日本語専門家 派遣先情報・レポート
ラオス日本センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
ラオス日本センター
Laos-Japan Human Resource Development Institute
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ラオス日本センターは日本の政府開発援助により設立され、現在は国際協力機構(JICA)と国際交流基金の協力のもとで、日本とラオス両国によって運営されている。ビジネス経営の知識や日本語を学ぶ場として、市場経済化促進のための人材育成を行うとともに、様々な文化交流事業を実施することにより、日本とラオスの交流・相互理解促進を目指している。2012年10月よりJF講座が開始され、JF日本語教育スタンダードに基づいた日本語教育の普及、及び、教師育成や教育機関ネットワーク促進の拠点としての役割を担っている。
所在地
Vientiane, Laos
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名 調整員:1名
国際交流基金からの派遣開始年
2005年

板書から現場の様子をリポート!

ラオス日本センター
甲藤 瞳

 ラオス日本センター(以下、LJI)に派遣される専門家の役割は、主に ①日本語コースの運営 ②日本語講師のさらなる質向上への協力 ③文化事業への協力 ④日本語普及事業への協力です。今回は①と②について紹介します。
 まず①について、LJIの日本語コースでは日本語教材『まるごと』とLJIオリジナル教材の漢字テキストを使っています。対面クラスは平日の夕方コース(週3)と土日の午前コース(週2)があり、オンラインクラス(コロナ禍で新しく開講)は平日の夕方コース(週2)があります。『まるごと』に入る前には独立した文字コースもあります(平日コース・土日コース)。受講対象者は、どのコースも15歳以上で、教室では高校生、大学生、社会人とさまざまな人たちが一緒に学んでいます(中には、ラオスの大学で学ぶカンボジアの学生や、ラオスで働くタイや中国の方も)。LJIはビエンチャン市内中心部から約10km離れたところにあり、平日は帰宅ラッシュの中、バイクで片道1時間もかけて来る受講生もいます。授業中は他国と比べると物静かだと聞きますが、まじめに学んでいる受講生が多い印象です。
 ②については、教師対象のブラッシュアップ講座を週に1回ほど、約1時間、講師のリクエストや私の提案で決まったテーマで行っています。以下では、①と②にまつわるエピソードを板書を通してリポートします。

① 誕生日はいつですか?

 『まるごと入門』のクラスでの1コマ。月日の言い方の復習で、受講生一人ひとりに誕生日を尋ね、他の人はそれを聞き取りメモするという活動をしていたときのこと。全員聞き終わった後、受講生Aさんが
A 「先生、私、まだ…」
私「わ、すみません!Aさんの誕生日はいつですか?」
A 「(ラオス語で)実は…、Bさんと同じです」。
 何と、Bさんの誕生日と私が当て忘れていたAさんの誕生日が同じでした。ラオスの学習者は他国と比べると大人しいと上述しましたが、このときは自然と「お~」と拍手が上がり、盛り上がりました。きっとAさんとBさんの心の距離も近づいたのではないかと思います。

月日の言い方の授業の写真
受講生の誕生日の中に同じものが…!

 その後、AさんとBさんは何年生まれか確認したりしていて、まさにこれが『まるごと』の理念である相互理解につながる言語使用だと思いました(実際にはそのやりとりはラオス語だったのですが、互いのことをもっと知りたいと自然と感じる瞬間が見られて嬉しく感じました)。

② 絵しりとり

 私と調整員がいる部屋と日本語講師の先生たちがいる部屋は壁一つ隔てて分かれています。接点を持つために、できるだけ一日に一回は先生たちの部屋に行って授業の引継ぎや相談など何か言葉を交わすようにしています。その延長で雑談もよくするのですが、ある先生が「授業で受講生に語彙を説明するのに簡単な絵を描きたいけど、うまく描けない。ブラッシュアップ講座でできたら嬉しい」と言っていました。翌週のブラッシュアップ講座の時に、短時間で相手に伝わる絵を描くことを狙いに一人20秒で絵しりとりをしてみました。実際の板書がこちら(言葉は、ゲームの後に答え合わせで追記したもの)。

絵しりとりの写真
先生たちとの絵しりとり。答え合わせの結果やいかに?

 ゲーム中、「しお→オレンジ→じてんしゃ→しゃしん」となったのですが、語末が「ん」だと気づいた先生が枠を描き足して「しゃしんたて」にするファインプレーも。その後「て→てぶくろ→ろく→くさ→さか」の「さか」を「やま」だと思い、次が「まめ」、それを「ソーセージ」だと思い、最後は「じかん」に(最後の先生が「ん」で終わらせたのも絶妙)。食い違いが面白く、皆でお腹を抱えて笑いました。実施後、先生たちは「初級クラスでやるなら、絵を描く前に口頭でしりとりをやってみるといいかも」と授業実践のことも考えていました。後日、「中級クラスでやってみたら、うまくできていました」と実践してくれる先生も。先生とのふとした雑談から実践に繋がったのを嬉しく感じたエピソードでした。

ラオスの日本語教育の課題は…?

 それは、学習者が年々増えているのに反して日本語教師のなり手が不足していることです。すぐに解決策が見つかるものではありませんが、私がこれまでの先生方から学んだ色々なアイデアを現役教師の方に少しでも共有し、日本語教育に携わっていることを楽しんでもらうこと、また、将来日本語教師のなり手となるかもしれない学習者にも、種まきとして学びが楽しく感じるような活動を授業に取り入れ、実際に教師になった時の引き出しの一つになることを願いながら、今日もビエンチャンで試行錯誤しています。

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