日本語専門家 派遣先情報・レポート
ウズベキスタン日本センター

派遣先機関の情報

派遣先機関名称
ウズベキスタン日本センター
The Uzbekistan-Japan Center
派遣先機関の位置付け及び業務内容
ウズベキスタン日本センター(UJC)は、国際協力機構(JICA)とウズベキスタン政府との協定に基づき2001年に設立された公益法人である。現在ビジネスコース、日本語教育、相互理解促進事業の全3事業を活動の柱としている。日本語教育事業では2012年より国際交流基金による事業運営協力が行われており、一般向けの日本語講座を中心に短期特別コースなども開講している。また、教材の現地語化やUJC独自の教師研修、教材制作、日本語能力試験の実施を通じて当国全体の日本語教育の発展に努めている。
所在地
6th Floor, International Business Center, 107-B, Amir Temur str., Tashkent, 100084, UZBEKISTAN
国際交流基金からの派遣者数
専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年
2001年。2010年度に一度中断し、2012年度に派遣再開。

人はそれを情熱と呼ぶ

ウズベキスタン日本センター
青木さやか

 「お疲れさまでした。今日の授業はどうでしたか?」
「とても楽しかったです! 自分で考えたゲームがとても良かったんです! 学生も、とっても楽しそうでした!」
 これは私と新任ウズベキスタン人日本語教師との授業後のやりとりです。私は日本語専門家として、ウズベキスタン人教師のみなさんに「まず教師である自分が授業を楽しむことが重要である」ということを、いつも伝えるようにしています。

 私が専門家として派遣されているのは、ウズベキスタンの首都タシケントにある、ウズベキスタン日本センター(The Uzbekistan-Japan Center) (以下UJC)で、2021年3月の派遣開始から2年が経過しました。UJCは、ビジネス部門、日本文化部門とともに日本語教育の部門があり、設立から20年以上の歴史を持つ機関です。古都ブハラにも分室を持ち、日本語教育を行っています。2022年5月にはUJCブハラ分室開室15周年記念式典が、8月にはUJC設立20周年記念式典が行われました(新型コロナウイルス感染症流行の影響により1年延期)。学習者は約200名で、10歳の子どもから大人を対象とし、広く日本語教育を行っています。

 ウズベキスタンでの日本語教育は、①公立小中学校・高校・大学・大学院などで行われる日本語教育、②趣味や仕事の一環として学ぶ人への日本語教育、③日本へ渡航し就職・生活することを目的とした人たちへの日本語教育の、大きく3つに分かれます。ウズベキスタンでは、日本語教育開始から30年が経過した現在も、①②③すべての種類の日本語教育機関が増加し、学習者数も増加を続けています。どの教育現場でも共通しているのは「教師が足りない」ということです。1人の教師が40人以上の学習者を見ている現場もあり、ウズベキスタンでは、日本語教師の養成は重要な課題となっています。

 そこで、日本語教師を養成していくことはUJCの社会的役割であると考え、日本語を専攻している大学生を教育実習生として受け入れ、2・3年生の職場体験インターンも積極的に受け入れることにしました。現在は、日本語を専攻し教師を志望する大学4年生や、日本留学経験のある大学生を非常勤講師として採用し、日本語教育の基礎を教え、授業見学、模擬授業などを行い、教壇に立つまでをフォローし、専門家と専任講師で養成を行っています。

 初めの頃、新任教師たちは「良い教師は、文法を上手に説明する教師だ」と話していました。ウズベキスタンでは「教師はまじめな態度で学生に正しいことを教え、学生はそれを覚える」という考えが強いことが影響しているのかもしれません。その後、時間をかけて「まず教師自身が授業を楽しむこと」「学生の様子をよく見て語りかけること」「失敗しても、恥をかいても、それでもかまわない」といったことを何度も伝えました。
 新任教師たちがなんとか授業に慣れた頃、彼らの様子に変化が現れました。それまでは専任講師からの指示をそのまま実践するだけでしたが、少しずつ、教材に動画を入れたり、ゲーム活動を考えたり、冗談を言って学生を笑わせたり、それぞれが楽しみながら授業や授業準備に向き合うようになったのです。「資料を作成したので確認してください」「この文法の教え方について教えてほしいです」と積極的に質問や連絡が来るようになり、新任教師同士でも、授業の進め方やその楽しさを分かち合い、そこで得た知識を自分の授業に取り入れるなど「授業をもっとわかりやすくしたい」「学生をもっと楽しませたい」という空気ができました。若い彼らに芽生えた教育への情熱が、これからも静かに光り続けることを期待しています。

 また、2022年度の大きなニュースは、国際交流基金のオンライン教科書『いろどり(入門)』のウズベク語翻訳版が完成したことです。日本での就職・生活を見据えて日本語を学習する人たちの一助となることを期待し、数か月の時間をかけて、UJCの専任講師たちが作り上げました。多言語環境で育った講師たちは、日本語とウズベク語の語彙や表現の違いについて話し合い、日本の文化や習慣についての知識を共有し「ウズベク語でどのように表現すればより正確に伝わるか」を考え、議論を行っていました。「この表記は絶対に変えない!」「それは間違っている!」と、それぞれの言語感覚がぶつかり合うような話し合いを目の当たりにし、また、1つの単語を何度も何度も推敲する講師を見て、教科書翻訳の難しさと、彼らの持つ教育への責任感と情熱を知りました。今後、ひとりでも多くの学習者が、この教科書を使って日本語を楽しく学んでくれることを願っています。

 ウズベキスタンでの日本語教育は、文化や教育観の違いから、簡単ではない部分もあります。しかし、教師たちが一生懸命に頑張っているところを目にするたび、私と同じ日本語教育への姿勢や気持ちを持っているのだと感じます。彼らは、自分たちが持っているものに気づいていないかもしれません。しかし、私はそれを情熱と呼びたいです。これからも、ウズベキスタンの日本語教育が少しでも前進するように尽力していきます。

  • 日本語教育の基礎を学ぶ新任教師たちの写真
    日本語教育の基礎を学ぶ新任教師たち
  • 付箋がたくさんついた教科書を持った、先生の写真
    ふせんの数は議論の数
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