世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)『学校訪問』〜地方中等教育支援〜

国際交流基金ジャカルタ日本文化センター (中部ジャワ州・ジョグジャカルタ特別州中等教育機関)
五十嵐裕佳

インドネシアの日本語学習者の9割以上が中等教育機関、特に高校で日本語を学ぶ高校生です。その数は国際交流基金の『2012年度日本語教育機関調査』によると、80万人を超えています。その支援のために、国際交流基金ジャカルタ日本文化センター(以下、ジャカルタ日本文化センター)には私を含め3名の中等教育担当の日本語専門家(以下、専門家)が所属しています。私は中部ジャワ州の州都であるスマランに居を構え、主に中部ジャワ州とジョグジャカルタ州を担当しています。

さて、中等教育支援と一口に言っても業務は多岐に渡ります。例えば、日本語の授業がある学校への訪問、地方教師会の支援、大学等の他の教育機関とのネットワークづくり、ジャカルタ日本文化センターが行うワークショップやセミナーへの出講など…。目下の大切な業務の1つに、インドネシアが2013年に発表した新しい学校教育のカリキュラムに準拠した日本語教科書の開発もあげられます。

今回はその業務の1つ、学校訪問について紹介しようと思います。私は平均して週に2〜3校、担当地域の日本語の授業がある普通高校や専門高校を訪問しています。学校訪問の目的は大きく分けて3つあります。

より良い授業を目指して

1つ目の目的は、授業見学です。実際にインドネシア人教員の日本語の授業を見せてもらった後に、その教員と一緒に振り返りを行っています。この授業の目標は何か、生徒はその目標を達成できたか、達成できなかったとするとどのように授業を改善すればよいか、じっくり話し合いを行っています。多くの教員に共通する悩みや授業における問題点は、地方教師会のワークショップや研修のテーマとして取り上げることも多いです。

中部ジャワ州には先程述べた新教科書の試用に協力してくれている教員も2名います。毎週のように授業を見学し、教科書の内容や指導方法についてディスカッションを重ねてきました。その内容は他の専門家とも共有し、教科書開発に反映しています。

活躍する日本語パートナーズの様子の画像
活躍する日本語パートナーズ

また、中部ジャワ州とジョグジャカルタ州にも2015年から日本語パートナーズ(以下パートナーズ)の派遣が始まりました。インドネシア人教員とパートナーズのチームティーチングの授業もいくつか見学しましたが、どの授業も生徒がとても生き生きとしているのが印象的でした。今後は日本語パートナーズを多くの可能性を持ったリソースとして、どのように活用できるかを他の専門家や講師とともに考えていこうと思っています。

実際に赴くことで得られる情報

2つ目の目的は、情報収集です。日本語のクラスについての情報(学年、コース、学習時間、使用教材など)、日本語クラブの有無、教員のバックグラウンド、教員が抱える悩み、などを訪問の際に教員へインタビューしています。電話やメールでも情報収集はできますが、対面で得られる情報量とは比べ物になりません。特に、インドネシア人の教員同士の横のネットワークはとても強く、訪問校以外の貴重な情報(新たに日本語の授業が始まった高校や、地域全体に関わる教育局の動きなど)が得られることも学校訪問を続ける大きな理由です。

生徒にとって初めての日本人

最後の目的は、校長先生へのプロモーション活動と生徒のモチベーションアップです。ひょっとすると、これが学校訪問の最も重要な目的かもしれません。

学校訪問の際は、どの第二外国語を科目として採用するかを決める裁量権を持っている校長先生会っていただいています。その際に、訪日研修やパートナーズプログラムといった国際交流基金やジャカルタ日本文化センターの日本語教育関連事業をお知らせしています。それは、日本語教育のサポート体制を知らせることが、日本語授業の継続に少なからず影響を与えるからです。

また、日本語クラスで学んでいても、実際に日本人との交流経験を持つ生徒は多いとは言えません。そこで、生徒の学習モチベーションにつながればという気持ちから、授業見学後に生徒と簡単な日本語で交流する時間を作るようにしています。これまで訪問した高校の中には、日本人どころか外国人が一切住んでいない地域にある学校もあり、学校にとって初の外国人訪問者となった私を学校をあげて歓迎してくれました。その時の生徒や先生の嬉しそうな顔にすごく感動したことを覚えています。

正直、たった1回の学校訪問で授業が大きく改善されるということはまずありません。しかし、自分自身の目で授業を見ること、教員から直接情報を得ること、そして、校長先生や生徒と交流する時間を持つことは地方担当の専門家の重要な業務だと考えています。今後も時間が許す限り多くの高校を訪問し、得られた知見や情報をインドネシアの日本語教育支援に活かしていきたいです。

学校に訪れた初めての日本人を囲む様子の画像
学校に訪れた初めての日本人

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation Jakarta
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
  1. (1) 学校訪問:
    1. 授業見学と日本語教育に関する指導
    2. 校長先生に対する基金実施事業や日本語授業のプロモーション活動
    3. 教師会会長等、地域の核となる人材の育成
    4. 地域の日本語教育に関する情報収集
  2. (2) 地域教師会支援:
    地域教師会が実施する勉強会や研修等の活動への支援、情報収集。
  3. (3) ジャカルタ日本文化センター開催研修と教材作成プロジェクトへの協力
  4. (4) 基金及びセンターが実施する日本語事業への協力

※(1)(2)は担当地域である中部ジャワ州・ジョグジャカルタ特別州内の中等教育機関を対象とした業務内容である。

所在地 The Japan Foundation, Jakarta, Summitmas Ⅰ, 2-3 Floor, Jl. Jend. Sudirman Kav.61-62, 12190 Jakarta, INDONESIA
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2001年
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