世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)世界の教育現場から(ポーランド)

ヤギェロン大学
中野二郎

ヤギェロン大学前にて学生達の写真
ヤギェロン大学前にて学生達と

日本語専門家(以下、専門家)として、ポーランド共和国の南部に位置するクラクフ市のヤギェロン大学に派遣されています。私が所属する文献学部東洋学研究所日本中国学科では、日本研究を目的としたカリキュラムが組まれており、日本文学、日本語学について高いレベルの教育が行われています。

任国における専門家の役割を大きく二つに分けると、一つは所属機関で授業や課外活動等で学習者の日本語能力向上に資すること、もう一つは、日本語教師会や大使館主催の行事を通じてポーランド全体の日本語教育の発展に貢献することです。

 

任国における日本語は、英語やドイツ語のように必ずしも就職に直結する言語ではありませんが、学習者のモチベーションは高く、レベルの高い学習者も多いです。学習を始める動機としては、アニメ、ゲーム等のサブカルチャーは勿論、華道、茶道、書道等伝統文化の人気が高く、日本語学習につながるケースも多いようです。熱意ある学習者に囲まれることに、日本語教育者として喜びを感じながら、日々の業務に勤しんでいます。

派遣機関での業務

教師としては、特に運用力を高める授業を期待されています。会話、スピーチ、作文・小論文等を担当しています。学習者は将来、日本研究者や日本に関わるビジネスマンとして働くことが期待されるため、大勢の前でも堂々と話せる日本語発信力がつくよう発表する機会を多く設けるべく心がけています。

課外活動としては、クラクフ在住の日本人の助けを借りて、日本語会話サークルを運営しています。日本に関する知識は大学の授業で充分に学んでいる学生たちですが、遠く離れたポーランドでは、なかなか日本人と触れ合う機会がありません。学生たちは、この会話サークルに参加することで、運用力を高め、生の日本人について知る機会を得ています。このように、在外日本人と学習者をつなぐ役割も専門家の仕事と言えます。

日本美術技術博物館(以下、Manggha)での行事

Mangghaでは、広く日本文化を紹介しています。美術品の展示だけでなく、一般市民向けのワークショップも積極的に行っています。2013年は書道ワークショップ、関西弁ワークショップ、落語・小噺ワークショップ等が行われました。専門家は日本語指導助手(以下、指導助手)と共に、イベントのコーディネートやサポートを行い、一般市民に日本文化に触れてもらう機会創出もお手伝いしています。イベントは概ね盛況で一般市民の日本文化に対する高い関心を感じています。

ポーランド日本語教師会(以下、教師会)での業務

教師会は日本語教育に関わる行事をオーガナイズするだけではなく、大使館が行う日本文化関連の行事のサポートもしています。ポーランドでは、日本語弁論大会、日本語教師勉強会(年2回)、コスプレ大会、日本祭り等様々な行事がありますが、専門家は特に勉強会の企画、運営、弁論大会の審査統括など日本語面のサポートを中心に業務をし、その他の行事では、サポート的な役割を担っています。会長や事務局長を中心とする教師会有志の皆さんは、日頃の業務を抱えながらの業務で多忙を極めていますが、”熱意”が様々な行事を成功させています。

クラクフ日本語教師勉強会

国土が広いポーランドでは、全国の日本語教育関係者が集まる機会を創出することは難しく、勉強会は現在年に2回しか行っていません。そこで、専門家が常駐する南部のクラクフ市近郊の日本語教師を対象に勉強会を立ち上げました。目的は、この地域の日本語教育の質の向上、ネットワークの構築です。所属機関を問わず、日本語教育に関わる方々の交流の場としていく所存です。

国際日本学学生ワークショップ(以下、日本合宿)

日本合宿は2014年に第6回を迎えました。国内の日本学科の学生は勿論、ウィーン大学の日本学科に在籍する学生や、ポーランドにいる日本人(大部分は留学生)が共に勉強、交流する機会となっています。日本合宿は、会場の手配、参加者の募集など学生が自律的に行っています。彼らの意向を尊重しながら、日本語教員(専門家、指導助手を含む)は、日本語の授業をアレンジする役割を担っています。今年も、将棋、炭坑節、書道、よさこいソーラン節、漫才、特撮映画等日本文化を紹介する多様な授業が行われ、大盛況でした。

日本合宿の授業風の写真
日本合宿の授業風景

今後の課題

前述したように、任国における日本語はまだ就職するための言語とは言えず、教養としての色彩が濃いです。理想を言えば、東欧と日本との距離がより近くなり、雇用の機会が多く創出されれば、日本、日本語に関心を持ってくれる方は増えるでしょう。しかし、それに関して個人の力でできることは限られています。現在の職務からは、日本文化、日本語に触れることで、日常が豊かになったと感じる人が一人でも増えるよう、日本に“触れる機会”を少しでも多く創出していくことが目前の課題と言えます。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Jagiellonian University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
位置付け:ポーランドにて日本学を主専攻とできる国立4機関の一つ。業務内容①学部生、大学院生に対する日本語教育。主に「実用日本語」の授業を担当。②カリキュラムや教材選択においてアドバイザー的な役割。③ポーランド日本語教師会の活動を支援。④ポーランド国内の日本関連イベントのサポート的役割。
所在地 ul.Pilsudkiego13 31-110 Krakow Poland
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
日本語講座の概要
沿革
  講座(業務)開始年 選択:1978年より
専攻:1987年より
  国際交流基金からの派遣開始年 1987年
 
コース種別
  主専攻
 
現地教授スタッフ
  常勤13名(邦人4名)、非常勤3名
学生の履修状況
  履修者の内訳 学士は各学年20名前後、修士は各学年15名前後
  学習の主な動機 日本研究(文学、文化)、サブカルチャー、武道等への関心
  卒業後の主な進路 博士課程進学、日本企業への就職、通訳・翻訳業等
  卒業時の平均的な
日本語能力レベル
学部卒業:日本語能力試験N2
修士卒業:日本語能力試験N1
  日本への留学人数 例年10名程度

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