日本語専門家 派遣先情報・レポート
マドリード日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金マドリード日本文化センター
The Japan Foundation, Madrid
派遣先機関の位置付け及び業務内容
2010年4月の開所以降、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・知的交流の3本柱で各種事業を行っている。日本語専門家と日本語指導助手が派遣されており、スペインの日本語教育支援の拠点として、教師支援(教師会支援、地方巡回セミナーを含む各種研修会の開催)、日本語学習奨励(ポップカルチャーイベント等への日本語ブース出展)、アドバイザー業務(ネットワーク会議や日本語教育相談、情報収集)、日本語講座(JFS講座、目的別講座、文化講座、会話クラブ等のコースデザインや実施運営)を行っている。
所在地
Palacio de cañete, Calle Mayor, 69, Planta 2, 28013, Madrid
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年
2010年

スペイン、日本語がきてる!

マドリード日本文化センター
平川 俊助

 2022年8月、コロナ禍の影響で約3年間不在であったマドリード日本文化センター(以下、JFMD)に、日本語専門家として着任しました。私にとってのスペインと言えば、多くの公用語を持ち地域性が豊かな国、そして日本語教育の「勢い」を感じる国です。
 このレポートでは、コロナ禍が明けてさら熱を帯びて動き出している、スペイン日本語教育の近況をお知らせします。

ピンチをチャンスに!

 国際交流基金が3年毎に実施する「海外日本語教育機関調査」。最新の2021年調査において、スペインでは日本語学習者数が10%、機関数が12 %、教師数に至っては約25%の増加という、コロナ禍の影響で世界的に減少傾向があった中、嬉しい結果が報告されました。これにより機関数、教師数、人口10万人あたりの学習者数で初めてドイツを抜き、フランス、英国に次ぐ西欧諸国3番目の規模となりました。背景には、コロナ禍でオンライン授業を導入した機関やオンライン中心の学校が多く設立されたこと、オンライン化で今まで日本語教育機関のなかった地域でも学べるようになったことが関連しています。コロナ禍は世界の日本語教育事情に大きな影響をもたらしましたが、スペインでは「ピンチをチャンスに変えた」と言えるでしょう。

新たな広がり

 2022年9月、マドリードBarajas地区の公立語学学校(EOI)に日本語が加わりました。以前より日本語クラスを開講していた別の地区のEOIで学習者が増加し、Barajasu地区のEOIでも日本語クラスを新設するに至ったということです。JFMDでは、この日本語開設の記念イベントで日本文化ワークショップを行いました。そこでは大人から子どもまでさまざまな層の人が参加し、さらなる日本語の広がりを予感させられました。そしてこの勢いはそれだけに留まらず、2023年9月にマドリード近郊の2校のEOIでも日本語をスタートすることが決まりました。
 また、中等教育でも大きな一歩が踏まれました。2021年9月、カタルーニャ州のFigeresの中等義務教育課程にて、選択科目としての日本語が開講されました。JFMDではこれを記念して、在バルセロナ日本領事館やカタルーニャ州教育省と協力し、和太鼓ワークショップなどの式典を行うなどの支援をしました。この様子は地元のメディアに取り上げられるなど大きな注目を集め、そして、これが功を奏したのか、同州教育省より「23年9月よりカタルーニャ州10校の中等教育機関でも外国語選択科目としての日本語が開講することを決定した」との知らせを受けました。教育省が調査したところ、新たに10校が「日本語をスタートしたい!」と手を挙げたのです。中等教育で正式な科目として日本語が教えられるのはスペインで初のこと。1校のみならず、10校での開講というこの拡大の動きは、「歴史的」と言っても過言ではありません。今後は、この動きが持続的かつ広範囲になるよう、さまざまなレベルの支援活動を行います。

広げる広がる日本語教師会

 スペインでは日本語教師の方々にも勢いがあります。スペイン日本語教師会は2010年の設立以来、年に3‐4回の研修会を開催するなど積極的に学びの場を創っています。コロナ禍でもその活動を続け、直近では2022年11月の「第43回定例研修会」、2023年2月の「第14回総会兼研修会」が開催されました。これらの研修会は実に3年ぶりの対面開催というだけでなく、オンライン参加も可能なハイブリッド形式を採用しました。同教師会には「デジタル部」(通称「デジ部」)というオンラインをサポートするグループが組織されています。ハイブリッド形式の研修を成功させるには、会場の規模、参加人数、プログラムのデザイン、設備や機材などなど、さまざまな条件を綿密に考慮することが欠かせず、決して簡単ではありません。しかし、デジ部の素晴らしい準備とチームワークによって、まるで初の試みとは思えないスムーズさで、対面とオンラインの双方が満足できる研修となりました。コロナ禍を学びに変える前向きな姿勢と臨機応変さを備えたスペイン日本語教師会。JFMDは今後も協力体制を持ち続け、一緒に学びの場を広げていきます。

ハイブリッド研修で、沢山の機材に囲まれている講師の写真
ハイブリッド研修の様子 沢山の機材に囲まれている講師

子どもも大人も!

 日本語の勢いは「教育」の中だけではありません。2023年3月21日スペイン大手の新聞EL MUNDOに、スペインにおけるマンガブームに関する記事が掲載されました。そこには、過去3年間でマンガの売上が187%も増加していることがレポートされ、さらに読者が30~40代へと拡大しているというデータが紹介されました。マンガを好む読者が若年層から上の世代へと拡大し、時を重ねて広がっているのです。スペインでは80年代に「キャンディ・キャンディ」がアニメブームを、そして90年代に「ドラゴンボール」や「アキラ」がマンガブームに火を付けたと言われており、当時の若者たちが今もマンガを好み続けているのでしょう。昨今の日本語熱は、こうしたマンガへの愛着によって支えられているのかもしれません。

 スペインで日本語教育が本格的に開始されたのは1970年頃。数世紀の歴史がある隣国フランス、イギリス、ドイツ、イタリアなどと比べると、まだまだ「若い」と言えます。しかし、2000年以降に日本語を学ぶ人が急増し、特に2018年の調査では学習者数が前回比の約160%増となるなど、昨今のスペインの日本語教育には確かな勢いが感じられます。
 この流れをさらに加速させ、日本語を学ぶ方々や先生たちの「日本語生活」が充実したものとなるよう、JFMDは今後もさまざまな形の支援を続けます。

日本国旗の写真
複言語の国スペイン。ガリシア州公用語ガリシア語で「日本語」はXAPONÉS(スペイン語ではJAPONÉS)

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