日本語教育通信 文法を楽しく「表現意図 -願望-」

文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。

表現意図 -願望-

 前回の「文法を楽しく!!」は、表現意図(話し手がどうとらえ、どう表そうかとする思いや考え)の中の「意志」について考えました。そして、どのような事柄が話し手の表現意図を左右するかについて、6つの要因を掲げました。6つの要因は、簡単にまとめると次のようになります。

  •  ⅰ. 主観的か客観的か
  •  ⅱ. 実現性があるか
  •  ⅲ. 明確性があるか
  •  ⅳ. 話しことば的か、書きことば的か
  •  ⅴ. 丁寧の度合いはどうか
  •  ⅵ. プラス評価か、マイナス評価か

 前回取り上げた「意志表現」を、上記のⅰ~ⅵの基準に合わせ表にすると、表1のようになります(例として「行く」を取り上げます)。〇はⅰ~ⅵの程度が高いと考えられるものです。ことばや表現の判断は非常に微妙なところがあるので、表にしたりグラフにしたりできない部分がありますが、だいたいの傾向を知るために示しておきます。

表1
意志表現において話し手の表現意図を左右する6つの要因(ⅰ~ⅵ)のうち程度が高いものを示す表。「行きます」は実現性、明確性、プラス評価。「行こうと思います」は主観的、丁寧度、話しことば、プラス評価。「行きたいと思います」は主観的、話しことば、プラス評価。「行く予定です」は実現性、明確性。「行くつもりです」は話しことば。

 今回は表現意図の中の「願望」について考えます。「願望」というのは、自分がこうありたいとか、こうしたいと思う気持ち、また、他者に対してこうあってほしい、こうしてほしいという気持ちを指します。次の1.では話し手の自分自身に対する願望を、2.では他者に対する願望を取り上げます。

1.話し手自身に対する願望

  1. (1)
    A:
    大きくなったら、何になりたい?
    B:
    1. a.宇宙飛行士になりたい。
    2. b.宇宙飛行士になりたいと思う。
    3. c.宇宙飛行士になれたらいいなあ。
    4. d.宇宙飛行士になれるといいなあと思う。
    5. e.宇宙飛行士になれないかなあ。

「宇宙飛行士になった自分を想像する男の子」のイラスト

  1. (2)
    A:
    すごいですね。この試作品はいつできるんですか。
    B:
    1. a.明日までにやりたいんです。
    2. b.明日までにやりたいと思います。
    3. c.明日までにやれたらなあと思います。
    4. d.明日までにやれたらいいと思います。
    5. e.明日までにやれたらいいんですけど/が。

 会話(1)は将来の夢を語る会話であり、(2)はもっと現実的に、ある事柄や仕事のできる予定を聞いています。(1)(2)とも状況は異なりますが、Bの願望の気持ちの表現には共通のものが見られます。(1)(2)に出てくる願望表現を整理すると次のようになります。(「可能形」は動詞の可能形を表します。)

    1. 1)~たい、~たいです、~たいんです
    2. 2)~たいと思う、~たいと思っている
    3. 3)可能形+たらなあ、可能形+たらいいなあ
    4. 4)可能形+たらいい/たらなあ/たらいいなあ+と思う
    5. 5)可能形+たらいいんだ(です)けど/が
    6. 6)可能形+ないかなあ

 「宇宙飛行士になりたい。」のように「~たい」で言い切る場合は、話し手の気持ちが非常に強く感じられます。「です」や「んです」を付け加えることで、多少丁寧になりますが、話し手の気持ちを直接的に伝えている点は変わりません。一方、2)のように「~たい」に「思う」が付くと、自分の気持ちを間接的に伝えようとする要素が入ってきて、「~たいです」に比べるとかなり客観的になります。「~たいと思う」は今の気持ちを伝えますが、「~たいと思っている」になると、ある一定期間思っていたという客観性が加わるので、さらに直接的な気持ちは弱くなります。
 3)~6)は「可能形+~」の形をとっています。また、3)~5)はタラ形を用いているので、「そういうことが起こり得る場合は」「そういうことが可能な場合は」という仮定の可能性に対する期待が含まれています。
 終助詞「な/なあ」は話し手が独り言のように言う時に使いますが、「なあ」のほうが気持ちの度合いが強くなります。
 4)は3)に「と思う」を付けた形で、2)と同じく、より客観的な表現になります。「と思っている」を使うこともできます。
 5)の「~たらいいんですけど/が」は「動詞のタラ形+いい+んだ+けど/が」の形で、自分の願望の実現を、相手に婉曲に伝えています。婉曲に伝えることによって表現が丁寧になっています。
 4)5)において、「可能形+たら」の代わりに「可能形+と」を使うこともできます(例:明日までにやれるといいと思う。明日までにやれるといいんですけど/が)。「と」を使うと、やや改まった、硬い言い方になります。
 6)は「動詞のナイ形+終助詞か+なあ」の形で、自分自身に問いかけています。6)は「宇宙飛行士になれないかなあ」と、動詞の否定形を用いていますが、ここで肯定形を用いた「なれるかなあ」との違いを考えてみましょう。

  1. (3)
    1. a.〇〇大学に入れるかなあ。
    2. b.〇〇大学に入れないかなあ。

 (3)aは〇〇大学に入りたいけれど、自分の実力で可能かどうかの心配をしています。言い換えれば、「入学が可能かどうか」を問う文になっています。一方、bは、〇〇大学に入りたいのはaと同じですが、入学が可能かどうかより、何とかして入りたいという願望を表しています。可能形の否定の形を用いて、「できないかもしれない。しかし、それは本当か。実はできるんじゃないか」「そうあってほしい」という気持ちを表しています。6)の「宇宙飛行士になれないかなあ」も「なれないかもしれないが、なりたい」という憧れに似た願望を表しています。
 では、表1と同じように、会話(1)(2)の願望表現を表にしてみましょう。

表2
願望表現において話し手の表現意図を左右する6つの要因(ⅰ~ⅵ)のうち程度が高いものを示す表。「~たい」は主観的、明確性、話しことば、プラス評価。「~たいと思う」は主観的、明確性、丁寧度、話しことば、プラス評価。「可能形+たら(いい)なあと思う」は主観的、話しことば、プラス評価。「可能形+たらいいんだけど/が」は丁寧度、話しことば、プラス評価。「可能形+ないかなあ」は主観的、話しことば。

2.他者に対する願望

 では次に、話し手による他者への願望表現を見ていきましょう。

  1. (4)
    A:
    いつまでにやればいいですか。
    B:
    1. a.金曜までにやってもらいたいんです。
    2. b.金曜までにやってほしいんです。
    3. c.金曜までにやってください。
    4. d.金曜までにやってもらえます/いただけますか。
    5. e.金曜までにやってもらえれば/いただければいいです。
    6. f.金曜までにやってもらえれば/いただければいいんですけど/が。

 (4)に出てくる願望表現を形の上から整理すると次のようになります。丁寧に言う場合は、「~てもらう」は「~ていただく」になることが多いです。

    1. 1)~てもらいたい、~ていただきたい
    2. 2)~てほしい、~てほしいです、~てほしいんです
    3. 3)~てください
    4. 4)~てもらえますか、~ていただけますか
    5. 5)~てもらえれば/いただければ+いいです
    6. 6)~てもらえれば/いただければ+いいんですけど/が

 「~てほしい」を用いる場合、動作主は基本的には格助詞「に」をとります。

  1. (5)
    病院に行けないので、医者に家まで来てほしいのだが。(医者が来る)
  2. (6)
    意欲ある社員にこのプロジェクトに参加してほしいと思う。(意欲ある社員が参加する)
  3. (7)
    男性が女性に作ってほしい料理の第一位はカレーだという。(女性が作る)

 一方で、次のように格助詞「が」をとる場合もあります。

  1. (8)
    工事の音がうるさい。早く工事が終わってほしい。(工事が終わる)
  2. (9)
    買い物が不便だ。この町にスーパーが来てほしい。(スーパーが来る)

 山西(2011)は、「が」の使用が近年浸透し始めていること、また、「が」+「~てほしい」の文に次のような傾向があることを指摘しています。

  •  ⅰ. 実際の動作主体は抽象的概念であったり、非個人であったりする例が多いのではないか。
  •  ⅱ. 発話者の期待する状況は、特定あるいは一定範囲の人物の、具体的な動作により実現するものではなく、抽象度が高いものである。
2015年3月31日更新「文法を楽しく!!」「表現意図-意志-」
参考文献
山西 正子(2011)「「~てほしい」と格助詞」目白大学人文学研究 第7号 165 −174

(市川保子/日本語国際センター客員講師)

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