日本語教育通信 本ばこ 『話す・書くにつながる!日本語読解(中級)』
本ばこ
このコーナーでは、最近出版された日本語教材や参考書の中から、「海外の先生にとって使いやすい教材」「授業や研究の役に立つ本」「知っていると便利な図書・資料」などを紹介します。
学習者が主体的に考える力を養成する
『話す・書くにつながる!日本語読解(中級)』
著者 :小野恵久子、遠藤千鶴、大久保伸枝、山中みどり
出版社:株式会社アルク(http://www.alc.co.jp/)
発行日: 2016年1月
ISBN : 978-4-75742-685-6
判型・頁数: B5版、96ページ、別冊12ページ
読解の授業では、文字通り「読んで理解する」ことが目標とされることが多いように思います。でも語彙や表現、内容が理解できているかを確認するだけの授業では何か物足りないような気がしませんか。今回は、内容理解に留まらず、学習者が主体的に考えていく力を養成することも目指す読解の教材をご紹介します。
本書の概要
本書に掲載されているのは、コミュニケーション、学習、生き方、仕事、メディアなど様々な分野の12の文章です。ほとんどが書籍や新聞記事などから抜粋されたいわゆる生教材で、自分のことを話したくなる、そのテーマについて話したくなるような素材を集めています。対象とする学習レベルは、N3修了からN2レベル以上となっています。
目次
- 1課
- 10代のうちに考えておくこと
- 2課
- 「草は生きているか」疑うことがいのちを知る入り口
- 3課
- 仕事選び
- 4課
- 障がいと私
- 5課
- フィンランドの学校で
- 6課
- マニュアル社会
- 7課
- 遺伝子検査
- 8課
- コミュニケーションの日本語
- 9課
- 丸裸の山で
- 10課
- 何かを選択すればゴールに近づく
- 11課
- とても大事な水の話
- 12課
- 見通す力
「読み、考え、調べ、表現する」ための教材
ひとつの課は、①クラス全体で話し合い読む準備をおこなう、②本文を読み設問に答えて内容理解を深める、③読んだあとで関連する事項について話し合ったり発表したりする発展活動をおこなう、の3つの段階で構成されています。
まず、読む準備では、そのテーマについて既に知っていることや、ある場面で自分ならどうするかなどを話し合いながら、知識を活性化したりイメージを作ったりします。
文章を読んだ後には内容確認の設問に答えますが、設問には選択肢がなく、学習者自らが考えて答えることが求められます。パラフレーズや要約なども多く、選択問題に慣れた学習者にとっては少し大変かもしれませんが、丁寧に取り組めば、正確に理解する力や考えてまとめる力を養うことができるでしょう。
また、読んだあとの発展活動には次の例のようなものがあります。
- 自分の通った学校の教育方針や特徴について話し合い、世界の特色ある教育について調べて発表する。
- 今までの人生で選択してきたこととその理由、選択の結果についてまとめ、人生において重要になる選択について話し合う。
- 遺伝子検査についての考えを問うアンケートに答えてクラスメートと話し合い、自分の考えを作文にまとめる。
- 自分がテレビの編集者だったらニュースをどのように放送するか考える。また、ニュースをひとつ取り上げ、テレビや新聞などメディアによる違いを調べて話し合う。
学習者が自ら進んで話したり調べたりしたくなるような活動が多くあります。調べる・書く・話す活動は、日本語で表現する力へとつながります。
クラスメートとの共有を通して
本書では、学習者の自律的な学習を目指しており、教師はそれを支援する役割を担います。そのため、内容理解の設問であっても、教師が答えを教えるのではなく、ペアやグループで話し合い活動をおこなって答えを考えていきます。 様々な答えが出ますが教師はそれを尊重し、内容把握が誤っている点については正しい理解へと導きます。また、発展活動においても学習者がお互いに質疑応答をおこないます。このような、学習者による話し合いが多くおこなわれ学習者が主体的に取り組む授業は、これまで教師主導で指導されていた方にとっては新しい読解の授業となるのではないでしょうか。学習者にとっても、考えたことをクラスメートと共有することは、新たな気付きを得たり自分自身をより理解したりするよい機会となると思います。
なお、この教材にはN2からN1レベルを対象とする「中上級」編が同時刊行されていますので、クラスに合わせて教材を選ぶことができます。
(石井 容子/関西国際センター日本語教育専門員)
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