世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ポーランドの日本語教育現場から 2012

ヤギェロン大学
田中 香織

 私が国際交流基金の日本語専門家(以下、専門家)として活動している場所は、中央ヨーロッパにあるポーランド共和国です。この国の南に位置するクラクフ市にある国立ヤギェロン大学文献学部東洋学研究所日本中国学科が私の所属先です。学生たちには言語学や古典文学、近代文学をはじめとする日本研究に必要とされる高い日本語の知識が求められます。

 ポーランドにおける専門家の役目は所属先の学生たちの日本語能力の向上に努めること、そして、国内の各地で熱心に日本語指導に当たられている先生方の活動を支援し、任国全体の日本語教育の発展に努めることです。

主体的な学生たちを支援する喜び

修士課程学生による日本語教育実習の写真
修士課程学生による日本語教育実習

 昨年もこの場でご紹介した合同合宿(国内外から200名弱が参加する日本学専攻の学生の為のワークショップ)は学生が主催する活動としては最大ですが、学内では他にも学生からの要望により始まった学習活動が行われています。一つは日本語教師を将来の職業として意識する学生のための日本語教授法の課外授業、もう一つは会話能力の向上を目指す学生たちによる日本語会話のサークル活動です。前者は上級学年の学生7名が毎週一回集まり、教育理念について話し合ったり、教え方を学んだりした後、後輩たちの授業で実習もしました。後者も週に一回、こちらはボランティアとしてご参加くださる市内在住の日本人の方々にも支えられています。

 学生たちの自ら学ぶ姿勢は、その能力を認め、見守りつつ、学生を信頼して任せる現地の先生方の教育観により育つものだと思います。そうして育った若手教師の授業を時々覗かせてもらいます。先日、学生同士が交替で教師役になり、日本語文法を教え合う中級の授業を実践、指導されているのを参観し、学生自らが主体的に学んできた結果が教授法に生かされ、指導を受ける学生の力を十分に発揮させていることがわかりました。

熱心な各地の先生方と共に

日本語教師会勉強会の様子の写真
日本語教師会勉強会の様子

 ポーランド国内の日本語の先生方にはポーランド日本語教師会の活動を通じてお世話になっています。活動の中心となっているのは年に二回の勉強会で、専門家はその企画と実施を担当しています。この勉強会や懇親会で知り合った仲間同士が、それぞれの勤務先や居住地で日本語・日本文化関係のイベントを主催する際、応援に駆けつけたり、一緒に取り組んだりするネットワークが強まりつつあります。これはポーランド国内全体の日本語学習熱を高め、日本語教育を盛り上げていきたいという先生方の熱意の現れであると思います。

 ポーランドは国土が広く、日本語教育機関も各地に点在しています。日々の教育活動にはどうしても個々で取り組むことが多い中、自身の教育活動の幅を広げたいと望まれ、教師同士の情報交換と連携を求める現地の先生方の活躍を、これからもお手伝いしていけたらと思っています。

ポーランドにおける日本語教育の展望

 21世紀の現代においても、ポーランドの人々にとって、日本はやはり遠い国だと言えるでしょう。だからこそ、今なお日本独特の伝統文化や日本文学への興味が若い学生たちからも失われることはありません。しかし、同時に、様々なメディアを通じ、日本語や日本に関わる情報に触れることができ、昔に比べれば日本へ行く機会を得やすい時代になりました。それに伴い、日本研究の対象や方法も多様化しています。これからのこの国の日本語教育に必要なことは、多様化する日本研究に役立つ日本語能力を育てること、日本研究以外の分野へ進む学習者のニーズへの対応、また、現地に適した教育であるために、現地教師と日本人教師がますます協力し合うことだと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ヤギェロン大学はポーランドで専攻科目として日本学を学べる国立大学4校の内の一校で、ポーランドの日本研究を牽引する役割を担っている。派遣先機関における主な業務は学生の日本語能力向上に努めることである。
所在地 ul. Pilsudskiego 13, 31-110 Krakow, Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
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