日本語教育通信 日本語の教え方 イロハ 第11回

日本語の教え方
このコーナーでは、基本的な教授理論、教授知識を解説します。
日本語教授法に関する基礎固め、知識の再点検にお役立てください。

【第11回】書くことを教える—コミュニケーションとしての書く活動—

日本語国際センター専任講師 金 孝卿

 ここでは、書く力を高めるための活動と指導法について考えていきます。主に、初級後半から中級段階の学習者に対する作文指導について、次の3つのポイントを取り上げます。

  1. (1)学習者にコミュニカティブな作文課題を与える。
  2. (2)書かせる前に書く内容を考えさせる。
  3. (3)学習者同士で読み合う活動を導入し、読み手、書くプロセスを意識させる。

 以下では、この3つの教師の役割について順番に述べます。

書く力を高めるために、どのような目標を設定するとよいか

 初級では、文法や文型を勉強した後、書く活動で、それを定着させたいと思うことが多いです。また、書くことに慣れさせたいと思うことや、今までは数文の文章しか書かせていなかったので、もっと長い、段落のある文章を書かせたいと思うこともあります。しかし、書く力を本当に高めるためには、このような目標だけではなく、書くことを通して学習者は何ができるようになるか、ということを考える必要があります。例えば、「自分がよく知っていることを知らない人に説明する」のような実際のコミュニケーションとして使う場面を想定した目標を設定することができます。 そして授業の目標を、
自分がよく知っていることを知らない人に説明する文章を書けるようになる
とすることができます。

学習者にコミュニカティブな作文課題を与える

 授業の目標を設定したら、その目標を達成できるよう作文課題を与えます。では、実際のコミュニケーションとして使う場面を想定した作文課題とはどのようなものでしょうか。
 次の(A)と(B)の課題について考えてみましょう。それぞれどのような力を養うことができると思いますか。

学習目標:自分の町や自国の観光地など、自分が知っている場所について知らない人に紹介(説明)することができる。

課題(A)
タイトル:「私の町」
文型:①~に~があります。
   ②まず、次に、それから
課題(B)
 日本の姉妹校で、あなたの街の紹介をすることになったそうです。あなたの街に来たことがない学生たちに、あなたの街を紹介してください。もし遊びに来たらどんなことができるか、400字程度で書いてください。

 (A)のような課題を与えられると、学習者は、「この文型、どこに使おうかな」、「まず、次には、順番を表す時に使うんだな」、「じゃ、旅行の日程を書けばいいかな」といったようなことを考えます。一方、(B)のような課題を与えられると、「同じ年代の日本人か・・・。日本人の若者はどんなものが好きかな。【誰が読むか・読み手】」、「同じぐらいの年代だけど、まだ会ったことないし・・・。ていねい体?それとも、普通体?【文体】」、「私の町の魅力を伝えよう。そしていつかこの町に来たいと思ってくれたらいいな。【何のために書くか・目的】」、「この町は知らないんだよね・・・。○○がおすすめかな。ちょっと遠いけど、電車に乗れば、△△へも行ける。【何を書くか・トピック】」といったようなことを考えます。(A)のような課題を出さなければならないこともありますが、学習者にも「書くこと」をコミュニケーションの1つとして意識させるためには、(B)のような課題の与え方のほうが、適切です。

書かせる前に書く内容を考えさせる

 少し長い文章を書くためには、内容についての知識を整理したり、書く目的を考えて構成したりする準備が必要です。「書きたい」という気持ちだけでは、すぐ文章を書き始められない場合も多いので、書く前の準備の時間はとても大切です。文章を書く前に頭に浮かんだものを書きだして整理する方法の1つに、「思考マップ」があります。
 次の思考マップは、「制服に賛成か反対かについて自分の意見を書く」といった意見文を書く前の思考マップの例です。真ん中の制服(作文のトピック)を中心に、思い浮かんだことを、線でつないだり、増やしたりしてカテゴリー別に小さい枝を増やして書いています。

「思考マップ」の写真
『ピアで学ぶ大学生の日本語表現』(ひつじ書房)p.24を参考に作成

このような作業をして考えているときは、母語を利用するのもいいでしょう。まずは、たくさん書いて後で何がいちばん言いたいかをしぼります。さらに、「思考マップ」を書く段階で、クラスの友だちとそれぞれの構想を話し合い、アイディアを具体化していくこともできます。

学習者同士で読み合う活動を導入し、読み手、書くプロセスを意識させる

 考えや知識を整理し、構成を考えながら実際に書く段階に入ります。アイディアを文章化するプロセスでは、母語で書く場合でも、書いている途中で何度も読み返し、内容、表現や文型に関する確認を行います。これを「推敲」と言います。外国語で文章を書く時も、このような推敲のプロセスを経験することが大切です。学習者同士で読み合う活動を活用すると、内容や読み手を意識させるのに有効です。
 ここでは、学習者同士で読み合いながら推敲を行う「ピア推敲」を紹介します。「ピア推敲」は、「ピア活動」の一種です。「ピア(peer)」とは「仲間」という意味で、「ピア活動」は、学習者同士が助け合って、対話し質問し合うことによって、自ら答えを見つけていったり、それまではなかった新しいアイディアや視点を見つけていく、という活動です。次のような手順で活動を行うことができます。

手順
(学習者が一度作文書いた後の活動)
  1. 1.まず、相手の書いた文章を読んで、いいと思うところを確認し、書き手の主張やその根拠などを理解します。
  2. 2.それから、お互いに次のことを話し合います。
    1. いいと思うところを言う。
    2. もっと説明してほしいところを言う。
    3. 直したほうがいいところを言う。
    4. 書き手が相談したいことを聞く。
  3. 3.話し合いが終わったら、その内容をもとに、書きなおします。

 このような手順を設ける理由は、学習者が友だちの文章を読んで、書き手の主張や内容の面白さに注目し、読み手の視点をより引き出しやすくするためです。こうすることによって、学習者が友だちの文章を読んで、文法や文型の間違いだけに注目して指摘することを避けることができます。2.の①~④の手順は、学習者の心理面と認知面を配慮したものです。学習者同士が助け合って学習を進めるためには、信頼関係を作ることが大切です。また、書き手にとっては何をどう改善すればよいか、具体的な課題を見つけることが大切です。①は、相手を作文の良いところを具体的に褒める、②は、書き手には見えない読み手の理解のプロセスを言語化する、といった狙いがあります。③と④は、同じ学習者仲間として「作文を改善したい」という共通の目標を意識させる、といった狙いがあります。
 「ピア推敲」を取り入れた場合は、活動後のふり返りが重要です。学習者同士のフィードバックを体験してどのようなことに気づいたかを話し合うことで、「ピア推敲」がさらに効果的になります。実際の「書く」授業や活動では、推敲の時間がとりにくいことが多いかもしれませんが、推敲は書く力を高めるためにとても大切です。自分で行う推敲と学習者同士で行う「ピア推敲」を組み合わせて行うようにするといいでしょう。李(2008)には、海外の高校の日本語教室で行った「ピア推敲」の手順と効果が詳しく紹介されています。

【参考文献】

  • 国際交流基金(2010)『国際交流基金日本語教授法シリーズ8 書くことを教える』ひつじ書房
  • 池田玲子・舘岡洋子(2007)『ピアラーニング入門:創造的な学びのデザインのために』ひつじ書房
  • 李英淑(2008)「韓国の高校における作文授業の現状と改善案‐済州外国語高等学校でのピア推敲活動を通して‐」『日本言語文化研究会論集』第4号、国際交流基金日本語国際センター、国立国語研究所、政策研究大学院大学 pp.33‐60  http://www3.grips.ac.jp/~jlc/files/ronshu2008/lee.pdf【PDF:外部サイト】
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