世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語教育学の理論と実践をつなぐ

国際交流基金北京日本文化センター
平田好・清水美帆・小川佳子

2016年3月26日、北京。春を告げる木蓮が青空のもとに満開の日。『日本語教育基礎理論と実践シリーズ叢書』全巻刊行記念「日本語教育学の理論と実践をつなぐ」国際シンポジウムが開催されました。中国では近年、日本学・日本語関連の大規模なシンポジウムが多く開催されていますが、日本語教育学に焦点をおいて議論する場は限られています。そのようななか、国際交流基金北京日本文化センターの呼びかけにより、日本語教育学を牽引する研究者・教育実践者が高等教育出版社のホールで一堂に会しました。

叢書編者とシンポジウム主催者の画像
叢書編者とシンポジウム主催者

中国教育部(日本の文部科学省に相当する)の直轄出版社である高等教育出版社は、名前の通り高等教育機関で使用される教科書を中心として多くの出版物を発行しています。国際交流基金との協力関係においては、日本語教材の制作助成のみならず、2006年より毎年、全国大学日本語教師研修会を共催しています。そして、2013年に開始した共同企画が『日本語教育基礎理論と実践シリーズ叢書』の出版でした。

すでに2015年度報告したように、この叢書は中国で初めての日本語教育学分野の概論シリーズです。2014年は『協働学習理論と実践』(池田玲子・舘岡洋子編)に始まり、『日本語学と日本語教育』(曹大峰編)、『日本語教育の研究方法と応用』(舘岡洋子・于康編)を刊行しました。続いて2015年には『第二言語習得研究と日本語教育』(横山紀子編)、『日本語教授法の理論と実践』(林洪編)、『教師・授業・学習者と日本語教育』(冷麗敏編)、『異文化理解と日本語教育』(趙華敏編)の4点が刊行されて、2016年2月の『中日対照研究と日本語教育』(張麟声編)が8巻目となりました。(各巻名称は中国語ですが、本報告では便宜上、日本語にしました)

さて、国際シンポジウムの準備は、2015年秋より始まりました。叢書監修者との企画会議、講演者への打診、講演内容の調整、そして研究発表の募集、参加者募集、予稿集の編集と続きました。開催が年度末ということもあり、ご多用な先生方のお時間をいただけるかと心配もしましたが、「日本語教育学の理論と実践をつなぐ」というテーマのもとに、9名の編者と執筆者に出講を快諾いただきました。また「日本語教育に関係し、かつ中国の日本語教育に貢献しうる、オリジナリティのある未発表の研究発表」を一般公募して日本語教育学実践研修会の優秀レポートとあわせて分科会発表を行うこと、招聘講師より研究発表に対する講評をいただくことも決まりました。2016年1月より広報を開始して、研究発表申込と参加申込は中国各地だけでなく日本からも届き、開催前日まで問い合わせが相次ぎました。

基調講演の会場風景の画像
基調講演の会場風景

そして3月26日、シンポジウム第1日目を迎えました。午前は、開幕式に続いて基調講演が行われました。野田尚史教授(国立国語研究所)は「日本語教育のための文法理論」を具体例とともに紹介し「これからの日本語教育学をさらに発展させるためには実践を元にして理論を作る方向も考えていかなければならない」とお話されました。また舘岡洋子教授(早稲田大学)は、ピア・リーディングを事例として「実践」と「研究」の関係について講演され、実践研究の重要性を指摘されました。そして午後は、監修者である曹大峰教授(北京日本学研究センター)による叢書の企画理念と方針についての講演、その後は各巻の特色と課題について編者8名が次々に登壇されました。そしてパネルディスカッションでは、中国における日本語教育学の発展、特に実践研究の推進について活発に議論が行われました。懇親会会場でも講師への質疑はもちろんのこと、研究及び教育実践についての意見交換が続き、中締めのあとも議論に夢中の方々が多かったことが印象的でした。

明くる第2日目(3月27日)は、まずホールにて日本語教育学実践研修会(北京日本学研究センター北京日本文化センター共催)の趣旨及び中国における実践研究について朱桂栄准教授(北京日本学研究センター)にお話いただいた後に、4つの分科会会場に分かれ、一般公募による研究11本、日本語教育学実践研修会の優秀レポート5本が発表されました。各発表のあとには講評が行われ、また参加者各自の教育現場に引き寄せた質問や情報提供が相次いでいました。そして、再度ホールに集まり、各会場での研究発表及び議論を共有する総括会を経て、閉幕式となりました。

参加者からは「先生方の講演も研究発表も刺激的で、これからの教育実践へ意欲が湧いてきた」「日頃かかえている疑問や悩みの解決につながった」「分科会で研究発表に対して丁寧な指導をいただき感銘した。これからも授業改善を積極的にすすめたい」「平易な言葉で記述され再現可能な実践レポートはとても参考になった」などの声が寄せられました。

今後は、各種の日本語教師研修を通じて『日本語教育基礎理論と実践シリーズ叢書』の活用・普及を講じるとともに、日本語教育学の発展につながる研究発表の場をいかに設けていくかも検討予定です。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Beijing
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
中国の日本語教育事情についての情報収集のほか、中国各地で教師研修会を実施し、カリキュラム・教材・教授法など日本語教師に対する助言・支援などの活動を行っている。また、教師会など各地の教師の自主研修の奨励、教師間のネットワークの形成への促進活動も実施している。教師研修会には、全国大学日本語教師研修会、全国中等日本語教師研修会、日本語教育学実践研修会、全国高校生プロジェクトワーク/観察型教師研修会、地域巡回教師研修会などがある。一般成人及び大学生を対象に『まるごと 日本のことばと文化』を使用した日本語講座も開講している。HP以外にSNSを活用して情報発信している。
所在地 #301, 3F, SK Tower Beijing, No.6 Jia Jianguomenwai Avenue, Chaoyang Beijing, CHINA, 100022
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:2名
国際交流基金からの派遣開始年 1999年
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