成果をふり返って、次の5年間へつないでいくために国際交流基金の日本語専門家(以下、JF専門家)として何をしてきたかについてお話します。
 コースAは、コロナ禍で学期中に中断を余儀なくされたこともありましたが、2023年3月の時点で7期まで終わり、これまでに計124名が修了しました。当初は、JF専門家と専任のインド人講師とで開始しましたが、2021年度からは非常勤講師としてインド人教師2人が加わりました。
 そして、2022年度にはJF専門家の交代があり、コースAの主担当が奥村朋恵に代わりました。もしも単発のセミナーなどであれば、授業を担当するわれわれがその時々に興味・関心を持っているテーマで行うことも可能でしょう。しかし、5年計画の事業となると、そういうわけにはいきません。同じコースなのに、ある内容の授業がある期もない期もあっては、統一性も首尾一貫性もなくなってしまいます。それは担当者についても同様で、担当者が変わっても質の高いコースを提供し続けることが求められます。
 コロナの前後で、コースAも対面授業から完全オンラインの授業へと転換しなければならなくなり、今後もオンラインでのコースを継続していく予定です。たとえ形態が変わっても毎期毎期つないでいくこと、たとえ担当する教師が変わっても毎期毎期つないでいくこと、それがコースの質を一定に保ち、教師育成の目的を達成することにつながると考えます。そのために、以前はJF専門家が主導的に進めていたコース運営の多くを2022年度からは専任のニターシャ・シャルマ講師に担ってもらうようにしました。非常勤講師には同じ授業を繰り返すのではなく、未経験の授業にも挑戦してもらうように心がけました。
 また、コースAは、ひと度参加してもらえると、修了者の満足度は大変高いのですが、応募者数が思うように伸びず、人集めに苦労していました。買い物をするにも旅行するにも口コミの力は大きいです。そのため、新学期の広報用にコースAの修了生にインタビューして動画を制作しました。

インタビューに答えるコースA修了生の写真
インタビューに答えるコースA修了生

 コースAの修了生はインド各地のさまざまな機関で日本語を教えていますが、JFニューデリー日本文化センターの日本語講座のインド人講師は6名中5名がコースAの出身です。コースAの修了生の中から、近い将来、コースAで後輩たちに教える教師が出てくることを期待しています。次の5年間の日本語教師育成へつなぐこと、JF専門家からインド人教師へとつなぐこと、それが与えられた責務であり、大きなやりがいと感じています。(執筆:有馬)

動画(コースAプロモーションビデオ) https://youtu.be/Qw4Ab-kLXpQ

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