日本語教育通信 本ばこ 『日本語文法の論点43―「日本語らしさ」のナゾが氷解する―』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

『日本語文法の論点43―「日本語らしさ」のナゾが氷解する―』

編著者:近藤安月子・姫野伴子
出版社:研究社

日本語文法の論点43―「日本語らしさ」のナゾが氷解する―

URLhttp://www.kenkyusha.co.jp/
書籍情報:http://webshop.kenkyusha.co.jp/book/978-4-327-38462-3.html
発行日:2012年2月
ISBN:978-4-327-38462-3
判型・頁数:A5判 248ページ

 自己紹介の場面をイメージして、自分だったら日本語で何と言うか言ってみてください。あなたが言ったのは、次のどちらだったでしょうか。

  1. (1)はじめまして。私は〇〇です。どうぞよろしくお願いします。
  2. (2)はじめまして。〇〇です。どうぞよろしくお願いします。

 (1)と(2)の違いは、「私は」があるかないかなのですが、日本語母語話者は、(2)の方を自然に感じます。つまり、(2)の方が母語話者に「好まれる言い回し」であり、「日本語らしい日本語」と言えます。これはなぜなのでしょうか。
 本書は、母語話者に「好まれる言い回し」を数多く取り上げ、なぜ母語話者はその言い回しを好むのか、認知言語学の観点から解説した参考書です。目次にあるように、論点は「発話の原点」「空間・時間の把握」など全部で6章あり、各章に、論点に関連した文法事象を扱う課があります。各課は、「1.これまで」でその文法現象の先行研究をふりかえり、「2.しかし」で先行研究の成果では解決できていない点を指摘する。これらを踏まえ、「3.実は」で認知言語学の視点に基づく考察を行う。「4.さらに」で、課のまとめを行うと同時に3.の考察が当てはまる他の文法現象についても触れる、という流れで書かれています。各課が独立しているため、読者は論点の中で特に興味のある文法現象の課を選んで読むこともできます。さらに理解を深めたい場合は、巻末にある参考文献一覧も役に立ちます。

ものごとの把握の原点は「私」

 (1)(2)に戻り、「私」について考えます。筆者らは、第1課で、日本語母語話者は、「事態の中にいて自身の周りを感覚や知覚で捉え、目や耳で知覚できるもの、認識できるものを言語化し、知覚できないものは言語化の対象としない傾向がある」と述べています(4ページ)。
 出来事を語る際、その語り手であり、中心にいる「私」は、自身の視界には入りません。つまり、日本語の場合、認識の対象ではない「私」は、言語化しないのが「好まれる言い回し」であり、自然なのです。「好まれる言い回し」は、言語によって違います。本書には、英語と対照しながら日本語の特徴を解説している箇所がありますが、日本語が、「主観的把握」の傾向のある言語であるのに対し、英語は「私」を言語化した方が自然な、「客観的把握」の傾向のある言語としています。
 著者らは、日本語母語話者にとって、ものごとの把握の原点は「私」であり、その「私」が発話の現場に自身を置き、<イマ・ココ>という視点から事態を捉え、主観的に言語化するのが日本語の基本であるとしています。
 「恩恵の授受」「迷惑受身」などを含む43の文法事象がこの観点に基づいて考察されていますが、課を読み進めていくうちに、「日本語らしさ」に対する理解が深まっていくことでしょう。
 本書は、大学や大学院で日本語学を学ぶ方、日本語教育に携わっている方の参考書としてお勧めします。日本語非母語話者の方は、自身の母語に引き付けながら読むとよいでしょう。

目次の画像1 目次の画像2目次

(押尾和美/日本語国際センター専任講師)

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