日本語教育通信 文法を楽しく「表現意図 -指示・命令・禁止-」

文法を楽しく
このコーナーでは、学習上の問題となりやすい文法項目を取り上げ、日本語を母語としない人の視点に立って、実際の使い方をわかりやすく解説します。

表現意図 -指示・命令・禁止-

 「表現意図」シリーズ5回目の今回は「指示・命令・禁止」について考えます。「指示」とは文字通り「指差し、示すこと」で、先生が生徒に、上司が部下に、また、国や自治体が国民や市民に「このようにするように」と指図することです。「命令」は主に上位の者が下位の者に言い付けることで、指示よりは働きかけが強く、言い付けに従って行動することが必要になります。「禁止」は「することを許さない」ことで、命令の一種とも考えられます。

1.「お願い」から「指示」へ

 皆さんは公園に立っている看板を見たことがありますか。
 私の家の近くの公園には看板が立っていて、その看板には「公園利用者へのお願い」として次のようなことが書いてあります。

  1. (1)公園利用者へのお願い
    1. バイクの乗り入れはやめましょう。
    2. 犬の放し飼いはやめましょう。
    3. 打ち上げ花火はやめましょう。
    4. 公園灯を午後10時に消灯しますので、夜間の公園利用はご遠慮ください。
    5. マナーを守ってご利用ください。

公園利用者へのお願いのイラスト

 看板には「お願い」として、「~ましょう」と「ご~ください」の2つの表現が出ています。公園利用者に呼びかけるように、やわらかい、丁寧な表現が使われています。
 これは市からの「お願い」ですが、「市」というのは権力のある組織ですから、このお願いは強制力を持っています。「お願い」でもあり、「指示」でもあり、「命令」でもあると言えます。
 では、「指示」表現とはどんなものでしょうか。上の(1)を「指示」という感じで表現してみましょう。

  1. (2)公園利用者へのお願い
    1. a.バイクの乗り入れはやめてください。
    2. b.犬の放し飼いはやめるように(してください)。
    3. c.打ち上げ花火はやめましょう。
    4. d.公園灯を午後10時に消灯するので、夜間の公園利用はしないこと。
    5. e.ご利用に際しては、マナーを守っていただきます。

 かなり強い言い方になりましたね。
 a.「~てください」は丁寧な依頼表現だと考えられていますが、やんわりと、しかし、ぴしっと、相手に指示する働きを持っています。aより命令的な響きを持つのがbです。特に「~するように。」で終わると、強い指示の響きがあります。「ようにする」という言い方の中に「努力をしろ」という意味合いが入ります。cは、看板(1)と同じ「~ましょう」を使っています。「~ましょう」は相手に誘いかけながら、指示をする働きを持ちます。普通形になると「~(よ)う」(やめよう)になります。
 dは指示や注意・命令の典型的な用法です。「~こと」を用いて、簡潔に指示・命令をしています。指示や注意を、次のように箇条書きで表す時などにも、よく用いられます。

  1. 犬の放し飼いをやめること。
  2. 犬の糞を放置しないこと。
  3. 芝生には入らないこと。

 eの「~(し)ていただきます」はテ形に「授受・やりもらい」を表す「いただく」の付いたもので、マス形の形でかなり強制力の強い指示表現になります。「~てもらいます」も使われますが、丁寧度が下がり、より強い表現になります。

<文の形(表現文型)>
  1. 1)~てください
  2. 2)~ように(してください)
  3. 3)~ましょう
  4. 4)~こと
  5. 5)~ていただきます

2.「指示」から「命令」へ

 公園の看板などでは、指示以上に強い表現はあまり適当ではありません。「やめましょう」を「やめろ」とするとかえって人々の反発を招いてしまうからです。強く命令したい時は、「やめること」と「~こと」を使うのが多いようです。しかし、工場など危険性を伴う場所や、一瞬のミスが大事故につながるようなところでは、短く、明確に指示・命令をする必要があります。そこでは、命令の形を用いた注意書きや看板が多く見られます。
 次の(3)は、工場での注意書きのいくつかを集めたものです。注意書きは、通常、1枚の紙に1~3つ程度の注意が大きめに書かれています。

  1. (3)工場での注意書き
    1. a.注意せよ!
    2. b.保護メガネを着用しなさい。
    3. c.この高さより下げること。
    4. d.作業中は必ずヘルメットを着用するように。
    5. e.左右を見て!
    6. f.整理整頓。

工場での注意書きのイラスト

 「する」の命令形は「せよ」「しろ」ですが、a「せよ」は書き言葉に、「しろ」は話し言葉に用いられます。「しろ」「せよ」よりもう少し柔らかい命令形はbの「~なさい」で、本来は話し言葉ですが、文書などでも用いられることがあります。
 c、dの「~こと」「~ように」は指示にも使われますが、もっと働きかけの強い命令としての意味合いを持つことも多いです。eは「~てください」の「ください」が省略された形で、強い言い切りの命令になります。
 fのように、動詞を省略した「整理整頓」のような名詞止めも命令の働きをします。「頭上注意」「スリップ注意」など、現場の標語などに多く見られます。
 aとeには「!」が付いていますが、人の注意を引くためのもので、必要に応じて付けたり付けなかったりします。
 命令表現にはこれら以外に「あっち行った行った」(「あっちに行け」の意味)などのように、動詞のタ形を2度繰り返すことによって命令を表すこともあります。座っている人に「立った立った」、通り道にいる人に「どいたどいた」などが使われます。「立った」「座った」「さあ、歩いた」のように動詞を1度使う形もありますが、2度繰り返すことが多いようです。

<文の形(表現文型)>
  1. 1)せよ、しろ
  2. 2)~なさい
  3. 3)~こと
  4. 4)~ように
  5. 5)~て
  6. 6)名詞止め

3.禁止

 次に「禁止表現」について考えます。禁止表現は「否定の命令表現」でもあります。
 ここではタバコを吸うこと、「喫煙」を使って考えます。

  1. (4)
    1. a.ここでタバコを吸うな。
    2. b.ここでタバコを吸わない。
    3. c.ここでタバコを吸わないでください。
    4. d.ここでタバコを吸わないこと。
    5. e.ここでタバコを吸ってはいけない。
    6. f.ここでタバコを吸わないように。
    7. g.禁煙!

 aは禁止の命令表現です。動詞の辞書形に禁止を表す終助詞「な」を付けた形です。簡潔で、かなり強い言い方です。bのように単に動詞のナイ形を使って禁止を表す場合もあります。aよりは柔らかく、説得するような言い方になっています。
 cはabより丁寧な言い方になりますが、言い方が丁寧なだけで、決め付けた強い表現になることが多いです。文書・看板など書かれたものでは、dの「~(ない)こと」がよく用いられます。これは口頭では現れません。eは「~てはいけない」の形で、禁止を表します。aと同じくらいの強さがあります。
 fは禁止の指示、または命令として使われています。gのように名詞だけを出す名詞止めも表示や注意書きなどによく使われます。「立(ち)入(り)禁止」「駐車禁止」「使用禁止」などがあります。名詞止めの中の、「禁(止)」が禁止の意味を表しています。名詞止めでは、話し言葉では後ろに「です」や「だ」が付くことが多いです。

<文の形(表現文型)>
  1. 1)~な
  2. 2)動詞のナイ形、~ない
  3. 3)~ないでください
  4. 4)~ないこと
  5. 5)~てはいけない
  6. 6)~ないように
  7. 7)名詞止め

 以上、「お願い」「指示」「命令」「禁止」の表現を、表で比較します。表現意図(話し手がどうとらえ、どう表そうかとする思いや考え)を左右する要因に分けて考えてみます。あくまでもどういう傾向であるかを示すにとどめます。

「指示・命令・禁止」表現について、話し手の表現意図を左右する10の項目(主観的、実現性、明確性、丁寧度、話し言葉的、書き言葉的、肯定、否定、わがこと、ひとごと)のうち程度が高いものを示す表

「せよ」「しろ」「~なさい」「~な」「~てはいけない」「名詞止め」の表現について、話し手の表現意図を左右する10の項目(主観的、実現性、明確性、丁寧度、話し言葉的、書き言葉的、肯定、否定、わがこと、ひとごと)のうち程度が高いものを示す表

 主観的か否かという点では、指示や命令は働きかけというところに重点を置くので、あまり関係がないと言えます。「~ましょう」「~て/ないで」が話し手の気持ちが関わっていると言えるかもしれません。実現性はその表現がどの程度行為に移らせる力を持っているかということで、ほとんどの表現が実現性が高いと言えます。「動詞ナイ形」「~て/ないでいただきます」が直接的でないという点で、実現性がやや劣るかもしれません。明確性は実現性と比例していて、実現性のあるものは明確性も高く、明確性の高いものは実現性が高いとも言えます。
 「~ましょう」「~て/ないでください」は丁寧度が高いですが、他の指示・命令表現は丁寧度は低いと言えます。指示・命令はほとんどが話し言葉的ですが、「せよ」「~こと」は書き言葉に使われます。肯定・否定両方に使用可能なのは、「~てください」、その省略形の「~て」、「~ように」「~ていただきます」「~こと」、そして、「名詞止め」で、それ以外は、肯定のみか、否定のみで使われます。「名詞止め」は「整理整頓」「保護メガネ着用」「禁煙」「手袋使用禁止」のように肯定と否定で用いられます。
 「わがこと」「ひとごと」について言えば、指示・命令などはほとんどが人に向けられた「ひとごと」に用いられます。

(市川保子/日本語国際センター客員講師)

ページトップへ戻る