日本語専門家 派遣先情報・レポート
ケラニア大学

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
ケラニア大学
University of Kelaniya
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ケラニア大学日本語科はスリランカの高等教育機関の中で最も長い日本語教育の歴史を持ち、中級レベル以上のカリキュラムを持つ数少ない講座の一つである。そのため、教育省の依頼で、中学、高校における日本語教育のシラバス・教科書作成などにも大学講師が参画しており、中等教育においても多大な影響力を持つ。2014年には日本語専科コース(4年制)が開講、2016年には日本学研究センターが設立された。2022年4月より新たにPostgraduate-Diplomaプログラムを開講。日本語専門家は大学での講義、コース運営の支援、講師の指導、各種試験のネイティブチェックを行う。
所在地
Dalugama, Kelaniya, Sri Lanka
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名
日本語講座の所属学部、学科名称
人文学部 現代言語学科 日本語科
日本語講座の概要

2022年度のスリランカにおける日本語教育

ケラニア大学
宗像みなみ

日本からオンラインでスリランカの日本語教育に携わってきた筆者は、朝起きたら、まずスリランカの天気を確認します。大雨や、雷予報の日は要注意。スリランカの電波状況が悪くなるため、同僚との打ち合わせがしにくくなるからです。オンライン授業の欠席も増えます。なんとか参加できる人がいても、やりとりは途切れ途切れ。そんなときは無理をしないで、授業を別の日に振り替えるなどで対応することにしています。

スリランカは、「インド洋の真珠」とも称される、南アジアの美しい島国です。宝石、紅茶、数々の世界遺産やアーユルヴェーダなどで有名です。
そんなスリランカで、機関に所属して日本語を学んでいる人の数は約9,746名(国際交流基金2021)。この数字に、独学者やプライベートレッスンで日本語を学ぶ人の数は入っていません。嬉しいことに、たくさんの人が日本に興味を持ち、日本語を勉強してくれていることがわかります。
学習動機は「日本で働きたい」、「日本文化に興味がある」など、さまざま。日本語学習者は2012年から原稿執筆時点(2023年4月)に至るまで、増え続けています。

学校イベント「日本語の日」で展示された日本料理の写真
学校イベント「日本語の日」で展示された日本料理

ケラニア大学の日本語教育

スリランカの日本語教育の中心的な存在となっているのが、ケラニア大学です。
ケラニア大学では学部生対象の日本語授業に加え、2022年度からPost-Graduate Diplomaコースが実施されています。2022年4月に入学した受講生は、記念すべき第1期生となります。受講生は約1年間にわたって、日本文学やライティング、異文化コミュニケーションなどの6つの科目を履修します。
後期の科目のひとつである「日本文学」では、文学作品を読むだけではなく分析することも通して、社会構造や作者の意図を批判的に読み取る練習をします。また、「ライティング」では、それぞれがテーマを選び、ミニ研究を実施しました。「スリランカ人高校生の漢字学習ストラテジー」や「日本語を学ぶ学習者の動機は日本に行くことだけか」など、興味深いテーマが選ばれました。

日本語教師会の貢献

スリランカ全国の日本語教師が所属する日本語教師会もまた、スリランカの日本語教育を支える重要な役割を担っています。
2022年、教師会のメンバーは学校教師を中心に新しく組織されました。これまでの歩みを引き継ぎつつも、スリランカにおける日本語教育の発展により大きく寄与すべく、さまざまなイベントを企画しています。
2022年11月には、Aレベルセミナー(高校生が受験する全国統一試験、「Aレベル試験」のためのセミナー)が開催されました。このセミナーは毎年行われていますが、2022年度は約3年ぶりの対面実施となりました。日本からオンラインで業務にあたっていた筆者(開催時)は参加が叶わず、実施までのサポートに留まりましたが、当日は2,000人を超える生徒が参加し、積極的に意見を交わしました。
このほかにも、日本語教育セミナーやOレベルセミナーなど、1年を通して数々のイベントが行われました。2023年度には、教師会主催の一大イベント「文化祭」も予定されています。

ケラニア大学日本研究センター(RCJS)の教材出版

2022年度、国際交流基金の助成により、2冊の日本語教材の出版に至りました。
1冊は『高校生のための会話で学ぶ日本文化』、もう1冊は『非言語コミュニケーション』です。それぞれ、高校生向け、大学生向けに作成されました。
スリランカ社会で非常に重要とみなされている、高校卒業兼大学入学試験(先述したAレベル試験)にも、日本語の科目があります。その試験範囲でもある「日本文化」は、体系的な教科書がほとんどありませんでした。今回作られた『高校生のための会話で学ぶ日本文化』は、スリランカ人高校生を中心に、会話を通して日本文化を学ぶことができるようになっています。絵や写真も豊富に取り入れており、教師・学習者ともに「読みやすい」、「わかりやすい」と好評の声をいただいています。

新しい日本文化の教科書の写真
新しい日本文化の教科書

もう1つの『非言語コミュニケーション』は、重要であるにも関わらず、これまで深く注目されてこなかった「非言語コミュニケーション」に焦点を当てた教材です。ケース紹介のために短いマンガを載せていることが、大きな特徴のひとつです。ジェスチャーだけではなく、視線、うなずき、音や色など、幅広い内容を扱っています。

このように、スリランカでは多くの機関がさまざまな形で日本語教育に貢献しています。脈々と続いてきた流れが途切れないよう、大切に引き継いで、さらなる発展を目指していきたいです。

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