世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)「アイルランドらしい日本語教育??」

アイルランド教育・技能省
近藤裕美子

「アイルランドらしい日本語教育」とは何でしょうか? 日本からユーラシア大陸、ヨーロッパ大陸を挟んで約1万キロ。同じ島国でありながら、アイルランドのことは意外に知られていないかもしれません。今回はまず、アイルランド日本語教育に関する○×クイズから始めましょう。

問題1. ヨーロッパでは高等教育での日本語教育が盛んであるが、アイルランドの場合は一番多いのは中等教育の日本語学習者である。
問題2. アイルランドでは、中学校から日本語が勉強できる。

では、答えを見ていきましょう。

問題1. 答え ○

アイルランド日本語教育機関地図2013画像
アイルランド日本語教育機関地図2013

現在アイルランドの日本語学習者のうち約8割が中等教育2。 2000人以上の高校生が日本語を勉強し、毎年約250人がLeaving Certificateと呼ばれる中等教育修了資格試験で日本語科目を受験しています。他国と比べるとその数はそれほど多くないかもしれませんが、北海道ほどの広さの国土、人口約450万人、日本との距離を考えると、思った以上に日本語が盛んだと思いませんか? アイルランド人にこの話をすると、「そんなにいるの?」と驚かれます。

アイルランド教育・技能省の中等教育外国語教育に関するセクション「Post Primary Languages InitiativePPLI)」に派遣されている日本語アドバイザーの主要業務の一つは、中等教育で日本語を学ぶ生徒たちと先生たちのサポートです。日本語の授業にお邪魔して、授業見学とアドバイジングをしたり、時には授業のお手伝いをしたりすることもあります。実際に日本語を学んでいる生徒たち、そんな生徒たちのために熱心にサポートしている先生たちと直接会って、教室からアイルランドの日本語教育を考えることができるのはとても貴重な経験です。

問題2. 答え ×

PPLIサイト Junior Cycle Short Coursesのロゴ画像
PPLIサイト Junior Cycle Short Coursesのロゴ1

アイルランドでは、中等教育の中でもSenior Cycle(中等教育後期:日本でいう高校)で日本語科目が教えられていますが、Junior Cycle(中等教育前期:同じく中学校)で教えられている外国語はフランス語・ドイツ語などのヨーロッパ言語で、日本語は教えられていません。

ところが、昨年度(2013年度)のページでご報告したように、現在Junior Cycleのカリキュラムの改革が進められていて、日本語もShort Courseという枠組みで開設されることになりました。Short Courseの外国語は2017年に本格導入の予定。他言語のアドバイザーとも情報交換、協力をしながら、中学生向けの日本語のカリキュラム作りを進めています。

日本語も含めたこのShort Courseの外国語科目のポイントは、コミュニケーションのための言語運用能力(Communicative Competence)だけでなく、言語学習を通じて様々なスキルも向上させること。例えば、デジタル・リテラシー、ことばや異文化に対する気づき(Language Awareness、Intercultural Awareness)など、ことばを駆使しながら様々な人と交流しながら21世紀を生きていく子供たちにとって必要なスキルを、外国語の学習を通して身につけていくことを目指している点と言えるでしょう。

日本から遠く離れたこの土地で、子供たちはなぜ日本語を学ぶのでしょうか? 日本語の学習は子供たちにどのような意味があるのでしょうか? そんなことを考えながら、数年後に中学で日本語を学ぶ生徒たちを想像しつつ、新しい日本語のカリキュラム作りを進めています。未来を思い浮かべながら現在その「たね」をまくこともアドバイザーの仕事の醍醐味です。

アイルランドに赴任してもうすぐ3年になります。この3年間、日本語を学ぶ生徒や学生、多くの日本語教育関係者、外国語教育関係者と「顔の見える距離」で仕事ができたこと、アイルランドの日本語教育の全体像をつかみながら自分が携わっている仕事の意味や影響を考えられたことなど、たくさんの貴重な機会が得られました。アイルランドは、国の規模も日本語教育の規模も大きくありません。でも、そうであるからこそ、多方面の方々がつながりながら、国の日本語教育を作っていけるのが、この国の日本語教育に携わる面白さなのかもしれません。

1 Short Coursesの外国語科目に関する書類が随時更新されています。
(http://www.languagesinitiative.ie/)
2 国際交流基金ホームページ「日本語教育国・地域別情報 アイルランド」

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 アイルランド教育・技能省 ポスト・プライマリー・ランゲージ・イニシアティブ
Department of Education and Skills, Ireland  PPLI: Post-Primary Languages Initiative)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
Post Primary Languages Initiativeは、教育技術省(現在の教育・技能省)のもとNational Development Planの予算で2000年に設立された。中等教育機関で外国語として教えられていたフランス語とドイツ語に加え、新たに4つの外国語(日本語、イタリア語、スペイン語、ロシア語)の促進を目的に始まったが、現在ではフランス語、ドイツ語、Sign Languageも加えた現代語教育発展のための支援を行っている。国際交流基金日本語専門家は日本語教育アドバイザーとして高校の日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全般のサポートを行っている。
所在地 Post-Primary Languages Initiative, Marino Insitute of Education, Griffith Avenue, Dublin 9
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年~2007年、 2008年~

ページトップへ戻る