日本語専門家 派遣先情報・レポート
シドニー日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
国際交流基金シドニー日本文化センター
The Japan Foundation, Sydney
派遣先機関の位置付け及び業務内容
シドニー日本文化センターは、オーストラリア及びオセアニア地域の日本文化、日本語普及の拠点としてさまざまな事業を行っている。日本語教育分野では、全豪の初等・中等教育課程における日本語教育支援として、教師研修会の開催、教師会主催研修会への出講、教材開発、ショートフィルムコンテストや日本語弁論大会などの学習者奨励イベントの運営を行っている。センター内では2005年より一般成人を対象とした日本語講座を運営しており、2012年からはJF日本語教育スタンダード準拠講座として『まるごと 日本のことばと文化』を使用。また、「まるごとセミナー」や実践共有を目的とした「まるごとラボ」を定期的に開催し、『まるごと 日本のことばと文化』の普及に努めている。
所在地
Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale,NSW2008
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:1名、専門家:2名 指導助手:1名(タスマニア/ホバート市)
国際交流基金からの派遣開始年
1991年

日本語教育大国のがんばる先生たち

シドニー日本文化センター
安達祥子、ラングドン紘子、三矢真由美

 みなさんは海外の日本語学習者数や、日本語教育が盛んな国をご存じですか。実は、私たちがいるオーストラリアは日本語教育が盛んな国の一つです。国際交流基金(JF)の2021年度海外日本語教育機関調査では学習者数415,348人、教師数は3,052人、学習者数だけを見ると世界4位となっています。今回は、このオーストラリアで私たちが日々取り組んでいることについて少し紹介します。

現地で教えている先生をサポート!

 日本語教育を担う現地の先生方をサポートするのは、私たちの重要な業務の一つです。ここではその中でも、当シドニー日本文化センターで年に2回行っている「インテンシブセミナー」という研修を紹介します。
 インテンシブセミナーは、オーストラリアとニュージーランドの日本語の先生たち(日本語非母語話者)を対象にした3日半の集中教師研修です。その回ごとに、初等教育の先生または中等教育の先生と対象を変えて開催しています。2022年度は、初等教育の先生を対象に行いました。
 このセミナーでは、先生たちの日ごろ教える上でのアイディアになるようなものを紹介したり、国で定められているカリキュラムに合ったクラス活動を一緒に考えたり、また日本の文化を体験できるようなセッションを多く用意しています。日本文化と日本語にどっぷり浸かる環境を提供して、先生たちにはまさに日本語漬け(!)になってもらいます。  写真は風呂敷セッションのものです。

風呂敷セッションの写真
風呂敷セッション

 さらに大事なポイントとして、インテンシブセミナーは各地から先生が集まるので、先生同士のネットワーキング構築の場ともなっています。セミナーでは、「リソースシェアリング」といって、ほかの先生がどんな授業をやっているのか、教材はどんなものを使っているかなどをシェアする時間も設けています。普段はほかの先生と関わることがない先生もいるので、こういった機会は本当に喜ばれています。
 2020年を最後に新型コロナウィルス感染症の影響で、しばらく開催を中止せざるを得ませんでしたが、2022年秋からまた再開することができました。各地から小学校の先生たちが集まり、当センターの小さい日本の中で楽しく研修を受けてもらうことができました。
 今後も日本語教育を担う先生たちの支援に力を入れて、日本語教育を盛り上げていきたいと思います。 

学びは続く -まるごとセミナー-

 JFが成人学習者向けのコースブック『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を開発したのは2013年。当時は「can-doで教える」という考え方が今ほど知られていなかったため各地でセミナーが行われていました。それから10年たった今『まるごと』はどのぐらい世界に広がっていったのでしょうか。
 シドニー日本文化センター日本語講座では『まるごと』を広く知ってもらうための機会を2015年から提供しています。中身を主に紹介する「まるごとセミナー」と、実践の中で浮かび上がってきた課題を深掘りする「まるごとラボ」、これらを交互に開催してきました。開始当初は対面だったため参加者はシドニーとその近郊の方々に限られていました。その後2020年に新型コロナウィルス感染症が広がると対面からオンラインへのシフトを余儀なくされました。しかしこれをきっかけに参加者もオーストラリアだけでなく、アジア・太平洋、米州、欧州にまで広がり、今では文字通り世界中から人が集まるようになりました。
 セミナーとラボ両方合わせるとその回数はこれまで26回にのぼります。こんなにやって毎回人は集まるの?と思われるかもしれませんが、ありがたいことに毎回たくさんの方が参加してくださいます。それは一つにはオンラインで気軽に参加できるようになったためでしょうが、もう一つはその内容に一工夫あるからかもしれません。
 セミナーやラボでは『まるごと』を紹介するだけでなく、学習者の気づき、レベル間の橋渡し、インストラクションの出し方、できるとは何かなど何か一つに焦点を当てたり、聴解は何回聞かせればいいの、文法はどの程度教えるのなど『まるごと』を使っていると必ず経験する「なぜ」について一緒に考えます。『まるごと』を知らない人はもちろん、知っている人にも必ず新しい発見があるようにという思いからです。そのためか飽きずに毎回のように参加してくださるサポーターのような参加者もいらっしゃいます。
 教材は使い方を知ったらそれでおしまいではありません。実践の中で蓄積されていく疑問、課題、経験を人と共有しながら絶え間なく学び続ける姿勢が言葉に携わる人間には必要ではないでしょうか。今後は少しリニューアルした形にはなりますが、世界中の先生方のために引き続き『まるごと』を通してともに成長できる機会を提供していきたいと思います。皆さんも一度シドニーのセミナーにいらっしゃいませんか?

『まるごとセミナー』のイメージの写真
シドニーの『まるごとセミナー』のイメージはこれ!

What We Do事業内容を知る