世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 学びと感謝

キング・サウード大学
佐藤 修

サウジアラビアと聞いて思い浮かぶものは「砂漠」、「ラクダ」、そして「石油」でしょうか? サウジアラビアは世界一の石油埋蔵量を誇るエネルギー大国で、日本にとって最大の原油供給国です。

「外」を知り気づいたサウジの素晴らしさに感謝する学生

制服にもなっているサウジアラビアの民族衣装の写真
制服にもなっているサウジアラビアの民族衣装

好調な経済を背景に、サウジ国民は例えば国公立の医療機関や教育機関を無料で利用できますし、大学生には奨学金まで支給されます。家には家政婦がいて、家事を手伝う必要も機会もないため、炊事や洗濯、掃除などしたことがないという大学生は珍しくありません。

「日本に留学したら何でも自分でしなければならないんですね…。 しかも大学に通うのにお金を払わなければならないんですか」

そんな驚きの声を聞いたことがあります。そして、そのようなときには同時に、今まで当然のように享受していた政府からの恩恵や生活上の利便性に対して、感謝の気持ちが湧いてくるようです。

日本語を学び「外」に目を向けるようになったからこそ、それまでは当たり前と思ってしまっていたことに改めて気づくことができ、感謝できるようになったのかもしれません。

教科書『アラブ人のための日本語』

そのような物の見方の変化を促しているのが、使用している教科書『アラブ人のための日本語』です。派遣先であるキング・サウード大学の日本語専攻課程主任シハーブ・ファーリス先生がお書きになり、代々の専門家も全面的に協力して作り上げてきた教科書です。

タイトルのとおり、アラビア語話者向けの日本語教科書で、語彙や場面、コラムにより異文化理解を促進できる工夫が凝らされています。文法説明等はアラビア語で解説されているため、日本人教師が教える際にも役立ちます。

この教科書『アラブ人のための日本語』については、カイロ日本文化センターが行っている中東日本語教師オンライン研修にて紹介されていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

教科書の理念同様、日本語専攻課程ではできるだけ多くの機会を利用して、学外に出て日本文化を紹介したり、日本人と交流したりするようにしているのですが、ここではその一つを簡単にご紹介します。

日本文化紹介イベント「第一回日本文化の日」

5月6日に、キング・サウード大学言語翻訳学部にて日本文化紹介イベント「第一回日本文化の日」が開催されました。これは言語翻訳学部にある10言語の専攻課程がそれぞれ行う一連の文化イベントの一つであり、新入生の勧誘と専攻課程の宣伝を兼ねた一大行事でした。

どの言語専攻課程も力を入れており、上級生によるスピーチや朗読などを行っていました。対して日本語専攻課程は、2012年度の記事に書かれているとおり昨年まで新入生を受け入れておらず、しかもその2年生は全員日本に留学中なので、学習歴1年足らずの1年生しかいません。

しかし、日本語能力のレベルは低くとも、一生懸命練習した成果が出たようで、当日は大盛況。学部内会議でも日本語専攻のものが断然高く評価されたのでした。

日本とサウジアラビアの教育制度に関する学び

学生たちが特に活躍したのはプログラム後半の日本文化体験でしたが、事後感想文によると前半でも良い学びがあったようです。

日サの教育制度について話し合う参加者たちの写真
日サの教育制度について話し合う参加者たち

プログラム前半はディスカッションの時間で、Web JapanJapan Video Topicsにある日本の教育制度についての動画を基に、サウジと日本の教育制度の共通点と相違点に関して話し合うものでした。主にアラビア語が使われましたが、日本人参加者から出た質問に対しては英語でも活発な意見交換が行われました。

学生たちもそうした熱気に触発されて、自らの受けてきた初等中等教育について改めて考え直す契機となったようです。「給食当番や掃除など、生徒自身が仕事を分担する点は見習うべきだ」といった意見や「宗教教育はどうなっているのか」といった感想などがありました。

日本大使館や日本人コミュニティからの協力

この文化イベントでは、広く学外からの協力を得ることができたのも有り難いことでした。在サウジアラビア日本国大使館広報文化班からは法被や書道セットを貸していただき、ポスターや折り紙を頂戴しましたし、他にも中東協力センター派遣の方々など日本人が9名も応援に来てくださいました。そうした協力に関しても感謝の気持ちを新たにしています。

普段の授業はもちろんのこと、こうしたイベントでも学生たちは多くを学んでいっているようです。今後も、素晴らしい学生たちと共に学びながら、専門家として出来る限りの支援をしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
King Saud University
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
キング・サウード大学では1994年に日本語講座が開始された。1998年に開設された日本語専攻課程では、日本語学習を通じた全般的な異文化理解教育に止まらず、通訳や翻訳といった実務的かつ高度な運用能力を育成すべく、コースがデザインされている。また、湾岸諸国で唯一、日本語専攻の学士号が取得できる教育機関であることから、湾岸諸国、ひいてはアラブ諸国における日本語教育の中核を担う役割を期待されている。専門家は日本語講座での授業担当、カリキュラム・教材作成に対する支援、現地教師に対する助言などを行う。
所在地 P.O.Box 87907, Riyadh 11652, Kingdom of Saudi Arabia
国際交流基金からの派遣者数 専門家: 1名
日本語講座の所属学部、
学科名称
言語翻訳学部 近代言語学科 日本語専攻課程
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1994年
国際交流基金からの派遣開始年 1993年
コース種別
専攻
現地教授スタッフ
常勤3名 (エジプト人2名、サウジ人1名)
学生の履修状況
履修者の内訳   主専攻で各年生5名程度
学習の主な動機 日本への憧れ、アニメ、留学、日系企業への就職
卒業後の主な進路 日系企業や現地企業への就職、大使館勤務、留学
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N2を受験可能な程度
日本への留学人数 毎年5名程度

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