日本語教育通信 日本語教育ニュース 『まるごと 日本のことばと文化』(初中級A2/B1)を出版しました!

日本語教育ニュース
このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。

初中級(A2/B1)、出版!

日本語国際センター 教材開発チーム

まるごと表紙

 2015年6月30日、国際交流基金は『まるごと 日本のことばと文化』(初中級 A2/B1)を出版しました。これまでの入門(A1)、初級1(A2)、初級2(A2)に続く、JF日本語教育スタンダード準拠のコースブックです。Aレベルの総まとめとして、そしてBレベルへの足がかりとして、学習者が自身の日本語学習をふりかえり、さらに先へ進むきっかけを与えてくれる1冊です。

販売情報

『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)は、日本語教材を扱う書店、各オンライン書店よりお買い求めいただけます。海外では、紀伊國屋書店、丸善書店などの日系書店が取り扱っています。詳しくは発売元の株式会社三修社の『まるごと』特設サイト「販売のご案内」をご覧ください。また、『まるごと』シリーズの音声は、同サイト「教材ライブラリ」からmp3形式ですべてダウンロードすることができます。初中級(A2/B1)についても、音声がアップロードされていますので、ぜひ聞いてみてください。

そもそも『まるごと』って?

JFSの坂とまるごと

 『まるごと』は「相互理解のための日本語」をコンセプトに開発されたコースブックです。JF日本語教育スタンダードに準拠し、日本語を使ってコミュニケーションすることと、異文化を理解し尊重することを重視してデザインされています。主なターゲットは海外の成人学習者で、日本在住でなくても日本語と文化を学ぶことを楽しめるように、学習内容と方法に様々な工夫が凝らされているのが『まるごと』です。また、コースブックとして教師が手順をアレンジしなくても順番通りに教えていけばいいようになっています。そのため、経験があまりなくても、この1冊があれば日本語が教えられることも特徴です。

初中級(A2/B1)の特徴

『まるごと』初中級の学習目的と目標

 新刊の『まるごと』初中級(A2/B1)は、入門(A1)、初級1(A2)、初級2(A2)に続くレベルとして開発されましたが、A2レベルを終了した学習者に広く使ってもらえる教材です。A2/B1となっているのはA2レベルのコミュニケーションができるようになり、さらにB1レベルのコミュニケーションに挑戦することを目指すからです。A2レベルは、身の回りの日常的なことについてあまり複雑でない日本語でやりとりできるという基礎段階ですが、B1レベルは言語使用者として自立する段階になります。初中級(A2/B1)の教室活動にはこの両方のレベルがあります。
 入門(A1)、初級1・2(A2)では、より多くの人たちの様々な学習ニーズに合わせて使えるように、「かつどう」「りかい」2つの主教材がありました。今回、初中級(A2/B1)が想定する学習者は、入門、初級Aレベルの最終段階にあるので、これまでの学習活動をすべて統合する意味で、1冊にまとめました。
 学習目標は、①A2、B1レベルのコミュニケーションができるようになる、②そのコミュニケーションのために必要な言語形式のルールや使い方を理解する、③トピックに関連した日本文化について知る、の3点です。

『まるごと』初中級の学習内容 トピックの流れ

 初中級(A2/B1)には全部で9つのトピックがあります。

 <初中級(A2/B1)のトピック

  1.  1 スポーツの試合
  2.  2 家をさがす
  3.  3 ほっとする食べ物
  4.  4 訪問
  5.  5 ことばを学ぶ楽しみ
  6.  6 結婚
  7.  7 なやみ相談
  8.  8 旅行中のトラブル
  9.  9 仕事をさがす

授業時間の目安は1トピックあたり6~8時間で、各トピックの教室活動の流れは次のようになっています。

初中級(A2/B1) トピックの流れ
じゅんび トピックの内容と関連語彙、漢字表記を学ぶ
きいてはなす(1) 同じ場面での短い会話を4つ聞いて内容を理解し、同じような流れの会話ができるようになることを目指す。4つの会話を聞きながら、会話の流れや言語形式のルール等にも気づいていく。<A2>
きいてはなす(2) トピックに応じた実用的な会話や、自分に関することを少し長くくわしく話せるようになることを目指す。最初に少し長いモデル会話を聞いて、その中から談話コントロールやより複雑な表現形式を学ぶ。<A2><B1>
よんでわかる(1) サイトの記事やメール等の文章を大まかに理解することができるようになることを目指す。文章を理解した後には、新しい文型や表現の練習をする。答え合わせには音声を利用する。<A2><B1>
よんでわかる(2) テキストを速読し、その内容と関連して自分の考えや経験などを話し合う。読むテキストは「よんでわかる(1)」と関連した内容。<B1>
ことばと文化 日本語の使い方を素材にした異文化理解学習
  • トピック3 50ページから51ページ
    トピック3ほっとする食べ物P.50-51
  • トピック3 52ページから53ページ
    P.52-53

 B1レベルへの準備として使用できるように、初中級(A2/B1)は初級2(A2)までと比べて、会話や読みのテキストの分量がやや長くなり、漢字表記の語も少し増えました。また、海外での生活を通して自分にとっての「ほっとする食べ物」について考えたり、異文化の中で働くことについて考えたりするなど、トピック内容が個人の事情や内面に少し踏み込んだものになっています。成人学習者の「話したい」「聞きたい」意欲が高められ、ことばと文化を通した相互理解が一層深まることが期待されます。

『まるごと』、使っています!

 今回は、国際交流基金の海外のセンターや関係機関などの日本語講座で実際に『まるごと』を用いて授業を行っている先生方に、受講者の声や、教科書についての感想を聞いてみました!

「入門、初級の学習者たちは、『まるごと』のトピックの中で自分の言いたいことを言えるようになっていっています。それに、耳でたくさん日本語を聞くので、発音もきれいですね。」(キルギス)

「入門コース(ゼロ)からではなくて、他の機関で文型・文法を中心に最初に学んで、途中から『まるごと』のコースを受講する学生がいますが、トピックベースでの日本語の勉強がとても楽しいようです。よく『先生、次はどんなトピックですか? すごく楽しみ!!』ということを私に話しに来てくれます。イラストや面白い写真がいっぱい入っているので、勉強しやすいようです。」(ラオス)

「今までは、文法・文型をしっかり覚えてから話すというスタイルだったので、『まるごと』を使った授業では、このやり方で本当にいいのか、教師として不安が残る部分も少しあります。でも、全く日本語を勉強したことがないゼロの状態からコースに通い始めて、中級クラスまで継続している受講生がいます。その受講生の成長を見ていると、こうやって日本語でいろいろなことができるようになっていくのかと、教師自身が自分自身の学習観や教育観をふり返る機会になるような気がします。」(バンコク)

Can-doで目標が示されていて、何をやっているのか、何を目指しているのかがわかりやすい点がいいですね。他の機関で教えているときには、文法ベースの教材を使っていて、途中で挫折する学習者を見てきましたが、今のコースでは多くの人が継続してコースを受講しています。自分のことを語り合うタスクも多いので、受講生同士が仲良くなっていくのも、『まるごと』を使ったコースの特徴だと思います。ニューヨーク日本文化センターのウェブサイト で紹介している実際の受講生の声も、聞いてみてください!」(ニューヨーク)

ますます広がる『まるごと』の輪!

 今回の「日本語教育ニュース」では、出版されたばかりの『まるごと』初中級(A2/B1)をご紹介しました。2015年中に東京で、『まるごと』初中級(A2/B1)出版記念セミナーも開催する予定です。「日本語教育通信」では語りきれなかった制作秘話が聞けるかもしれません。また、続刊として、2016年秋に中級1(B1)を、2017年秋に中級2(B1)を出版予定です。既に『まるごと』をお使いの方も、初めて手にする方も、これからますます大きく広がっていく『まるごと』の輪に、どうぞご注目ください!

<関連サイト>
「JF日本語教育スタンダード」http://jfstandard.jp/
『まるごと 日本のことばと文化』公式ポータルページhttp://marugoto.org/

※ 詳しくは「本ばこ」2013年9月更新分をご覧ください。

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