日本語教育通信 本ばこ 『ストーリーで覚える漢字300』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

『ストーリーで覚える漢字300』

著者:ボイクマン総子、渡辺陽子、倉持和菜
監修:高橋秀雄
出版社:株式会社くろしお出版

ストーリーで覚える漢字300

<英語・インドネシア語・タイ語・ベトナム語版>
URLhttp://www.9640.jp
発行年月:2008年11月
ISBN: 978-4-87424-428-9
判型・頁数:B5判、316頁
定価:1,890円

<英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語版>
URLhttp://www.9640.jp
発行年月:2008年1月
ISBN: 978-4-87424-402-9
判型・頁数:B5判、344頁
定価:1,890円

非漢字圏の初級学習者に漢字を教える際、「山」「川」といった象形文字から導入することが多いと思います。視覚的イメージを通して漢字に親しみを持ってもらうにはいい方法なのですが、すぐにネタがつきてしまうという話しもよく聞きます。実際、漢字の中で象形文字の割合は多くありません。本書には、そんな悩みを解決するヒントがあるかもしれません。

まず、漢字の意味を覚える

 本書は、300字の初級漢字について、独自の解釈によるイラストとストーリーが書かれています。それは、もともとの漢字の由来とは違うものもあります。構成は2部に分かれていて、まず150字の字形と意味を覚えて、その後で読み方と書き方を覚えるようになっています。日本人にとって、漢字の読み方を後で覚えるというのはちょっと驚きの発想ですが、非漢字圏の学習者にとって、一つの漢字を覚えるときに、字形を認識し、意味、読み方、書き方を同時に学習するというのは確かに大きな負担でしょう。読み方は多数あるので、なおさらです。

学習者の負担を考慮した段階的な学習

 効果的に学習するために、この本では、段階的な学習の流れが考えてあります。①漢字の意味をイラストやストーリーで覚えた後、②字形の組み合わせで新たな漢字の意味が推測できるように、③またその漢字を使用した語彙の意味も推測できる力を養い、④最後に読み方と書き方を覚えます。 例えば、①「主」という字をろうそくに見立て、「昔、ろうそくが使えたのは主人だった」というストーリーがあり、②「ろうそくに水を注いで火を消す…注」という次のストーリーにつながり、③練習問題で「注意」の意味を推測させた後、④読み方と書き方を覚えるという具合です。

P.123の画像

 また、扱っている漢字熟語で、日本語能力試験3級4級の語彙がほとんどカバーできるということです。

楽しんで使い方を工夫できる

 この教材の特徴である、漢字の意味を覚えるためのストーリーは、字源とは違うものもあり、無理な解釈だなあと思うものもあります。でも、それがかえって印象に残る場合もあります。もしそのストーリーに馴染めない場合は、学習者自身が漢字を分解して独自のイメージを作ればよいのではないでしょうか。それを楽しむことができれば、未習の漢字に出会った時、推測する力で乗り切れるかもしれません。 独学用として、またクラスで漢字指導の時間を割くことができない場合に、本書を使って自習させ、クラスで簡単なクイズを行うなど、使い方も目的に合わせて工夫できるように作られています。 本書は、初級学習者のための漢字教材で、2008年1月に「英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語訳版」が出ており、今回はそれに続き、「英語・インドネシア語・タイ語・ベトナム語版」が出版されました。多言語に対応でき、学習者にあわせた個別指導にも適しています。

(松浦とも子/日本語国際センター専任講師)

国際交流基金の新刊教材・図書

『世界の日本語教室から -日本を伝える30カ国の日本語教師レポート-』
2009年4月(アルク)
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