日本語専門家 派遣先情報・レポート
ロンドン日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金ロンドン日本文化センター
The Japan Foundation, London
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ロンドン日本文化センターは、英国における教育関係者のネットワーク、相互交流の促進を図りつつ、日英諸機関と連携して日本語教育振興を目的とする多様な事業を企画・実施している。主要事業としては、英国日本語教育学会との共催セミナーの企画・開発、初等・中等教育段階及び高等教育段階の学習者奨励のための主催事業、共催事業の実施などがある。このほか、教育機関への支援として、日本語教育プロジェクトへの助成、専門家によるコンサルティングやワークショップも行なっている。
所在地
101-111 Kensington High Street, London, W8 5SA
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年
1997年

ポスト・パンデミック時代の英国日本語教育事情

ロンドン日本文化センター
大舩ちさと

 2020年から始まった新型コロナウィルスによるパンデミック。急激な変化を余儀なくされたパンデミック期を経て、現在はポスト・パンデミック時代に入ったといえます。このレポートではこのポスト・パンデミック時代の英国の日本語教育の一端をご紹介します。

パンデミック期の英国の日本語教育を取り巻く状況

 英国の初等・中等教育機関ではもともと課外活動としての日本語教育が多く行われていたのですが、パンデミック期には正規科目の授業の実施が優先され、課外活動の多くが閉鎖を余儀なくされていました。このことは「2021年度日本語教育機関調査」の結果にも表れています。全体的に初等・中等教育段階の日本語教育実施校数は減少の傾向があるのですが、課外授業においてそれは顕著です。
 また、日本語能力試験(JLPT)も2019年12月を最後に、実施が見合わされてきました。日本語学習者にとってJLPTの受験は、自分の学習成果を把握する一つの手段でもありますが、進学や就職などの際の日本語能力の証明として必要になることもあり、実施が待たれている状況でした。

「2021年度日本語教育機関調査」学習者数の内訳の写真
「2021年度日本語教育機関調査」学習者数の内訳

ポスト・パンデミック時代:3年ぶりに戻ってきたJLPT

 そんな中、2022年度に入って戻ってきたもの――。その代表といえるのが、日本語能力試験(JLPT)です。2022年7月試験はロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)と新規会場レスター大学の2か所で、2022年12月試験はSOASとエディンバラ大学の2か所で実施されました。受験申込受付開始後には応募が殺到し、応募受付サイトがダウンする事態も発生し、受験したいのに申し込みができなかったという声が当センターにも届きました。あまりのスピードで満席となり申し込みが締め切られる様子は日本語教育関係者に衝撃を与えましたが、同時に新たに試験実施を請け負ってもいいという声が複数の機関から届くようにもなりました。現在、試験会場の増加に向けて、その可能性を探っています。

再開の兆しの見える課外活動としての「日本語」

 当センターでは助成プログラム「Local Project Support Programme」(以下LPSP)を通じて、主に当地の学校を中心に日本語教育関連のプロジェクト支援を行っています。2022年度のLPSPへの申請を見ると、課外活動として「日本語クラブ」を新たに立ち上げたい、「日本語クラブ」を再開したいという内容のものが増えつつあるように感じられます。ようやく学校が課外活動を行う余裕が出てきたのだと考えられます。この日本語教育に対するポジティブな機運をどうつかんでいけるか、今がその見極めどころです。

対面かオンラインか

 ポスト・パンデミック時代に突入し、私たちが頭を悩ませていることの一つが、さまざまな事業をどのような形態で実施するのか、つまり、対面開催、オンライン開催、対面+オンラインのハイブリッド開催のどの形態で実施するのかの判断です。
 「大学生のための日本語スピーチコンテスト」は2023年3月に3年ぶりに対面開催に戻りました。ハイブリッド開催も検討しつつ最終的には対面開催のみとすることを決定したのですが、直前まで会場に観客が集まるのか不安もありました。結果的に100名強の観客が集まり、決勝に残った各部門のファイナリストが緊張感を覗かせながらもすばらしいスピーチやプレゼンテーションを披露してくれました。もちろんハイブリッド開催を採用した場合にはハイブリッド開催ならではの良さ、価値が生まれたとは思うのですが、対面開催としたことで、スピーチが披露されるその瞬間をリアルに感じたいという人が集まり、そういった気持ちを持つ人が集まったからこその出会いとつながりが生まれたように感じています。

「第18回大学生のためのスピーチコンテスト」スピーチ部門の優勝者の写真
「第18回大学生のためのスピーチコンテスト」スピーチ部門の優勝者クリシュナさん

 一方で日本語教師を対象としたセミナーやワークショップの多くはオンラインで開催しました。ハイブリッドで開催したワークショップもあったのですが、多くがオンライン参加を希望し、対面参加の希望者はごく僅かという結果でした。地理的に距離のある人がオンライン参加を選択することは想定内ですが、対面参加が可能な人もオンライン参加を選択することが多々見られます。パンデミックを経験して、オンラインイベントが「普通」になった今、限りある時間とお金を何に使うか、どこに価値を置くのか、その基準に変化が生じているように感じます。
 対面開催が主流だったパンデミック前の時代、オンライン開催以外は考えられなかったパンデミック期を経て、どちらも開催できるポスト・パンデミック時代の今、事業を企画する際には、参加形態の選択も合わせた総合的なデザイン力が問われています。

 以上、簡単ではありますが、ポスト・パンデミック時代の英国の日本語教育の様子をご紹介しました。さまざまな文脈ですでに語られていることではありますが、ポスト・パンデミック時代はパンデミック前に「戻す」のではなく、今の時代にあった新たな価値を生み出すことが求められています。英国でも2023年度は新たな試みを複数、企画しています。それがどう受け止められるのか、その結果については来年度のこのレポートでご報告できればと思います。

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