日本語教育通信 本ばこ 『日本語の省略がわかる本』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

『日本語の省略がわかる本』

著者:成山重子
出版社:株式会社明治書院

日本語の省略がわかる本―誰が?誰に?何を?How can we know who did what to whom in Japanese?[The Grammar of Omission: Less is More]

URLhttp://www.meijishoin.co.jp/
発行年月:2009年2月
ISBN: 978-4-625-43425-9
判型・頁数:A5判、144頁
定価:1,575円

  1. 1.田中さんに会ったら、とても楽しそうだった。
  2. 2.田中さんが大川さんに会った時、あまり楽しそうではなかった。

 あなたは、1と2の文から、「楽しい」または「楽しくない」と感じたのはだれか分かりますか。日本語母語話者ならすぐに分かることでも、日本語学習者には難しく感じられることがたくさんあります。次は?

3.ジョンは行こうと思っている。

3では、「思う」のは「ジョン」だということは分かるでしょう。しかし次のような場合はどうでしょうか。

4.ジョンは行くと思っている。

実は4は意味が曖昧です。というのは「思う」の主語が「ジョン」なのか「(ジョン以外の)他の誰か」なのかが、この一文だけでは決まらないからです。したがって「行く」のが「ジョン」なのか「他の人」なのかも決まりません。次はどうでしょうか。

5.母が帰ってきたので、電話を切った。

「(電話を)切った」のは誰ですか。そうです。母以外の誰か(私など)です。では次の6で「働いた」のは誰でしょう。

6.太郎が日本に帰ってから働いた。

答えは太郎以外の誰かです。

相互理解はどうして可能となるか

 1~6には、文を形作る上で重要な要素(主語、目的語など)が文面に現れていません(この本ではこれを「省略」と呼んでいます)。ですから、文の意味を完全に理解するには、文の受け手は、省略されたものを補う必要があります。逆に言えば、文の送り手は、何が省略でき、何が省略できないかを知っておく必要があります。本書は、この省略にかかわることがらを文法として捉えて解説したものです。

省略から入ってさらに大きな視点へ

 本書は、日本語の省略がよくわからない、どんなとき省略でき、どんなとき省略してはいけないかがわからないという人、学習者にこのような質問をされて説明に困っている教師を対象として書かれています。英語での説明も併記されていますし、各課の最後には練習問題があるので、自分で理解を確認しながら読み進めることができます。また、省略だけにとどまらず、読者はこの本を読むことで、日本語の理解にとって大切な問題(「は」と「が」、主題、主語になる名詞の性質、主節と従属節の関係、やりもらい文など)への理解を深めることができるでしょう。

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(内藤 満/日本語国際センター 専任講師)

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