日本語教育通信 文法を楽しく つもり(1)

文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。

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つもり(1)

 今回は形式名詞「つもり」を取り上げます。「来週京都へ行くつもりです。」「大学院の試験は受けないつもりだ。」のように、「つもり」が意志を表すことは皆さんもよくご存じでしょう。むしろ、「つもり」は簡単だと思っている方もいらっしゃると思います。
 しかし、「本気で結婚するつもりだった。」「自分なりに頑張ったつもりですが、結果としては失敗してしまいました。」「前の日に完全に覚えたつもりだったのに、試験では思い出せなかった。」のように「~(る)つもりだった」「~(た)つもりだ」「~(た)つもりだった」と、「~た」が絡んでくると、頭の中が混乱し始めます。
 今回は、そんな「つもり」について、少しずつ説明していきたいと思います。

1.「意志」を表す「つもり」

 ここでは、「~(る)つもりだ」の4つのポイント1)~4)について考えます。

1)「~(る)つもりだ」と他の意志表現

 日本語には意志や予定を表す表現が数多くあります。(1)を見てください。

 Bの答えの中で、「帰ります」は自分の意志・決定をはっきり相手に伝えるという印象を与えます。それに対して「帰ろうと思います」は、「帰ろう」という意志を「と思う/思っている」という語でやわらげ、かつ、相手に伝えています。「帰りたいと思います」も「帰りたい」で自分の願望を前面に出し、「と思う/思っている」で相手に丁寧に伝えています。(「~と思う」と「と思っている」はどちらを使ってもいいですが、「と思っている」のほうが一定期間思い続けるという意味合いを持ちます。)
 「~予定だ」は直接的には意志を表しません。その予定が自分の意志に基づくものか否かは別にして、国へ帰る予定があると言っているだけです。「~ことにする」は、いろいろ考えて、最終的に決定した場合に使われることが多いです。
 では、「~(る)つもりだ」はどうでしょうか。
 「帰るつもりだ」はもちろん意志を表しますが、「帰ろうと思う」「帰りたいと思う」という話し手の主観的な気持ちを表すと同時に、「~予定だ」のような客観的な意味合いを持っています。

2)「~(る)つもりだ」は「その場での判断」を表すか?

 「~(る)つもりだ」は「その場」の決定・決心の表現にはあまり使われません。

 (2)では、Aは出かけることを、今初めてBに話し、Bも今、「その場」で行くことを決めました。このように、「その場」での決定や判断には「~(る)つもりだ」はあまりふさわしくありません。もし、「~(る)つもりだ」を使うとすれば、しばらく以前からそう思っていた、その意志を持っていたということになります。

3)「~(る)つもりだ」の主語は誰?

 「~(る)つもりだ」は話し手自身の意志を表すとともに、第3者(話し手「私」以外の人。「あなた」を含む。)の意志も表します。

 しかし、第3者の意志・意図は本人以外には分からないことが多いので、明確に分かっているとき以外は次のように表すほうが適切と言えます。

4)「~(る)つもりだ」の否定の形

 「~(る)つもりだ」の否定の形は基本的には「つもり」の前を否定にします。

 (5)のほかに、「国へ帰るつもりはない」という形もありますが、それらについては後でまとめて説明します。

2.「信念・その気」を表す「つもり」

 今までは「意志」を表す「つもり」について考えてきました。2では、「信念」や「その気」を表す「つもり」の使い方を説明します。
 林さんはルポライターです。ある事件について記事を書こうと思って、次のように言いました。

 林さんはその時点で「事実を書く」という意志を表明しました。その後、林さんは記事を書いたのですが、それを発表した時、他の人々から「これは事実ではない」「うその部分がある」と批判されました。それに対して林さんはこう言いました。

 (7)は、文の形は「~た+つもりだ」になっています。「~た+つもりだ」を使って林さんは、他の人はどう言うかは知らないが、自分としては、「事実を書いたのだ」と言っています。
 林さんが本当に事実を書いたかどうかは本人だけが知っていることで、はっきりとは分かりません。しかし、彼は「~た+つもりだ」を使って自分の「信念」、自分はそう信じているという「その気・そのつもり」を主張しています。

 (8)は、話し手が相手からの求婚(プロポーズ)を何らかの形で断ったはずなのに、相手が断られたと思っていない状況です。

求婚(プロポーズ)を何らかの形で断ったはずなのに、相手が断られたと思っていない状況の図

 (9)も、Bは「できない」と言ったはずなのに、相手がそのように認識していないようです。(10)は「つもりだ」の「だ」が「で」の形をとって、後ろの文にかかっていっています。ここでは、実際は食べたり買ったりはしていないが、食べたり買ったりした「その気・そのつもり」になって、それにかかったであろう金額を貯金するということを表しています。

食べたつもり、買ったつもりで、 その分を貯金している図

 (7)~(10)は「~(た)つもりだ」の主体(主語)は話し手である「私」ですが、第3者の場合はどうでしょうか。

 (11)では、「私は事実を書いたつもりだ」のように話し手の強い信念は感じられず、「彼はそのように思っているが、」「彼は事実を書いたらしいが、」という推測・憶測が加わります。
 (12)も、「彼女は断ったと思っているが、」の意味になります。
 このように「~(た)つもりだ」の主体(主語)が第3者になると、その人(本人)の信じていることが、他の人から見ると、「それは本人だけの思い込みかもしれない」という意味合いが強くなります。

 1で「意志」(事実を書くつもりだ)、2で「信念・その気」(事実を書いたつもりだ)を勉強しました。次回「つもり(2)」では、それらのことが過去に起こったとして、今それについて考えている「~つもりだった」について勉強します。
 次の例を読んで、「~つもりだった」がどういう状況で使われているか考えておいてください。(13)(14)は「~(る)つもりだった」(新聞記事より)、(15)(16)は「~(た)つもりだった」の例です。

(市川保子/日本語国際センター客員講師)

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