日本語専門家 派遣先情報・レポート
バンコク日本文化センター(東北部中等)

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
スラナリー・ウィッタヤ―校
Sranaree Wittaya School
派遣先機関の位置付け及び業務内容
東北地方担当日本語専門家はバンコク日本文化センターに所属しつつナコンラーチャシマ―県のスラナリー・ウィッタヤー校を拠点に業務を行う。当校は、東北部で伝統のある進学校で、6年制の女子中高一貫校である。専門家は、タイ人教師と協力して日本語クラスを担当し、助言、支援を行っている。加えて、タイ東北部全体の中等教育機関への支援(学校訪問、情報収集・提供、教師研修、ネットワーク構築、イベントへの協力)を行っている。また、全国規模の中等教育機関関連イベント(日本語コンテストなど)への支援・協力も行う。
所在地
248 Mittraphap Rd.,A.Muang,Nakhon Ratchasima 30000
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名
日本語講座の所属学部、学科名称
外国語部
日本語講座の概要

本当の日本語に触れる楽しい活動を―タイ東北部での多読活動

国際交流基金バンコク日本文化センター
橋本 愛子

私はスラナリー・ウィッタヤ校(以下、スラナリー校)というタイ東北部の中等教育機関に派遣されています。スラナリー校のあるナコンラチャシマー県は、タイではバンコクに次いで人口の多い県で、タイ東北部の玄関口と言われています。このナコンラチャシマー県のスラナリー校を拠点に、タイ東北部の中等教育の日本語教育支援を行っています。

タイ東北地域の玄関、ナコーンラチャシマー県

タイは日本人にとって比較的親しみのある国だと思います。それでも、ナコーンラチャシマーという地名を聞いたことがある方は少ないのではないでしょうか。ここはバンコクから車で4~5時間程度の距離にあり、タイ東北地方(イサーン地方とも呼ばれます)へ旅行する場合は、必ずナコーンラチャシマーを通ることから、「東北地方の玄関口」と呼ばれています。私はこの東北地方の玄関口にある、スラナリーウィッタヤ―校(以下、スラナリー校)という女子中等学校に派遣されています。スラナリー校でタイの先生方と一緒に日本語を教えながら、東北全土にある、日本語教育を行っている中等学校を訪問したり、そこで働く日本語の先生方の支援などを行っています。

リソースの少ない地域で奮闘するタイの先生方

東北地方は、バンコクなど都市部には当たり前のようにある日本食レストランや、日本からの輸入品なども目にする機会が少なく、日本語を勉強していても、なかなか教室の外で実際の日本語に触れることがありません。そんな中、タイの先生方はそれぞれの地域で、そこで手に入る物を工夫しながら日本文化の体験的なクラス活動を考えたり、インターネットを活用したりしながら、学生たちにできるだけ「本当の日本語」に触れる機会を作ろうと試行錯誤をしています。実際、学校訪問を行う中で「地方でも日本語を使った楽しい活動ができないか」という現地の先生方の声を多く聞きました。

地方の先生方と同じ環境で―多読活動に挑戦

タイの先生方の声を聞き、実際に「地方でもできる日本語を使った活動」をやってみようと思うようになりました。そこで、派遣先であるスラナリー校の先生と相談して、週に一度、放課後に多読活動をしてみることにしました。
多読(たどく)とは、字の通り「たくさん読む」ことです。さまざまな外国語教育で行われている学習方法のひとつで、好きな本を楽しみながらたくさん読むことで、外国語の総合的な能力を上げる効果があると言われています。
ただし、好きな本をたくさん読むには、生徒の興味関心に合うよう、できるだけたくさんの本を用意する必要があります。もちろんタイの地方では日本語で書かれた本は手に入りません。そこで、オンライン上に無料で提供されている多読用の絵本を活用することにしました。結果、100冊以上の絵本を用意することができました。
多読は放課後の課外活動ですから自由参加です。最近は読書習慣のない生徒が多いので、参加者がどのぐらい集まるのか心配しつつ活動を始めてみました。すると、毎週学年やクラスを超えて、たくさんの生徒が読書を楽しむために教室に集まるようになりました。数か月後、参加者にアンケートを取ったところ、「日本語の本を楽しむことができてうれしい」という感想をくれた生徒もいて、生徒たちも多読を楽しんでくれていることが分かりました。 スラナリー校での実践を経て、「これなら東北地方のどこの学校でも無理なく取り組めるし、学生も楽しんで参加できる!」と確信を持つことができました。

  • 準備した絵本の写真
    準備した絵本
  • 多読活動に参加する生徒の写真
    多読活動に参加する生徒

実践経験をもとに先生向けのワークショップを実施

後日、スラナリー校での多読活動の経験をもとに、オンラインのワークショップを開きました。ワークショップでは、東北の先生方に対してスラナリー校での実際の活動例を示しながら、多読活動を紹介しました。同じ東北の教育現場での実践経験をもとにしていますから、ワークショップに参加した先生たちと現場のイメージを共有することもできたし、具体例を示しながらノウハウを伝えることもできました。実際、ワークショップの後に「この活動なら私の学校でもできそう」という感想をもらうことができ、とてもうれしく思いました。

地方の現場にいるからこそ分かること

私は、地方の中等学校で日本語を教えているので、タイの先生方と同じ環境を体験しているといえます。今回の多読ワークショップも、私自身が実際にやってみたからこそ、タイの先生方に「できそう!」と思えるような提案ができたと考えています。私にとって、地方の日本語教育現場に身を置くことは、タイ東北地方の日本語教育を知る上でとても大切なことだと日々感じています。これからも、現場にいるからこそ見える・聞こえる情報を、タイ東北地方の日本語教育支援につなげていきたいと思います。

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