世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) スリランカの宝石

ケラニア大学
小松原奈保

スリランカはインド洋に浮かぶ北海道より一回り小さな島国です。紅茶の栽培や宝石で有名なこの国は親日家が多く、日本人が街を歩けば笑顔で迎えてくれます。日本語教育も盛んで、中等教育の段階から第二外国語として日本語を導入しています。スリランカに赴任して3か月、こちらの状況をレポートします。

1.ケラニア大学

日本語専科 論文発表の講義の様子の画像
日本語専科 論文発表の講義

私の所属機関であるケラニア大学は、スリランカの日本語教育の最高峰に位置し、高度な日本語教育を提供しています。2016年2月には大学内に日本学研究センターを設立、ますます活動の幅を広げ、スリランカにおける日本語教育の質の向上に貢献しています。また学内に留まらず、中等教育で使用するシラバスや教科書の作成もケラニア大学の教師が中心となって行っています。

大学では2年前に既存の一般学位コースとは別に日本語専科を設置しました。日本語専科の学生は日本語の講義だけでなく、言語学や日本語教授法といったより専門的な講義を受講し、卒業までに論文を執筆します。本年度はその日本語専科から初めての卒業生が出る大切な年です。彼らの研究、論文をサポートするのが、私の最も重要な業務です。

金曜日の午前、日本語専科の学生全員が論文発表の講義に集います。講義では代表者が自分の論文についてプレゼンテーションし、日本語専科の学生や教師からコメントをもらいます。厳しいコメントが飛び交い、学生たちは切磋琢磨しています。卒業まで残り僅か、彼らがどのような論文を書き上げるのか今からとても楽しみです。

2.スリランカ日本語教師会

生徒が作ったポスターが壁に掲示されている画像
生徒が作ったポスター

ケラニア大学での業務だけでなく、スリランカ日本語教師会(以下、教師会)のサポートも私の任務です。教師会は若い日本語教師が中心となり様々なイベントを企画運営しています。本年度は新しい試みとして高校生日本語キャンプを実施しました。これは教師会会長が世界青年の船(※1)に参加して得た素晴らしい経験を高校生にも共有したいという想いから始まった企画で、スリランカ各地の高校で勉強している生徒が日本語で交流し、日本語学習のモチベーションを高めることを目的としています。遥々アヌラーダプラからバスで6時間かけて参加してくれた高校もありました。

このキャンプでは予期せぬ効果もありました。実は、スリランカでは高校生になっても身の回りのことは親が面倒を見るので、一人での外泊は初めてという生徒がほとんどでした。しかし、生徒たちはキャンプを通して、自分のことは自分でする、団体行動のルール、時間を守るといったことが主体的にできるようになりました。自分たちでポスターを掲示し、進んで後片付けをする姿を見て、引率の教師たちが「ここは日本の高校か?」と驚くほどでした。そして迎えた最終日、初めは自分の高校の友達だけで固まっていた生徒たちが、他の高校の生徒と協力して劇あり歌ありのプレゼンテーションを成し遂げました。たった3日間のキャンプでしたが、彼らが大きく成長したことを肌で感じることができました。

スリランカではルビーやサファイヤなどきれいな宝石がたくさん採れますが、この国の将来を担う若者こそがこの国の宝だと感じています。その輝きを増すために原石をどう磨いていくか。それが私のこれからの課題です。

※1: The Ship for World Youth Leaders (SWY) program

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
University of Kelaniya
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケラニア大学日本語科はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、中級レベル以上のカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。そのため、教育省の依頼で、中学、高校における日本語教育のシラバス・教科書作成などにも大学講師が参画しており、中等教育においても多大な影響力を持つ。2014年には日本語専科コース(4年制)が開講、2016年には日本学研究センターが設立された。日本語専門家は大学での講義、コース運営の支援、講師の指導、各種試験のネイティブチェックを行う。
所在地 Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
人文学部 現代語学科
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