日本語専門家 派遣先情報・レポート
モスクワ市立教育大学

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
モスクワ市立教育大学
Moscow City University
派遣先機関の位置付け及び業務内容
派遣先機関であるモスクワ市立教育大学(かつてはMoscow City Teachers’ Training Universityであった。現在でも当地では教育大学として認識されている)は、初等・中等教育の教員を専門に育成する教育機関である。
日本語学科では教員養成の他、広く日本語専門家育成のための日本語教育が行われている。
日本語専門家は同大学での授業を担当する他、モスクワ日本文化センターの日本語講座の管理運営に携わっている。
所在地
Moscow, 105064, Maly Kazenny pereulok. 5b, Russia
国際交流基金からの派遣者数
専門家1名
日本語講座の所属学部、学科名称
通訳・翻訳学部日本語学科、東洋学部日本語学科
日本語講座の概要

オンライン教室の向こうに

モスクワ市立教育大学
大谷 英樹

 コロナ禍もようやく落ち着き平穏な日常に向かいつつある一方、急激に変化する世界情勢の中で報告者の現地赴任は残念ながら未だ実現しておらず、現在もオンラインでの国内業務を中心に活動している。
 報告者の主な業務はモスクワ市立教育大学(MGPU)の日本語教育関係者と「中等教育向け教科書作成プロジェクト」を進めていくことであるが、並行して大学の授業の一部も担当している。2023年5月現在において当プロジェクトは始動しておらず、ここ1年は、大学の学部生や大学院生の授業をオンライン(Microsoft Teams)で実施してきた。オンライン授業での語学学習の利点や課題についてはこれまでにもさまざまな議論がなされているが、ここでは報告者自身が感じたことをまとめてみたい。

1. 「オンライン教室」の多様性

 コロナ禍においては現地でも対面授業ができない時期があり、授業は①学生が大学の教室に集まり、パソコン1台の中継で授業 、②クラスの半数が教室、半数が在宅 、③クラス全員が在宅、というように担当するクラスによって変則的なパターンに分かれたため、授業の進め方も毎回試行錯誤の連続であった。基本的にはMicrosoft Teams上にデータ化した音声やテキストをアップロードしてオンライン授業を行なったが、オンラインという性質上、教室での対面授業のように学生の反応を細かく見ながら授業を進めることは難しかった。学生の中には、カメラの前で話すのを躊躇しチャットでの対話を希望する者やカメラを使わなかったりする者がいたりして、即座に反応が把握しにくいというのが1つの要因でもある。それでも、工夫次第では個々の学習環境に合わせた柔軟な授業展開が可能になるという点で「オンライン教室」には、対面授業とは違った多様性が見いだせるのではないかと感じている。

2. 日本語を「書く」から「打つ」へ

 オンライン授業では必然的にキーボードを使用するので、それに比例して学生の日本語タイピング能力や漢字識別能力が格段に向上していると感じる。現代の日本人同様、もはや日本語学習者にとって漢字は「書いて覚える」ものではなく、「打って識別する」ものになっている。また、文章作成においてはインターネット上で語彙・文法などを調べたり母語話者の知り合いに尋ねたりしながら、以前よりも広範囲なリソースに触れ自律的に学ぶことが可能な環境になっているとも言えるだろう。学生は日本の歴史、文化、習慣など、さまざまな分野に興味を持っており、作文の課題などではインターネットからの引用が多く見られるが、反面、文章のコピー&ペーストが目立つようになってきた。教師としては、学生がインターネット上の情報の「引用」をうまく使いこなし、その上で自分の言葉での自己表現に磨きをかけられるような授業を今後も模索し続ける必要があるだろう。
 コロナ禍により一気に需要が伸びたオンライン授業は、さまざまな可能性を秘めている。従来の対面授業とうまく組み合わせ、オンライン授業を有効活用していくことで、これまでにない新しい形の「教室」が展開されていくのが非常に楽しみである。

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