世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)つながりを作り強化していく
バンコク日本文化センター(タイ北部中等機関)
津崎千尋
みなさま、サワディーチャーオ!(タイ北部のことばで「こんにちは!」)
タイの首都バンコクから北へ約700キロ、飛行機で約1時間のところに位置するチェンマイに赴任し1年がたちました。私はここチェンマイにあるユパラート・ウィッタヤライ校(以下、ユパラート校)を拠点に、タイ北部(以下、北部)中等教育担当の日本語専門家(以下、専門家)として業務を行っています。本レポートでは私が行っている主な専門家業務を紹介したいと思います。
1. 配属先校支援
配属先のユパラート校はチェンマイの中心部、お濠と城壁に囲まれた旧市街の中にあります。ユパラート校にはカウンターパート(以下、CP)となる経験豊かな頼れる5名のタイ人日本語教師がおり、日々創意工夫しながら授業を行っています。
ユパラート校は北部の中等日本語教育のリーダー的役割を担うセンター校※1です。毎年センター校として日本語コンテストや日本語キャンプなどを開催しています。専門家のユパラート校における主な業務の1つが、このセンター校業務を支援することです。特に日本語コンテストでは、ディクテーション競技や朗読競技の問題準備の他、近隣大学への審査員依頼などの事前準備をCPたちとともに行います。またコンテスト当日は、開会式・閉会式や審査員業務などをサポートします。
配属先のユパラート校
2. 学校訪問
北部担当の専門家はユパラート校に拠点に置きながら北部17県の日本語教育支援を担当しています。北部では確認できているだけで90校以上の中等教育機関で日本語教育が行われています。これら日本語教育が行われている学校を訪問することも専門家の大きな業務の1つです。
学校訪問では日本語の授業を見学させてもらい、その後授業についてフィードバックを行います。そして先生方と一緒にそれぞれの学校に合ったよりよい日本語の授業を考えたり、アドバイスをしたりします。また国際交流基金バンコク日本文化センターが行っている様々な研修に参加した先生方が、その研修で得たものを実際の授業でどのように活かしているかを把握することも、授業見学の役割の1つだと考えています。
学校訪問では授業見学の他、先生方と情報交換を行います。そして各学校や地域における日本語教育の動向を教えてもらったり、どのような情報や支援が必要とされているかを把握したりします。特に県の中心部から外れた田舎町にある学校では、情報が行き渡らず周りに相談できる相手もいない中で孤軍奮闘している先生もいます。時間が許す限り1つでも多くの学校を訪問し、必要な支援ができるようネットワークを強化していきたいと考えています。
授業の様子
3. 北部地方教師研修
北部ではタイ人の先生方はもちろんのこと、日本人の先生や日本語パートナーズ、ロングステイヤーの日本人ボランティアなど、多くの人が日本語教育に携わっています。専門家が行う業務の1つに教師研修がありますが、北部で行う教師研修はタイ人の先生方の資質・能力の向上だけでなく、多様な背景を持つ人たちが共に学べる場を作ること、協働作業を通して日本語教育に携わる人たちのネットワークを強化することなども目的にしてデザインしています。
2020年1月には、「生徒たちが生きる15年後の社会を考えよう―未来のために必要な日本語教育って何?」というテーマで教師研修を行いました。研修には中等教育機関で日本語を教えるタイ人や日本人の先生たちの他、大学で日本語を教えている先生、日本人ボランティア、初等教育機関で日本語を教えている先生など、多様な背景を持つ23名が参加しました。研修では生徒たちが社会人として働く15年後の社会を予測することから日本語教育の役割・教師の役割を考えました。そしてそれをもとに日々の実践を振り返りました。参加者からは、「普段意識していなかった視点から今の実践を振り返る機会となった」「多様な背景を持つ参加者がいたことで自分とは異なる考えを知ることができ考えが深まった」といった声が聞かれました。また、研修中に同じグループになった先生の学校に他の参加者がサポートに行くというつながりもできたようです。
2020年度は新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大のため、タイ中等教育機関の新学期開始も7月に変更になりました(通常は5月スタート)。また授業が一部遠隔授業になったりするなどの影響もでています。専門家の業務も状況に合わせ臨機応変に変更していく必要がありますが、どんな状況でも北部の日本語教育のために尽力していきたいと思っています。
※1タイ教育省は隣接する県をまとめて一つの教育地区にし、それぞれの地区に「センター校」を設置しています。センター校はその地区の日本語教育の中心的役割を担っています。
派遣先機関名称 | バンコク日本文化センター(タイ北部中等機関) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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Yupparaj Wittayalai School | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
派遣先機関の位置付け 及び業務内容 |
北部地方担当日本語専門家は、バンコク日本文化センターに所属しつつチェンマイ校のユパラート・ウィッターヤ校を拠点に業務を行う。当校はチェンマイ県の伝統ある有名校で、タイ北部の中等日本語教育のリーダー的役割を担う日本語センター校である。日本語コースは今年度で16年目を迎え、日本語専門家派遣も16年目となる。日本語専門家は教師研修の運営や学校訪問、巡回指導、教員間のネットワーク形成支援といた地域全体に対する支援と、派遣機関に対する日本語教育支援を行う。また、全国規模の中等教育機関関連イベント(日本語コンテストなど)への支援・協力も行う。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
所在地 | 238 Praplokkloa Rd,. T. Sripoon, A. Muang, CHIANGMAI 50200 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
国際交流基金からの派遣者数 | 専門家:1名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の所属学部、 学科名称 |
第2外国語グループ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
日本語講座の概要 |
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