日本語教育通信 本ばこ 重層的「対話」 『日本語学と通言語的研究との対話 -テンス・アスペクト・ムード研究を通して-』

本ばこ
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重層的「対話」
『日本語学と通言語的研究との対話 -テンス・アスペクト・ムード研究を通して-』

編著者:定延利之
出版社:くろしお出版(http://www.9640.jp/

『 日本語学と通言語的研究との対話 -テンス・アスペクト・ムード研究を通して- 』

書籍情報: http://www.9640.jp/xoops/modules/bmc/detail.php?book_id=84757
発行日: 2014年5月
ISBN: 978-4874246245 C3081
判型・頁数: A5判 240ページ

第一の「対話」

最初に本書の構成を紹介しておきましょう。

第1章 記述的研究と通言語的研究との対話
第2章 歴史的研究と通言語的研究との対話
第3章 方言研究と通言語的研究との対話
第4章 対照研究と通言語的研究との対話

 本書の題名にもあり、全ての章に繰り返し出てくる「通言語的研究」という言葉は馴染のない言葉かもしれませんが、簡単に言えば個別言語の研究の対極にあるもので、本書では言語類型論(タイポロジー)が中心になっています。
 本書の背景には「通言語的な研究文脈の中で、日本語学の成果はどのように位置づけられるのか?」、逆に日本語学が「通言語的な研究に有益な成果を提供していくには、どうすればよいのか?」(序ⅰ)という問題意識があり、とりわけ研究蓄積のあるテンス・アスペクト・ムードに焦点が当てられています。そうした問題意識に沿って、本書では四人の研究者がそれぞれの専門分野の立場から、通言語的研究との「対話」を試みています。

第二の「対話」

 この本にはもう一つの「対話」があります。各章が全て論文、それに対するコメンテータのコメント、そのコメントに対する執筆者の答え、そして最後にその答えに対するコメンテータの再コメント、という二往復におよぶ対話形式になっているのです。
 コメンテータは言語類型論の研究者で、ロシア人です。専門分野も国籍も違う二人の研究者の「対話」の中でさまざまなことが話題に上ります。例えば第3章では、山形方言のケ(東京方言の文末の「~ッケ」「太郎の結婚式はいつでしたッケ?」に当たる)に関する論考が土台となって対話が始まり、論文中の用語の問題から方言研究と通言語的研究の関連に至るまでの幅広い「対話」が繰り広げられます。そしてこの「対話」の中で、問題の在り処、研究方法上の接点、さらには研究状況や方向性などさまざまな事柄が浮き彫りになっていくのです。

時空を超えたさまざまな言語へ

 第一の「対話」を理解するためには、それぞれの分野に関する専門的な知識がある程度必要になってくるでしょう。しかし、第二の「対話」へ進むとポイントがどこにあるのかが分かったり、思わぬところに理解のための鍵が隠されていたりもします。また、自分の持っている知識や問題意識、さらに自分の母語に関する知識や感覚を重ね合わせて読み進んでいけば、読者自身もこの「対話」に加わることができるのです。
 とかく私達日本語教師は、現在使われている標準的な日本語に囚われがちです。時には古代の日本語や方言、あるいは韓国語や中国語、さらには世界のいろいろな言語に目を向けることも必要なのではないでしょうか。それによって日本語が今までとは違った表情を見せてくれるはずです。

図版1 p.xi 図版1 p.xii目次[ⅺ][ⅻ]

(白井 桂/日本語国際センター専任講師)

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