世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 居心地のいい日本語講座を目指して

マドリード日本文化センター
松下 恵子

国際交流基金マドリード日本文化センター(以下、JFMD)は2010年4月に開所し、上級専門家、日本語講座担当専門家の2名体制で、アドバイザー業務、教師支援、学習者支援、日本語講座の運営等を中心にスペインの日本語教育支援を行っています。私は3代目日本語講座担当専門家として2016年7月に着任しました。今回のレポートでは日本語講座担当専門家の関わる活動について紹介します。

まるごと講座(日本語講座)と目的別講座

JFMDでは社会人や大学生を対象に夜間の日本語コースを開講しています。テキストは『まるごと 日本のことばと文化』を使っているため「まるごと講座」と呼んでいます。開講レベルは年度ごとに異なりますが、入門から中級2まで各学期5クラス程度を開講しています。学習者は社会人や大学生が多く、仕事や学校が終わってから講座に来ています。どのクラスも笑い声に溢れた楽しそうなクラスで、授業が終わった後にクラスの仲間たちとラーメンを食べに行くのが楽しみと話す学習者もいます。

まるごと講座とは別に短期の「目的別講座」も開催しています。2016年度は「旅行の日本語」「中高年の日本語」「中高生の日本語」「漢字集中講座」「中級会話講座」を実施しました。どの講座も人気があり、中にはキャンセル待ちが出るほどの講座もあって、日本語や日本文化に興味を持っている人が多いことがうかがえます。また、目的別講座は日本語学習を始めるきっかけにもなっていて、目的別講座に参加した後に本格的に勉強するためにまるごと講座に通い始めるというケースもよくあります。

まるごと講座の様子の画像
まるごと講座の様子

JFMDで学んでいる学習者の学習動機や目的は様々です。先日、開講当初から通う6年目の学習者に日本語講座に通い続ける理由を聞いてみました。その人は「理由はうまく説明できない…でも、日本が大好きで日本語を学ぶのがただ楽しいから。」と嬉しそうに話してくれました。日本語講座の強みとは同じ興味を持つ仲間に出会うことができ、お互いに日本語を使ってコミュニケーションをとりながら日本語を楽しく学び続けることができる“居心地のいい場”であることだと思います。このような場を提供していくことを今後も大切にしていきたいと思っています。

文化日本語講座と日本語会話クラブ

JFMDでは日本語講座だけでなく文化体験講座や日本語会話クラブも開催しています。文化日本語講座は日本人ゲスト講師と日本語でコミュニケーションを取りながら日本文化を体験することで日本語学習のモチベーションを上げてもらおうと企画しています。

2016年度は「切り絵教室」「日本語で歌おう!尺八とスペインギターコンサート」を行いました。切り絵の模様を自分でデザインして切り絵を完成させたり、尺八とスペインギターの生演奏でアニメソングやスペインの歌を日本語で歌ったりといった文化体験イベントを行いました。意外だったのは講師の方々の自己紹介プレゼンテーションの時間がとても好評だったことで、参加者から「日本人の生い立ちや人生の話を目の前で聞くことができてとても良かった。」といった声がありました。

日本語会話クラブ「日本語で話そう!Vamos a Nihonguear!」は、2014年に前任の専門家が立ち上げたものを引き継ぎました。2017年5月には第18回を開催します。日本語学習者であれば誰でも参加可能で、講座受講生だけでなく他機関で日本語を学んでいる学習者や独学の学習者など多くの人が参加しています。日本人も含めて参加者の満足度は高くリピーターも多いです。

毎回テーマを決めてそのテーマについてグループで話をしますが、テーマによっては会話があまり弾まないこともあります。コーディネートを担当するようになって気がついたことは、ただテーマを提示するだけでなく各グループの会話の流れの調整や場の雰囲気作りといったファシリテーターとしての役割が非常に重要だということです。また、講座受講生や図書館インターンの人たちがボランティアスタッフとして協力してくれているので、みんなで一緒に作り上げていくという感覚を大事にするように心がけています。

日本語会話クラブ Vamos a Nihonguearの画像
日本語会話クラブ Vamos a Nihonguear

今後の課題

スペインの学習者は仕事の都合で日本語教室に通えなくなっても、目的別講座や会話クラブに参加したり、外部のカルチャー教室で元クラスメイトや日本人と交流を深めたりと、個人個人が自分のやり方で日本語学習を続けています。これからは生涯学習として日本語を学んでいる人々たちの支援について考えていきたいです。そのためにはJFMDの中だけでなく、外部の人々との横のつながりも含めた幅広い活動の機会を増やしたいと思っています。

今後の課題は中級レベル以降の学習者に学習機会を提供することです。全体的に初級レベルは学習者が多く様々なプログラムが行われていますが、中級レベル以降になると学習者の数は減り、中級に特化したプログラムもあまり行われていません。学習者のニーズを把握し様々なプログラムを実施していきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Madrid
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
2010年4月の開所以降、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・知的交流の3本柱で各種事業を行っている。2010年から日本語上級専門家が、2011年から日本語講座担当専門家も派遣されている。スペインの日本語教育支援の拠点として、教師支援(教師会支援、地方巡回セミナーを含む各種研修会の開催)、日本語学習奨励(ポップカルチャーイベント等への日本語ブース出展)、アドバイザー業務(ネットワーク会議や日本語教育相談、情報収集)、日本語講座(JFS講座、目的別講座、文化講座、会話クラブ等のコースデザインや実施運営)を行っている。
所在地 Palacio de cañete, Calle Mayor, 69, Planta 2, 28013, Madrid
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2010年
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