日本語教育通信 本ばこ 『第二言語教育におけるバフチン的視点 -第二言語教育学の基盤として-』

本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。

『第二言語教育におけるバフチン的視点 -第二言語教育学の基盤として-』

著者:西口光一
出版社:くろしお出版(http://www.9640.jp/

第二言語教育におけるバフチン的視点

書籍情報: http://www.9640.jp/xoops/modules/bmc/detail.php?book_id
=69022
発行日: 2013年10月
ISBN: 9784874246047
判型・頁数: A5判 248ページ

 皆さんは、この本はどんな本だと思いますか。題名に「第二言語教育」とあるので、私達日本語教師にも関係ある本ということは分かっても、どんな内容なのかは想像しがたいのではないでしょうか。毛色の変わった本、難解な本…そんな印象ではないでしょうか。
 あとがきで著者は「本研究は、日本語教育者である筆者とバフチンとの約10年にわたる対話のまとめである」と書いています。では、バフチンとは誰なのでしょうか。著者はバフチンとどのような対話をしたのでしょうか。

バフチン

 ミハイル・バフチン(Mikhail Mikhailovich Bakhtin、1895~1975)は、ロシアの言語哲学者、思想家、文芸評論家として知られている人です。著者はバフチンについて次のように書いています。「大部分の第二言語教育の実践者と第二言語教育研究者にとって、バフチンというのは聞き慣れない名前であろう。その一方で、バフチンとの「対話」を試みたことのある人は、バフチンが言語やコミュニケーションや心理などについて非常に重要なことを言っていると感じたであろう。しかし、同時に、その思想の全体像は何とも捉えがたいと思ったにちがいない。」

理論的研究とその応用例

 本書の構成を紹介しましょう。

構成内容
第1章 言語へのバフチンの基本的視線
第2章 抽象的客観主義批判から発話の言語論へ
第3章 人間の主観的心理
第4章 ヴィゴツキー心理学から見た第二言語の習得
第5章 ことばのジャンルと言語の習得
第6章 言語活動従事に関与している知識は何か
第7章 形象世界における自己創作
第8章 対話と対話原理
第9章 基礎日本語の学習と教育における自己と言語
第10章 母語話者による第二言語話者の語りの支援

 1章から8章は「第二言語教育学の関心に沿ったバフチン言語論の仕立て直し」で、「第二言語教育のための言語と心理についての理論的研究」です。そして、9章と10章はその言語観の日本語教育と日本語教育研究の応用例です。9章ではマスターテクスト・アプローチという方法での日本語の教え方が具体的に提案されています。また、10章では日本語母語話者と日本語学習者のやり取りが分析され、母語話者の学習者に対する支援について考察されています。そして、これらがどのような点でバフチンの言語観に則っているのかが明らかにされています。

対話の中味

 では、著者はバフチンとどのような対話を行ったのでしょうか。約10年に及ぶ対話をまとめるのは困難ですので、筆者にとって興味深いところを一つだけ紹介しましょう。
 まず著者は、ソシュールの言語観、つまり言語をラング(社会的規範の体系としての言語)とパロール(個々人の個別的な言語)に分け、ラングのみを言語学の研究対象とした言語観に対するバフチンの批判を辿ります。そして、バフチンがそれ自体を抽象的、客観主義的、そしてモノロシズムであると述べていることを明らかにします。その上で、「バフチン的視点」の根底にある「対話原理(ダイアロジズム)」が何かについて考察していきます。それは「ことばのやり取りを伴う人と人との接触・交流を、そして人間の意識や心理のあり様を、そのように対話的にみるという主義あるいは流儀」であり、具体的、主観的なものであると言うのです。さらに著者は、コミュニカティブ・アプローチを含む最近までの日本語教育・日本語教育学はソシュール的なパラダイム(ラングにこだわった教育・研究)に基づくものであると批判し、それに代わるパラダイムとして「バフチン的視点」(個々人の接触・交流からなる「対話」を重視すること)を提案するのです。
 この本は、言語学や心理学や外国語教育に関する知識や経験がないととっつきにくいかもしれません。しかし、時間をかけてこの本と「対話」をしてみれば、必ず多くのことを語ってくれることでしょう。

(白井 桂/日本語国際センター専任講師)

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