日本語教育通信 授業のヒント どんどん使える!ばっちりわかる!日本語学習番組「ひきだすにほんご」でコミュニケーションのためのオノマトペを学ぼう!

授業のヒント
このコーナーでは、海外の日本語教育の現場で、すぐに応用できる具体的な教え方のアイデア、ヒントを紹介します。

2023年7月
国際交流基金日本語国際センター

概要

目的
  • 日本語学習番組「ひきだすにほんご」の「気持ちが伝わるオノマトペ」コーナーを活用して、コミュニケーションのためのオノマトペを学ぶ
  • オノマトペを使って、コミュニケーションを楽しむ
対象とするレベル
JF日本語スタンダードA2以上が望ましい
クラスの人数
何人でも(10人から20人ぐらいがやりやすい)
準備するもの
インターネットにつながったコンピューター、プロジェクター、スピーカー

コミュニケーションのためのオノマトペ

どきどきする、へとへと、サクサク、ばっちり、すっきり…このような音や様子を直接表すことばは「オノマトペ」といって、日本語にはたくさんあります。マンガやアニメでよく使われているので、見たり聞いたりしたことがある人も多いのではないでしょうか。

オノマトペを使うと感覚や気持ちを生き生きと伝えることができて、友だちとのおしゃべりがもっと楽しくなります。でも、オノマトペの意味がわかっただけではなかなか使えるようにはなりません。そこで今回は、日本語学習番組「ひきだすにほんご Activate Your Japanese!」(以下、「ひきだすにほんご」)の中の「気持ちが伝わるオノマトペ」というコーナーを使って、コミュニケーションのためのオノマトペを教えるアイデアを紹介します注1

「ひきだすにほんご」と「気持ちが伝わるオノマトペ」

「ひきだすにほんご」は、国際交流基金(JF)とNHKエデュケーショナルが共同で制作した全24回の日本語学習番組です注2。NHKワールドJAPANを通じて2022年2月に放送が始まり、インターネットでも無料で動画を見ることができます注3

「ひきだすにほんご」には3つのコーナーがありますが、その中に、コミュニケーションに使えるオノマトペを紹介する「気持ちが伝わるオノマトペ」というコーナーがあります。

  • 「ひきだすにほんご Activate Your Japanese!」のタイトル画像
    「ひきだすにほんご」のタイトル
  • 「気持ちが伝わるオノマトペ」のタイトル画像
    「気持ちが伝わるオノマトペ」のタイトル

「気持ちが伝わるオノマトペ」はだいたい1分ぐらいの短いコーナーで、基本的に1回につき1つのオノマトペが紹介されています。コーナーは、オノマトペのイメージや意味を伝えるアニメーションパート(以下(1)、(2))と、コミュニケーションの中での具体的なオノマトペの使い方を紹介する実写の会話パート(以下(3))で構成されています。

  • 人の顔と吹き出しのイラストで「わくわく」を表しているイメージ画像
    (1)イメージ
  • 夏祭りやビーチでの時間をを思い出している人のイラストで「わくわく」を表しているイメージ画像
    (2)いろいろな例
  • 2人が雑誌を見ている写真と「うん わくわくする!」と書かれたイメージ画像
    (3)会話パート

「気持ちが伝わるオノマトペ」の構成(例:わくわく)

では、この「気持ちが伝わるオノマトペ」を活用して、コミュニケーションのためのオノマトペを教えてみましょう。

授業の流れ

1.音声を消して会話パートを見て、場面を確認する

今回の授業では、会話パートのような会話ができるようになることを目標とします。オノマトペコーナーの映像をアニメーションパートから順番通りに見せていくこともできますが、会話の中でオノマトペを使うということをより強くイメージしてもらうためには、順番を入れ替えて、はじめに会話パートから見せるというやり方もあります。まずは会話パートを見て、どこで、だれが、何をしているかという場面を推測します。会話パートの音声を消すと、場面を考えることだけに集中しやすくなります。会話パートは20秒ぐらいで、複雑な場面は出てきません。音声がなくても、服装や持ち物、映像の中にある物をヒントにすると、場面が想像できます。

ビデオを見たら、どんな場面か、どうしてそう思うかということを話し合って、場面を確認しましょう。

2.目標Can-doを共有する

場面を確認したら、授業の目標となるCan-doを全体で共有します。Can-doは会話パートの内容をもとにしましょう。「わくわくする」を例にすると、会話パートでは、二人の女性が旅行の準備をして、ガイドブックを見ながら「わくわくするね」と話しています。これをもとに「友だちとこれからの予定について短い簡単なことばで話して、コメントを言うことができる」というCan-doが考えられます。

3.音声付きで会話パートを見て、オノマトペを探して、意味を推測する

今度は、音声付きで会話パートを見て、会話の中で使われているオノマトペを探しましょう。会話の中に知らない言葉があるかもしれませんが、ここではオノマトペを見つけることができれば大丈夫です。短い会話なので、オノマトペを見つけることも大変ではありません。

オノマトペを見つけたら、意味を推測します。だれが、だれと、どんな話をしているかという場面をヒントにすると、会話の中のオノマトペがどんな意味なのか考えやすくなります。

4.ビデオを通して見て、オノマトペの意味を確認する

ここではビデオを最初から最後まで見て、推測したオノマトペの意味が正しいかどうか確認します。アニメーションパートのカラフルでわかりやすいイラストやイメージに合った音楽が、オノマトペの意味を理解するためのヒントになります。

ビデオの中には直接的なオノマトペの意味の説明はないので、学習者はオノマトペの意味を誤解している可能性があります。全体でオノマトペの意味を確認して、もし学習者が全く違う理解をしているようだったら、もう一度場面を確認したりビデオを見たりして、正しく理解できるようなサポートをしましょう。

5.<練習1>スクリプトをペアで練習する

オノマトペの意味を確認したら練習をします。まずは、会話パートと同じ会話をしてみましょう。場面を意識して、会話パートの登場人物と同じような気持ちになって話してみると、オノマトペを使って感覚や気持ちを伝える楽しさを実感できると思います。

6.<練習2>学習者にとって身近な場面を設定して、会話の練習をする

次に、Can-doをもとに、学習者にとって身近な場面を設定して会話の練習をするといいでしょう。「わくわくする」を例にすると、Can-doをもとに、手帳や時間割、カレンダーなどを見ながら学習者の実際の予定について話す練習や、今年の夏休みの予定について話すという練習ができそうです。

他の例として、「気持ちが伝わるオノマトペ」では「ばっちり」も紹介されていますが、その会話パートは友だちと撮った写真が上手に撮れたか確認するという内容です。これをもとに、「一番いい写真を撮る」というタスクを学習者に与えて、学習者には教室の中を動き回りながら、実際にクラスメートと写真を撮りあって、上手に撮れたかどうか確認するという活動もできます。写真を確認するときに自然に「ばっちり」を使うことができて、面白い写真もたくさん撮れるので、楽しく会話しながらオノマトペを使うことができます。

このように、学習者の「リアル」な状況を利用して練習をすると、会話の中で自然にオノマトペを使うことができ、学習者もオノマトペの便利さや大切さを実感しやすくなります。

教室で受講生たちがポーズをとって写真を撮影する様子の画像
授業で「ばっちり」な写真をとっているところ

7.ふりかえり

ここでは、授業のふりかえりを通して、学習したオノマトペを「自分にとって必要なことば」だと感じてもらいます。

例えば、次のような「ふりかえりシート」を授業で使ってみました。

「A オノマトペについて評価しましょう! B あなたならどんなときに使いますか? C コメント・感想・質問」のふりかえりシートの画像
「わくわくする」のふりかえりシート

ふりかえりシートは「【A】オノマトペについて評価しましょう!」「【B】あなたならどんなときに使いますか?」「【C】コメント・感想・質問」という3つの部分に分かれています。

【A】では、Can-doを達成することができたか、学習したオノマトペが気に入ったか、意味や使い方がわかったかという3点について、3つの星で評価してもらいました。

【B】では、自分の生活を思い浮かべながら、オノマトペが使えそうな場面を書き出してもらいました。そうすることで、授業で学習したことと学習者の授業外の現実の生活とを結びつけ、「このオノマトペはいろいろな場面で使える!」ということを感じてもらえるようにしました。

【C】には授業を受けた感想やコメント、質問などを自由に書いてもらいました。「自分がどう思ったか」を書き留めておくことが目的なので、母語で書いてもいいということにしました。中には、上の写真のように、その日学習したオノマトペを早速感想の中に使う人もいました。

新しいことばを勉強しても自分にとって関係がないことばだと感じてしまったら、なかなか使えるようにはなりません。「私も使いたい!」「これから使ってみよう!」と思うには、新しく勉強したことばを「自分にとって必要なことば」だと感じることが大切です。授業を通して、学習者は、オノマトペの意味や使い方も理解して、大切さや便利さも感じているはずです。それを忘れないうちに、ふりかえりの時間を活用して、オノマトペに対する認識を深めましょう。

ポイント

今回紹介した授業では、特に次のようなことを重視しています。

  1. 1.学習者が映像を通してオノマトペの意味や使い方を推測し、理解する
  2. 2.学習者がオノマトペを「自分にとって必要なことば」と感じる

「気持ちが伝わるオノマトペ」ではオノマトペの意味が直接説明されているわけではありません。アニメーションパートや会話パートを通じて、オノマトペの意味や使い方を推測して、理解できるような作りになっています。このような特徴を生かすために、学習者が場面や意味を推測する活動を入れました。

また、学習したオノマトペを授業外でも使いたいと学習者に思ってもらうために、身近な場面を使った練習やふりかえりの活動を通して、オノマトペが自分にとって必要なことばだと感じられるようにしました。

まとめ

今回紹介したような流れで実際に授業をしてみたところ、参加者からは次のようなコメントがありました。

  • ビデオは短くてわかりやすい。イラストや音楽がとてもいい。
  • 授業の内容はコミュニケーションに役立ちます。
  • とても楽しかったです。
  • オノマトペで気持ちをつたえやすいと思います。
  • 今は友達と話すときにオノマトペを使っています。

ビデオを評価するコメントに加えて、コミュニケーションに役立つ内容を評価するコメントが多く聞かれました。授業で学んだオノマトペを実際に授業の外で使っているという学習者もいました。このように、「気持ちが伝わるオノマトペ」を教材として活用すると、学習者はコミュニケーションのためのオノマトペを楽しく身につけることができます。

「気持ちが伝わるオノマトペ」では20を超えるオノマトペが紹介されています 注4。その中から学習者が身近な場面で使えそうなものを授業で取り上げると効果的です。また、今回紹介したアイデアは15分から20分ぐらいで取り組むことができるので、授業の一部の時間を使ってオノマトペを学習することもできます。

みなさんも、オノマトペの学習にぴったり な「ひきだすにほんご」をどんどん 活用して、わくわくする授業をしてみてください!
※日本語教育通信ではマンガを使ってオノマトペを楽しむアイデアも紹介しています。こちらも合わせてぜひご覧ください。「日本語教育通信 授業のヒント マンガでオノマトペ(擬音語・擬態語)を楽しむ」(2012年1月掲載)

注:
  1. 1.本記事は、より広く「ひきだすにほんご」の活用方法を紹介するために、石山(2023)を参考にして、執筆したものです。
  2. 2.番組についての詳細は、日本語教育通信2022年5月記事 をご覧ください。
  3. 3.NHKワールドJAPANで放送された番組はNHKワールドJAPANのウェブサイト で見ることができます。また、3月31日に公開された「ひきだすにほんご Activate Your Japanese! コンテンツライブラリー 」では、コーナー別に動画を視聴することもできます。「ひきだすにほんご Activate Your Japanese! コンテンツライブラリー」の使い方については、日本語教育通信2023年6月記事 もご参照ください。
  4. 4.取り上げられているオノマトペの一覧や会話パートのスクリプトは、「ひきだすにほんご Activate Your Japanese! コンテンツライブラリー」の「ダウンロードコンテンツ一覧」ページ からダウンロードすることができます。

参考文献:
石山友之(2023)「日本語学習番組「ひきだすにほんご」を活用したオノマトペ指導の試み」『日本語教育方法研究会誌』29(2), pp.86-87.

(石山友之/日本語国際センター専任講師)

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