世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 受講生のこと

モスクワ市立教育大学
山口 敏幸

一昨年9月にスタートしたJF日本語講座も、2年目を終えようとしている。毎学期2クラスずつ増えていくため、開講当初の2クラスから、今学期は8クラスにまで増え、学習者数は、現在、登録人数で220名に達している。また、教員も10名(日本人5名)にまで増えている。

JF講座の受講生たちの写真
JF講座の受講生たち

8クラス、220名にまで増えたJF講座の受講生であるが、大学生から会社員、公務員、主婦、ジャーナリスト、学者など、さまざまな職種の人たちが、ひとつ教室で日本語を学んでいる。皆に共通するのは、日本語と日本文化に強い興味を持っており、それを学ぶのに大変熱心だということである。また、日本語の学習面では、意外にも、皆、漢字学習に強い興味を示している。授業で、「では、次は漢字です」と言うと、「待ってました!」という顔つきで体を乗り出してくる。日本語の文字の学習は、「ひらがな」を学んだあと、「カタカナ」を学び、さらに、形が複雑で数も多い漢字の学習へと進んでいく。学習者にとっては漢字は大変な負担であるはずなのに、それを楽しみにしている。この現実に少なからず驚いた。おそらく、漢字にはその形に意味があるという点に興味を抱いているのだろう。「大きい」の「大」に点をつけて「犬」、「待ちます」の「待」の斜めの線を1本消して「侍」などとやると、大いに喜ぶ。「学習者にとって漢字は負担」という先入観を覆される、うれしい誤算であった。

JF講座が実施されているモスクワ市立教育大学の写真
JF講座が実施されているモスクワ市立教育大学

授業で仮名や漢字を習って興味を持ったのか、あるいは、もともと興味があったのか、モスクワ日本文化センターで開いている書道の講座に通う受講生もいる。書道のほかにも、漫画やアニメ、Jポップにはまっている若い受講生や、合気道をやってますとか、日本料理の巻きずしが作れますなどと言う受講生、さらには、俳句に魅力を感じ、ロシア語で俳句を作っているという受講生までいる。因みに、ロシアには、ロシア語による俳句の会が存在する。日本語だけではなく、彼らの日本に対する興味は幅広いのだなと実感した。

先日、ある受講生から、夏に日本に短期留学したいが、この学校とこの学校のどちらがいいかと質問された。JF講座優秀受講生訪日研修に参加した受講生である。日本が大好きで、高いお金を払ってでも、また日本に行きたいというのである。日本の語学学校でも、こうしたロシア語を母語とする留学希望者のために、サイトにロシア語を載せたり、ロシア語のスタッフを揃えたりしているようだ。

JF講座の教科書「まるごと」は、日本語だけではなく、その背景としてある日本文化も積極的に教えるような内容になっている。「国際交流の場を人々の相互理解につなげるために、言語と文化の両方を学ぶ日本語教育を展開することが重要である」と考えるからである。教える側からすると、これはかなり難しいことではあるが、受講生の日本に対する幅広い興味に応えるために、講師一同努力していきたいと考えている。

先だって、安倍総理がロシアを訪問し、懸案となっていた日露文化センター設置協定が締結された。これから、ますます日本とロシアの文化交流が進んでいくことと思う。そして、そうした交流にJF講座の受講生たちが一役買ってくれることを願っている。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 モスクワ市立教育大学(略称:MGPU
Moscow City Teachers’ Training University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金モスクワ日本文化センターとモスクワ市立教育大学(以下、MGPU)との協定に基づき、2011年度から、JF日本語講座がMGPUの2教室で開講されている。MGPUは初・中等教育の教員養成を目的に、2005年、モスクワ市のリーダーシップにより創設された。JF日本語講座はJF日本語教育スタンダードに準拠したコースを提供しており、専門家は、このJF講座の管理・運営を主な業務として行っている。
所在地 Russia, 105064, Moscow, M.Kazenny per., 5
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
東洋学学部 日本語学科
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