世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)タイ北部で広がる日本語、深まる日本語

国際交流基金バンコク日本文化センター (タイ北部中等教育機関)
下村朱有美

みなさま、サワッディーチャーオ(タイ北部のことばで「こんにちは」)!チェンマイに日本語専門家(以下、専門家)として赴任して2年がたちました、下村です。

私はチェンマイの中等教育機関を拠点とし、タイ北部17県の日本語教育のサポートを行っています。主に中等教育機関(中学校・高校)の日本語教育を担当していますが、タイ北部に派遣されている専門家が1名だけであるため、様々な形態の日本語教育に接する機会があります。今回は点字版の日本語教科書の作成と、タイ北部で『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)が使用されている日本語教室の様子をお届けしたいと思います。

タイ北部の高校の日本語クラスでは、目が見える生徒と視覚に障がいがある生徒が一つの教室でともに学んでいることがあります。このような教室では、点字版の日本語教科書も使われています。同一の内容が書かれている教科書があれば、生徒同士が助け合って勉強することができますし、自習にも活用できます。

点字版の写真
『日本語 あきこと友だち』点字版(試用版)

2017年にタイの中等教育機関向けの教科書である『日本語 あきこと友だち』が改訂されました。この改訂にあわせ、点字版の同教科書も改訂作業が始まりました。実際にこれまで点字版を使用してきた方のご意見を聞いたり、点字の教材作成に関する情報を集め、多くの方々にご協力をいただきながら作成が進んでいます。2018年5月現在、試用版を作成しているのですが、日本点字やタイの高校の日本語教育事情についての知識が必要である、アクセスしやすい機材が限られる、など様々な課題もあります。私はチェンマイに赴任するまでは点字の知識はほとんどなかったのですが、コンピューターの表計算ソフトを活用して点字化をスムーズにできるように試みたり、より使いやすい点字版教科書となるよう日本語教育の側面から検討したりしています。視覚に障がいがある生徒のサポートにあたる周囲の方々にも記載内容を理解していただき、サポートしやすいよう解説書の作成も並行して行っています。

タイで使われている点字と日本点字は仕組みが異なり、習得に時間がかかる人もいますが、日本点字を身につけて日本語能力試験に挑戦する人もいます。クラスメイトと協力して日本語劇のコンテストに出る人もいます。目が見えない人の中からも、「日本語を使って仕事をする」という夢を叶える人も出てきました。

病院内で日本語を勉強する写真
病院内での日本語クラスの様子

『まるごと』も順次タイ語版が出版されています。タイ北部の教育機関でも『まるごと』が使用され始めたり、使用を検討しているという話をうかがうこともあります。先日、チェンマイにある病院の看護師さん向けの日本語クラスでもこの『まるごと』が使用されているということを聞き、見学に行ってきました。この病院は日本の医療機関と提携があり、看護師さんが日本で研修を受けることもあるそうです。日本語の学習歴に差があるとのことでしたが、設定されたタスクが達成されるよう、それぞれの知識や経験を生かして熱心に取り組む、笑顔のあふれるクラスでした。『まるごと』で日本語を学習するようになって「もっと学習が楽しくなった」という感想もお聞きすることができました。使い方などの面で先生や受講生の方にお話を聞きながら、これからも『まるごと』がさまざまな場所で活用されるよう、サポートができればと思います。

日本のモノ・情報があふれるタイでは、日本語学習の選択肢も増えてきたように感じます。これからもタイ北部の方々が多様なスタイルで日本語に触れ、親しむ機会を作ることができるよう、尽力していきたいと思います。

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