日本語教育ニュース 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)の今と、関西国際センターの取り組み
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- このコーナーでは、国際交流基金の行う日本語教育事業の中から、海外の日本語教育関係者から関心の高いことがらについて最新情報を紹介します。
2025年8月
国際交流基金関西国際センター
国際交流基金(以下、JF)は、2019年から、「特定技能」外国人材向け日本語事業に取り組んでいます。外国人材向け日本語事業は、(1)国際交流基金日本語基礎テスト(以下、JFT-Basic)の実施、(2)JF生活日本語Can-do・教材等の開発、普及、(3)現地日本語教師育成、(4)現地日本語教育活動強化支援の4つの柱を中心としています。今回は、7年目を迎えた現在の取り組み状況、特にJFT-Basic(注1)実施状況と、関西国際センター(以下、KC)の取り組みについて報告します。

JFT-Basicは、主として就労のために来日する外国人が遭遇する生活場面でのコミュニケーションに必要な言語能力を測定し、「ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力(A2レベル)」があるかどうかを判定することを目的としたテストです。在留資格「特定技能1号」の申請に必要な日本語能力の証明のために使えます。2019年4月に始まり、年に6回行われ、2025年2月-3月テストまでのべ372,917人が受験しました。
ここからは、最新の実施状況として2025年2月-3月に実施されたテストを取り上げて報告します。(注2)
JFT-Basic 増加する受験者
実施国・実施都市は、インド、インドネシア、ウズベキスタン、カンボジア、スリランカ、タイ、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ミャンマー、モンゴルの海外11か国24都市と日本11都道府県です。2019年4月開始時のフィリピン1国1都市での実施から大きく増えました。

受験者数は海外30,651人、国内1,991人、合計32,642人で、これまでで最も多くなりました。開始時の57人から、受験者数は年々増え続けています。
実施国別ではインドネシアでの受験者が最も多く17,771人で、全体の54%を占めました。次いで、ネパール5,044人(15%)、ミャンマー3,535人(11%)、日本1,991人(6%)、フィリピン1,759人(5%)となっています。
国内での受験者を国籍別に見ると、インドネシア697人、ベトナム695人で、共に全体の35%を占めており、この2か国の出身者が多いことがわかります。次いで、ネパール190人(10%)、中国157人(8%)、フィリピン65人(3%)と続きます。
海外の受験者の背景
ここからは、海外の受験者の受験予約時のアンケート集計結果から、どのような受験者が受験しているかについて年代、性別、受験した/受験予定の技能試験(注3)、訪日経験を報告します。
受験者の平均年齢は、23.0歳で、年代別では20代が19,516人(64%)で最も多く、次が10代8,219人(27%)で、若い受験者が多いです。性別は、男女ほぼ半々です。
受験した、あるいは受験予定の技能試験を16分野から複数の選択肢を選択可能として聞きましたが、全受験者の中で「介護業」を選択した受験者は12,453人(41%)と最も高く、次いで「農業」6,261人(20%)、「外食業」5,015人(16%)、「飲食料品製造業」4,974人(16%)の順で多くなっています。
訪日経験は、25,889人(84%)の受験者が「ない」と回答しました。訪日経験がある受験者の来日目的は、「就労」859人(18%)と「技能実習・研修」801人(17%)の2つが多いです。
『いろどり』「いろどり日本語オンラインコース」を使用する受験者
日本語学習で使用している教科書やEラーニング教材についても、複数の選択肢を選択可能として聞きましたが、全受験者のうち『いろどり 生活の日本語』(以下、いろどり)と回答した人は14,748人(48%)、「いろどり日本語オンラインコース」(以下、いろどりオンラインコース)2,872人(9%)でした。使用教材について質問を始めた2021年1月テストでは全受験者3,284人のうち『いろどり』は697人(21%)、「いろどりオンラインコース」を選択肢に含めた2023年2月-3月テストでは全受験者10,859人のうち「いろどりオンラインコース」は564人(5%)でしたので、使用する受験者が増えたことがわかります。
『いろどり』、「いろどりオンラインコース」の使用者が増えたことは、2025年3月末までのウェブサイトアクセス数やユーザー登録者数などからも確認することができます。『いろどり』は公開からの累計ページビュー数は17,570,557です。「いろどりオンラインコース」は開講からの累計ページビュー数は51,438,374、ユーザー登録者数は106,028人です。ユーザーの国・地域はインドネシア、フィリピン、ネパール、タイ、スリランカなどアジアの国・地域が約80%を占め、JFT-Basicの実施国の多くと重なっています。
現在『いろどり』は日本語・英語併記版以外に20言語版が公開され、「いろどりオンラインコース」も日本語・英語以外に10言語の解説言語で開講されています(注4)。
以上、JFT-Basicの最新の実施状況を報告しました。これからも、学習者にとって日本での生活に役立つように、日本語を使って何ができるか(Can-do)を「目標」とした『いろどり』・「いろどりオンラインコース」を使った「学習」、JFT-Basicによる「評価」といった一連の取り組みを続けていきます。
関西国際センター(KC)での地域日本語教育に関する取り組み
KCでは2023年3月にKC25周年を記念するシンポジウムを開催し、JFが2019年度から取り組んでいる海外における「特定技能」外国人材向けの日本語事業を紹介するとともに、これまでの成果や教材などのリソースを国内の外国人材受け入れ・共生のための日本語教育支援にどのように活用できるかについて参加者の皆さんと考える機会としました。
現在、日本国内の外国人住民が増加したことにより、多文化共生社会実現が課題となっています。また、文化庁から「日本語教育の参照枠」報告が公開され、日本語を使って何ができるか(Can-do)に注目する課題遂行への関心も大きくなっています。KCでも地域日本語教育支援の機会が多くなりました。教師や学習支援者を対象としたセミナーや研修会で、『いろどり』、「いろどりオンラインコース」を使ったCan-doベースの学習を紹介したり、生活者を対象とした日本語コースを企画し直接学習支援を行ったり、地域日本語ボランティア養成講座を企画し出講したりしました。
これからも、海外からの日本語学習者が来日後も安心して生活できるよう、JFの取り組みの成果、教材などのリソースを活用し、日本語教育の面から支援していきたいと思います。
注:
- 1.詳細は、国際交流基金 - 日本語教育ニュース 生活場面でのコミュニケーションに必要な言語能力を判定する 「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」をご参照ください。
- 2.テスト回ごとの実施結果は、テスト実施報告 | JFT-Basic 国際交流基金日本語基礎テストをご参照ください。
- 3.特定技能1号の資格を得るためには、日本語試験と技能試験を受けて合格する必要があります。技能試験は16分野の中から選びます。詳細は、特定技能総合支援サイト:外国人向け | 法務省出入国在留管理庁をご参照ください。
- 4.『いろどり』の日本語・英語併記版以外の20言語版は、インドネシア語・ウクライナ語・ウズベク語・韓国語・クメール語・スペイン語・タイ語・中国語(簡体字/繁体字)・ネパール語・フィリピノ語・ヒンディー語・フランス語・ベトナム語・ベンガル語・ポルトガル語・ミャンマー語・モンゴル語・ラオス語・ロシア語です。「いろどりオンラインコース」の日本語・英語以外の10言語の解説言語は、インドネシア語・クメール語・タイ語・中国語(簡体字)・ネパール語・ベトナム語・ベンガル語・ミャンマー語・モンゴル語・ラオス語です。
(戸田淑子・熊野七絵・黒田亮子/関西国際センター日本語教育専門員)