国際交流基金賞50周年記念 カイ・ニエミネンさんからのメッセージ

カイ・ニエミネンさんの写真
photo by Kirsi Stubb, 2023

平成9(1997)年度 国際交流奨励賞

日本文学翻訳家、日本文化研究者、作家

カイ・ニエミネン

[フィンランド]

1997年に国際交流奨励賞の受賞者に選ばれたと聞いた際、当時この賞の存在さえ知らなかった私はたいへん驚きましたが、賞を頂けたこと、また受賞のため日本に行く機会を頂けたことをありがたく思いました。その頃も今も、私は学者でも研究者でもなく、独学で学んだ翻訳者であり詩人に過ぎません。ですから、身に余る栄誉だと感じました。

とはいえ、受賞にいたる道筋はありました。1979年に国際交流基金のフェローシップを与えられ、人生で初めて日本を訪れることができました。1970年代初めから、文芸誌に日本文学の翻訳を発表していたのですが、まずは徒然草や芭蕉の俳文などの古典を手がけたのち、井上靖や開高健といった現代の作品の翻訳に進みました。その後再び芭蕉に戻って訳していた頃、人見鐵三郎駐フィンランド日本大使に、実際の日本を見に行ってみないかと声をかけていただいたのですが、最初は、芭蕉や吉田兼好にとっての日本を見出すことはもはやできるとは思えないと返事をしました。けれど人見大使は、ぜひ行って自分の目で見てみなさいと背中を押してくれたのです。何の義務も伴わない、ただ日本全国を旅して見たこと感じたことを吸収すればよいと言わたので、行くことにしました。

日本で1年を過ごした後、1980年の秋口にフィンランドに戻ったのですが、帰国後、ヘルシンキから東に約80キロの田舎の村に引っ越しました。翻訳家や作家が邪魔されず仕事に打ち込める環境です。この40年間森の木陰で暮らし、今もここを終の棲家にしようと心に決めています。最初の訪日以来、10回ほど日本を訪れましたが、毎回、初めての日本滞在中に住んでいた東京の下町、北千住の家に立ち寄っています。そこは、芭蕉の奥の細道の出発点であり、芭蕉の日本はまだ失われていないと気づくのにもってこいの場所です。私自身も、1980年にこの場所から自分の旅を始めました。

森に囲まれたこのフィンランドの田舎で、私は日本の古典や現代文学の翻訳に理想的な環境を見つけることができました。様々な作品と並行して20年がかりで源氏物語の翻訳に取り組み、ツルネン・マルテイが1970年代に始めた翻訳を完成させることもできたのです。国際交流基金のおかげで今まで日本文学に打ち込むことができ、そして海辺の小屋にはサウナをたてることもできました。

カイ・ニエミネン

(原文 英語)

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