世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)リーダーからアドバイザーへ

キルギス共和国日本人材開発センター
山口紀子

キルギス共和国は親日家が多いと言われ、日本に何らかのゆかりを持つ人々も少なくなく、実際地方都市に行っても、「何人?日本人?親戚が日本に留学しているんだよ」とか、「日本で働いていたことがあるよ」と話しかけられることがよくあります。日本語教育は1991年に開始され、現在の総学習者数は1,000名前後。大学で主専攻として日本語を選択する学生は少しずつ減っていますが、かわりに初中等教育機関や趣味の講座で「楽しむために」日本語や日本文化を学ぶ人の数が増えており、全体として緩やかな増加傾向にあります。ここキルギスでの日本語専門家の仕事について以下にご紹介します。

キルギスにおける日本語専門家

「先生、どうしますか?」年長者の意見が絶対的に尊重されるキルギス社会では、どんな小さな決断も先輩や上司の指示を仰ぐのが一般的です。

当地での日本語専門家(以下、専門家)の役割は大きく2つあり、中心となるのは派遣先であるキルギス共和国日本人材開発センター(以下、日本センター)の日本語講座を運営・管理すること。そしてもう1つはキルギス全体の日本語教育への支援です。どちらにおいても、あらゆる場面で決断し、指示を出し、問題解決を図る、そんな「リーダーとしての専門家」が期待されています。

日本語講座の運営

「まるごと」コースの授業風景の写真
「まるごと」コースの授業風景

今年、日本センターは設立20周年を迎えました。日本語講座は開講以来現在まで、キルギスの日本語教育の中心的存在です。短期コースや隔月企画などを含めると、年間延べ400名以上が日本語を学ぶ、キルギス最大の日本語教育機関です。2013年9月からJFスタンダードに基づいたコース設計により従来の4年制コースを一新し、また2014年1月にスタートした「まるごと日本のことばと文化」を採用した新コースも、現在3レベルを開講しています。専門家は授業、教務、経理、総務、広報、人事など講座の全ての業務を担います。かくて、1日に何度も「どうしますか」と待ったなしの決断を迫られることになります。そんな業務の合間を縫い、授業観察や教案指導、新講座や新企画の計画・実施も。2014年は「日本語会話モーニングコース」を実施しました。2015年度は初中等教育機関の学習者増加を考慮し、ジュニア向けの学習教材を専任講師2名とともに制作中です。また、初中等教育機関への日本語紹介出張講座も計画しています。

日本語教師会

第2回キルギス日本語教育セミナーの写真
第2回キルギス日本語教育セミナーの様子

首都ビシケクを中心に、年間通して様々な日本語関連行事が開催されていますが、その多くを主催するのが「キルギス共和国日本語教師会」です。今年15周年を迎えました。キルギスの日本語教師のほとんどが会員になっており、行事ごとに実行委員会を形成して実務にあたっています。2014年度は2度の日本語教育セミナー、日本語能力試験、弁論大会などほぼ2か月おきに大きな行事があり、実行委員の組織されない期間がないほどです。先生方も「行事が多くてたいへん」だとは言いながら、2015年は更に、日本語能力試験年2回開催を実現しました。専門家はここでもリーダーとして采配を振るう役割を期待されています。

広く中央アジアの専門家として

キルギス・カザフスタン・ウズベキスタン・トルクメニスタン・タジキスタンの中央アジア5か国の日本語学習者が出場する、中央アジア日本語弁論大会が、2015年5月にウズベキスタン会場で開催されました。これに併催された、引率教師らを対象とした中央アジア日本語教育セミナーにおいて、カザフスタンの専門家とともに講師を務め、「課題達成型の授業構成を考える」と題したワークショップを実施しました。その後6月には隣国タジキスタンを訪問し、タジキスタン国立言語大学において、大学生向けの文化講座と教師向けの教授法セミナーを実施しました。タジキスタンには専門家が派遣されていません。そうした近隣諸国からの期待にも応えていく必要があると思います。

今後の課題

キルギスで日本語教育が始まって20年以上がたちました。開始当初は教師の多くが日本人でしたが、現在はほとんどがキルギス人・ロシア人の教師で、ベテランも多くいます。それでも専門家がリーダーとして問題解決にあたるべきだ、という考えは根強く残っています。現地の先生方が自信をもってリーダーシップを取れるよう、アドバイザーとしてサポートするのがこれまでも、そしてこれからも専門家の課題です。「先生、どうしますか?」という問いに、時には「どうしましょうねえ」と答えてみています。すると代わって決断してくれるベテランの先生方、控えめながら有用な提案をしてくれる若手の先生方がいます。リーダーの交替は、少しずつ少しずつ進んでいます。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Kyrgyz Republic-Japan Center for Human Development
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
1995年に支援委員会により設立され、2003年JICAに移管された国際協力機構(JICA)日本センタープロジェクトによる現地法人。市場経済化に資する人材育成を目的としたビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業を活動の主眼としている。日本語講座は2013年8月より国際交流基金との共催事業となり、JFスタンダードを核としたカリキュラムによる日本語コースを提供している。日本語専門家は一般成人を対象とした日本語講座の運営とともに、キルギス全体の日本語教育に対する支援・協力を行う。
所在地 KNU Building7, Turusbekov St.109, Bishkek 720033, Kyrgyz Republic
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2003年

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