日本語専門家 派遣先情報・レポート
マニラ日本文化センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
マニラ日本文化センター
The Japan Foundation, Manila
派遣先機関の位置付け及び業務内容
専門家は以下の4チームで業務を行っている。
  1. (1)にほんご人サポートチーム:教師フォーラムの実施、教師会および高等教育機関との連携、講座運営等を通じた総合的教師支援。学習奨励事業としてスピーチコンテストを実施。
  2. (2)中等教育チーム:教育省との連携による教師養成研修、巡回指導、日本語パートナーズ事業への支援。また、ビデオコンテストなど参加型学習奨励事業を実施している。
  3. (3)JFT-Basicチーム:特定技能等での訪日をめざす学習者を対象とする教育機関への支援を展開。『いろどり』を使ったセミナー・研修を実施。
  4. (4)EPAチーム:EPAに基づくフィリピン人看護師・介護福祉士候補者日本語予備教育事業を担う。
広報はホームーページ、Facebookを通じて行っている。
所在地
The Japan Foundation, Manila 23rd Floor, Pacific Star Bldg, Sen.Gil J.Puyat Ave. cor Makati Ave. Makati City, 1226 Philippines
国際交流基金からの派遣者数
上級専門家:3名、専門家:4名、指導助手:1名、生活日本語コーディネーター:1名
国際交流基金からの派遣開始年
2000年

チームの挑戦 ―ひとりひとりの能力をひきだす日本語教育を目指して

国際交流基金マニラ日本文化センター
EPA研修チーム:久野元・早川直子・本間理恵・林都矢子
中等教育チーム:西村尚・大日方春菜
JFT-Basicチーム:安宅純子
にほんご人サポートチーム:藤光由子

(1) EPA日本語研修 ー対面・オンラインの良さを活かしてー

 2020年度から2期にわたり、オンラインのみで授業をしてきましたが、2022年度(第15期)はオンライン学習では学習の進捗が困難な候補者(学習者)約30名を対象に、対面の授業を再開しました。

もみじクラスの授業中の写真
看護・介護の語彙を学ぶ「ケア基礎語彙」(もみじクラス)

 候補者たちからは「自宅で学習するよりも集中できる」「わからないことを先生に質問しやすい」などの声が聞かれ、オンライン学習の難点が解消されている様子がうかがえます。また私たち教務スタッフや講師としては、候補者のケアがしやすくなりました。そして何よりも、教室で候補者が学習に励む様子がありありと見られ「ようやく元に戻ってきた」という感慨深さがあります。

いちょうクラスの授業中の写真
看護・介護の語彙を学ぶ「ケア基礎語彙」(いちょうクラス)

 一方、研修の最後に実施する「調べ学習発表会」では、今期もオンラインの強みを活かして日本にいる研修関係者を招き、日本語学習の成果を見ていただきます。
 第15期研修で学んだ候補者たちは2023年6月に渡日し、さらに6か月の日本語研修を受けます。看護師、介護福祉士の国家試験合格に向かって、これまで同様、明るく前向きに進んでいってくれることを願っています。

(2)公立中等教育機関 の日本語教育を支える先生たち

 2009年からフィリピンの中学校(4年制)で始まった日本語教育は、現在59校で実施されており、およそ5,000人の生徒たちが日本語を学習するまでの広がりをみせています。この中学校の日本語教育を支えているのは、157人の現場の教師たちです。それぞれが英語やフィリピノ語、社会や数学といった自身の担当教科を教えながら 日本語教育に携わっているのです。私たちはこうした先生たちに対して、日本語能力の向上や、使用教材 『enTree‐Halina! Be a NIHONGOJIN!!-』の内容理解などの サポートを行っています。
 2022年7月、第6期生49名の先生たちに対する2年に及ぶ教師研修が始まりました。学期休み中の5週間の集中研修、それに続く隔週土曜日実施のフォロースルー研修が、ほぼ全てオンラインで実施されました。2年目の研修も同様のスケジュールで実施され、2024年の5月に修了する予定です。実はこの研修の授業を担っているのは、同じ現場で日本語を教える先輩教師たちです。彼らの献身的なサポートなしに、この研修は成り立たないものになっています。

教師研修会開会式の写真
教師研修開会式の様子

 11月、私たちはルソン島の各校を訪問し、授業見学を開始しました。そこには研修を始めて数か月しか経っていない 先生たちが既に教壇に立ち、立派に授業を行っている姿がありました。これも教師としての日ごろの経験やスキルの賜物なのであろうと認識し、感激すると同時に頼もしさを覚えました。

(3)渡日就労者への日本語教育をサポートする『いろどり』ファミリーへようこそ!

 2022年度はコロナ禍で減少していた就労者の渡日がフィリピンでも本格的に再開し、「日本で働きたい!」という夢を抱くフィリピンの若者をサポートする送り出し機関及び日本語教育機関の多くが活動を再開しました。フィリピンの日本語学校も数年間にわたりオンライン授業が中心となっていましたが、2022年度からは完全に対面授業に戻る学校もあれば、オンラインと並行して開講する学校もあり、我々はそれらの機関を訪問して現場の教師の声や学習者の様子を直接見聞きできるようになりました。
 就労を目指すフィリピンの若者にとって、日本の生活や仕事をする際に必要なコミュニケーション力を身につけることは不可欠です。そのような基礎的な日本語を学ぶための教材『いろどり 生活の日本語』(以下、「いろどり」)について、その考え方の背景を知り、教え方を理解・実践することはフィリピンの日本語教師にとって新しい挑戦となっています。2022年度は月2回ペースのオンライン勉強会「いろどりマラソン」や、バギオ・マニラ・セブなどの各地域で開催された教師研修セミナーを通して、多くの教師が『いろどり』に対する学びと理解を深めました。2023年度も引き続き現地教師・インストラクターの養成を目指し、『いろどり』ファミリーのメンバーを増やしながら、現場の教師のみなさんと共に走り続けていきます!

いろどりマラソン地図の写真
いろどりマラソン地図

(4)教師の学び合いを広げるオンラインワークショップ「先生の輪」

 教師として成長していくには、授業実践を言語化し、多角的な視点から振り返る機会が必要です。それを一人で続けるのは難しいかもしれません。でも、仲間といっしょに、経験や悩み、アイデアや工夫を共有できる場があったらどうでしょうか。マニラ日本文化センター主催「先生の輪」は、教師の日々の実践の省察を通じた学び合いの場です。企画チームは、毎回活発なブレインストーミングを経て、教師の悩みに寄り添うテーマを設定し、対話を引き出すリソースとアクティビティを準備します。フィリピン人教師有志による実演や教室場面のロールプレイなど、演劇的手法を活用した参加体験型活動を多く採用しており、ワークショップでの学びを自分事として捉えられるため、参加者の満足度が非常に高い事業の一つです。2022年度は合計3回実施しました。2023年1月のテーマは「こんなときどうする?」。参加者それぞれのクラスでの「困った経験」を出しあい、ユーモアたっぷりに「ミニ再現ドラマ」を演じながら、さまざまな指導法の可能性を話し合うことができました。フィリピンでは互いのストーリーを交換すること、誰かと分かち合うことを喜びとする温かいシェアの文化がいたるところで観察できます。この豊かな土壌のうえに、日本語教育の専門性を育てる場が根付いていくよう、学びの仲間として貢献していきたいと思っています。

  • 「先生の輪」ポスターの写真1
    2022年6月「先生の輪」のポスター
  • 「先生の輪」ポスターの写真2
    2023年1月「先生の輪」のポスター
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