世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) チェコや日本の文化をブログで発信

カレル大学
森田 衛

国際交流基金が推進するJF日本語教育スタンダードは「相互理解のための日本語教育」を理念としています。チェコに派遣されている日本語専門家は、チェコや日本の文化を日本語でわかりやすく紹介することによって、双方の価値観を理解し尊重しつつ相互理解が深まることを期待しています。ここではその取り組みをいくつかご紹介したいと思います。

アルフォンス・ミュシャ「スラブ叙事詩」に大学院生が挑む

美術館で絵画を丹念に観察の写真
美術館で絵画を丹念に観察

日本でも有名なアルフォンス・ミュシャ(Alfons Mucha: 1860-1939)は、現在のチェコで生まれました。独特の感性で花や女性を描いたポスター画とともに、日本ではミュシャの名で知られていますが、チェコ語の読み方は「ムハ」となります。フランスやアメリカで活躍したミュシャが晩年に故郷に戻り、18年の歳月を掛けて完成した絵画が「スラブ叙事詩」です。「スラブ叙事詩」はこの地域に伝わる神話や歴史的事件をモチーフにした大作20枚からなりますが、それをカレル大学日本研究学科修士課程の学生に一枚ずつ割り当てて、絵の紹介と感想文を書いてもらうことにしました。感想文を書くにあたっては、まず美術館へ行って、各自が担当する絵をじっくりと鑑賞するところから始めました。最初は一枚が縦横6メートルから8メートルもある絵の迫力に圧倒されますが、目が慣れてくるにつれて、絵の細部にも工夫が凝らされていることに気がつきます。それらを丹念にノートに取り、後日感想文を書き上げました。学生の絵に対する感想やその表現の仕方は様々ですが、彼らが属するスラブの歴史をミュシャの絵を通して日本人に知ってもらいたいという気持ちは十分に伝わってくると思います。作文はカレル大学日本研究学科の学生が作った日本語のブログ「プラハから日本へ」に載っていますので、もしよかったらご覧ください。

知られざるチェコの魅力を大学生が紹介

中世の面影を残す街並みが見られるチェコには毎年多くの観光客が訪れますが、よく知られている観光名所以外にもおすすめの場所がたくさんあります。そんな旅行ガイドブックに載っていないような場所を、学士課程の3年生が学生独自の視点で紹介する記事を書きました。故郷の様子、大学の様子、大学生活、テレビ番組、お気に入りの喫茶店などについて学生が熱く、時にユーモアを交えて語っています。市販の旅行ガイドブックのような実用性はありませんが、楽しく読める記事になりました。こちらも「プラハから日本へ」のページに収録されています。

日本語学習者が日本語で小噺に挑戦

覚えた小噺を大勢のお客様の前で披露の写真
覚えた小噺を大勢のお客様の前で披露

柳家さん喬師匠と門弟の柳亭左龍師匠をプラハにお招きして、「涙と笑いの落語の世界」と題した落語公演を実施しました。チェコで初めてとなる本格的な落語公演を実現させるために、1年以上前から師匠方や関係者とともに準備を進めてきました。会場は150名のお客様で一杯になりました。落語にはチェコ語訳を付けましたが、落語は同じ演者が話してもその場の雰囲気によって会話が少しずつ変化する芸ですので、ここでは逐語訳をしないで場面ごとにチェコ語訳を付けることにしました。チェコ語訳はカレル大学を卒業後、東京大学大学院で落語研究に従事したシルヴィエ・ブランデイソヴァーさんにお願いしました。さらに噺の中に出てくる事物で、訳語だけではチェコのお客様にわからないような言葉(例えば「芝浜」に出てくる棒手振(ぼてふり)、「初天神」に出てくる団子の餡と蜜の違いなど)については、プロジェクターに投影した訳語の近くにカラー写真を添えました。こうした工夫が功を奏して、日本語がわかる方はもちろん、日本語がわからない方もさん喬師匠の「芝浜」「初天神」、左龍師匠の「つる」を楽しむことができました。

また「日本語学習者による小噺披露」の時間には、初級レベルから超級レベルに達しているような方まで、チェコで日本語を勉強している11名が高座に上がり小噺を披露しました。さん喬師匠は10年ほど前から、毎年夏に米国・ミドルベリー日本語学校を訪問して、日本語学習者への小噺指導や、落語公演をなさってきた実績があります。今回も公演前日の稽古で、発表者一人ずつに師匠が指導すると、とたんに発表者の所作が見違えるほど良くなり、小噺がいきいきとしてきました。そして、発表当日は全員が覚えた小噺をお客様の前で堂々と披露して、会場から笑いと拍手を受けていました。日本語学習者の小噺の模様は「チェコ日本語教師会」のサイトに入っていますので、こちらもご覧いただければ幸いです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Charles University in Prague
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
チェコにおいて日本語・日本研究専攻の学科をもつ3大学のうちの一つであり、同国の日本研究・日本語教育の中心的な役割を担っている。日本研究の専門家の育成を目指し、日本語だけでなく日本の社会・経済・歴史・文学・思想史等について幅広い知識を身につけるための教育が行われている。日本語専門家は日本語教授、カリキュラム・教材作成への助言を行うほか、日本語教師会勉強会の主催、他の教育機関の日本語教師への協力・助言、日本語弁論大会等日本語関連行事への協力、また日本語教育関係者のネットワーク作りを業務とする。
所在地 Nam. Jana palach 2, Praha 1, 116 38 Czech Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
カレル大学哲学部東アジア研究所日本学専攻(通称:日本研究学科)
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1947年
国際交流基金からの派遣開始年 1991年
コース種別
専攻
現地教授スタッフ
常勤5名(うち邦人0名)、非常勤3名(うち邦人0名)
学生の履修状況
履修者の内訳   学士:各学年15名~20名程度
修士:20名程度
学習の主な動機 日本語、日本文化や文学・歴史・日本社会への関心、留学・就職のため
卒業後の主な進路 日系企業就職、通訳・翻訳、研究留学、日本語教師など
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2~N1合格程度
日本への留学人数 短期も含め7~8名

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